日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜

橘しづき

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たくさんの味方

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「というわけで、二人は大変な仲間割れをしたんです」

 私と玲は言葉を失った。恐ろしい、あんなに仲良さそうにくっついていた二人が、つかみ合いの喧嘩だなんて。そりゃどこかのホラー映画よりよっぽど怖い。

 だが、玲は少しして小さく笑っていた。あまり笑い事じゃないと思うのだが、まあ彼の気持ちも分かるので、咎めることはしなかった。

 圭吾さんはため息を吐く。

「ここで問題となったのが、金城家も黙ってなかった、ということです。娘の婚約者が勝手に結婚したという経緯もある中で、今度は娘が暴力を振るわれてしまった。親としては黙っていない。あそこは結構な親ばかですからね。娘の素行調査結果も聞いてたまげたけど、やはり可愛い娘が傷だらけになって帰ってきた、ということの方が大事。親しくしていた二階堂と金城家に、ここで亀裂が入ってしまった」

 まさか嫁(候補)と姑(予定)が揉めたことで、家をも巻き込んだ大騒動になるとは。でもなるほど、和人が私に接触してきたのはメロンの独断で、マミーは関わってなかったのか。まあ、リスクがあることは、バレると二階堂に関わるから……という理由だそうだが、腐っている度合いはやはりメロンの方が上か。

 玲が言う。

「それは俺もぜひ見たかったな、圭吾が羨ましい。てかお前、わざと数分止めに入らなかったんだろ」

 玲が問うと、圭吾さんはにこりと笑っただけで答えなかった。

 そのまま彼は話を続ける。

「これには、普段から奥様に頭が上がらない社長もご立腹です。親しくしてきた金城家と揉め事だなんて。でも先に謝ってしまえば下手に出ることにもなるし、あちらにも非はあるので、動けずにいます。
 さて、奥様と楓さんのおかげで金城家ともぎすぎすしてしまった二階堂。そこにさらに、痛い出来事があります。これが、三つ目」

 彼が三本の指を立てる。そのまま私を見た。

「舞香さんと玲さんが二階堂から追い出されてしまったことを知った人から、奥様達に小さくない苦言がぶつけられた。それは吉岡家と伊集院家が筆頭になって」

 え、と口から声が漏れた。倫子さんのお家と、伊集院様が?

 玲も驚いた顔で私を見た。

「吉岡と、伊集院家まで?」

「ええ。まあ、吉岡は正直そこまで大きな相手ではないですが、それを吉岡も分かっていたんでしょう。伊集院家と一緒になってきたので、あちらも賢いと言えます。吉岡はともかく、伊集院家は敵に回したくない、とくに今の二階堂は金城家とごたついているので、なおさらそう思うでしょう。
 ご存知、伊集院家の奥様は顔が広く人脈もある。あの人の意見はみんなが賛同しますからね、色んな家から責められてるようなものです。ご両親は慌ててしまった、そしてついに折れた、というわけです」

 驚きを隠せなかった。倫子さんとは仲良くしていたし、伊集院の奥様とも親しくしていたが、会社を巻き込んで二階堂に苦言を言ってくるなんて、考えられなかったのだ。

 その上、いくつか疑問もある。

「でも、私まだ二人に二階堂を出た事言ってませんよ。伊集院先生の華道教室は確かに辞めることは伝えましたが、理由は言わなかったし……なんで二人とも知ってたんでしょう? しかも、追い出されたわけじゃないのに」

 そう、楓さんは知らなかったのに、なぜ二人が知っていたのだろう。風のウワサってやつだろうか?

 だがその質問をしたとき、圭吾さんは何も答えず、ただ優しく微笑んでいた。私が首を傾げていると、隣にいた玲がいった。

「お前か、圭吾」

「え!?」

「こうなることを見越して、吉岡家と伊集院家に情報を撒いたのか。追い出された、と少し情報操作して」

 目を見開いて圭吾さんを見る。彼はニコニコ顔のままだ。

「でも本当に動くとは思ってませんでしたよ。だって、結婚の話はプライベートはことですからね。そこに口を挟んでくるなんて、よっぽと舞香さんを慕っていたんですよ。少しでも揉めてくれればいいなと思ったんですが、まさかここまで大きくなるとはね」

 肩をすくめて彼は言った。私は呆然として圭吾さんを見る。

 そういえば、玲や、あの畑山さんまでも圭吾さんには信頼を置いているようだったので、彼も十分優秀で凄い人なんだろう。可愛らしい容姿をしているけど、敵に回したら怖いタイプだったのかもしれない。

 圭吾さんはにやりと笑う。

「以上、社長と奥様がこの一週間、これほどの問題に見舞われ、辟易しています。色々お二人で考えたそうですが、お二人に元に戻ってもらう方が早く、実害も小さいと考えたんでしょう。まあ、少しは、玲さんを幼少期の頃から放っておいた罪悪感もあったみたいですよ。あの人たちも人間の心が残ってたんですね」

「それでこの手紙、か」

「書いてあるように、舞香さんの結婚は認める、とのことです」

 なるほど、確かに色々問題が起こってしまっているようだ。このまま私と玲を二階堂に呼び戻すとは。玲は苦々しい顔で言った。

「むしがいいな。困ったらすぐに音を上げて助けを呼ぶとか。今更なんだよ。もっと困ればいい」

 だが、圭吾さんがすぐに言った。

「気持ちは分かります、玲さん。でも、僕はこれは決して悪い話じゃないと思ってます。これまでお二人は頑張ってきたのに、二階堂という大きな存在を手放すのは勿体ないと思ってました。今戻れば主導権は玲さんが握れます。捨てることはいつでも出来るので、一度帰ってみてもいいんじゃないかと思うんです。これは、友達としての意見でもある」

 圭吾さんの話も一理あると思ったのか、玲が黙って考え込む。

 玲の言い分も痛いほどわかる。あの人達は改心したというより、状況的に困ったから玲に助けを求めただけ。自分勝手だしもっと困らせたいと思う気持ちは当然だと思う。

 だが圭吾さんのいうこともわかる。玲は二階堂を継ぐために頑張ってきたのだから、もう一回くらいチャレンジしてもいいんじゃないかとも思う。
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