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手のひら返し
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唖然とした顔で、玲が圭吾さんに尋ねた。
「どういう風の吹き回しだ? 何か企んでるんだろ」
疑心暗鬼の顔で玲がそう言うと、圭吾さんがにっこりと笑った。
「それがですね、これはたくらみでもなんでもなく、社長と奥様が本当に心から思っている手紙と見て間違いないです」
「……なんでこんなことになってる? あいつらが言い出すわけがないセリフばっかりだ」
玲は顔を歪め、片手で手紙をひらひらと揺らす。圭吾さんは笑って言った。
「玲さんがご両親に絶縁宣言をしたあとの事、僕はしっかり見てましたよ。お話しましょう」
そう言って、圭吾さんは私たちに三本の指を立てた。
「三つ。彼らがプライドすら捨てて玲さんに許しを乞いだした理由が、大きく分けて三つあります。まず一つ目は、玲さんが中心となって進めていたあの大きなプロジェクトが、あなたが突然いなくなってしまったことにより、大混乱を招いています」
私は玲の顔を見上げる。彼は心当たりがあったらしく、ああ、と小さく呟いた。圭吾さんは私に説明するように言ってくれる。
「玲さんは二階堂の後継ぎとしてとても優秀な方でした。そのために幼い頃から教育されてましたしね。経営の才能もあったので、若くてもぐいぐい会社を引っ張っていました。ここ最近、大きなプロジェクトを一任され順調に進めて行ってたんです。玲さんがいなくなり、混乱しているんです」
そういえば、畑山さんも、玲はとても頭がよくて優秀だった、と何度も言っていたっけ。普段の奴を見るに信じられないのだが、本当なのだろう。仕事は出来る男だったのか。
圭吾さんはニヤリと笑う。
「っていうのを、玲さんなら分かってるはずですよ」
「小さな仕返しだ。まあ混乱はするだろうけど、何とかなるだろ」
「社長が必死に何とかしよう、としている段階です。これが一つ目」
圭吾さんがにやりと笑った。
「次に二つ目。奥様と楓さんの仲間割れ」
「え!!?」
私は大きな声を出してしまった。そんなこと、絶対にないと思っていた。あれだけ息ピッタリだった二人が、今更仲間割れだなんて、どうしたのだ。手を合わせて私を陥れたくせに。
圭吾さんは遠い目をしながら説明してくれた。
玲に絶縁宣言を受けたあと、意外にもマミーは楓さんの素行調査を依頼したらしい。一応、あんな人にも良心が僅かにあったのか。最後の玲の言葉を聞いて、やっとメロンに疑いの目を向けたのだ。
これがまた、結果がすごかったらしい。たった二、三日で、メロンが他の男と楽しんでいる決定的な証拠が取れてしまったとか。ちなみに男性三人とホテルに入っていったとのことで、私の想像を上回る奔放さ。
さらに、メロンにいじめられたという女性の証言や、使用人の証言などもすぐに取れてしまった。玲を好きだなんてことも全く嘘で、二階堂の嫁という座だけが欲しかったのだという本音も、簡単に揃った。こんなに簡単な素行調査も中々ない、と言われたそうだ。
結果を知り、マミーは卒倒。
圭吾さん曰く、玲に基本無関心ではあったものの、彼女なりに『二階堂玲の嫁として相応しい女性』という概念はあったそうだ。彼女の中では、楓さんは美人で金城家のお嬢様。明るく気が利く。そしてそれまでずっと、玲を慕っていると言っていた楓さんの言葉を鵜呑みにしてきたらしい。
マミーは楓さんを呼び出した。そして、これは一体どういう事なの、と詰め寄ったそうな。
『何かの間違いですお義母さま。きっと舞香さんが手を回したんです』
と目に涙を浮かべてうるうるしてるも、男たちと楽しそうにホテルに入っていく写真は、言い逃れ出来ないものだ。
『この写真はどう説明なさるの……』
『私によく似た人です』
『しらじらしい! ドッペルゲンガーとでもいうつもりですか! 玲はこんな尻軽との結婚が嫌だったんですね……これじゃあ、妊娠してもどこの男の子供か分からないじゃない! おかげで玲は二階堂を出て行ってしまったんですよ!』
玲が二階堂からいなくなったということは、まだ楓さんの耳には届いていないようだった。ぎょっとして、すごい形相で叫んだ。
『玲さんが出て行った? どういうことですか、じゃあ私との結婚はどうなるんですか!?』
『出来るわけないでしょうがああ! 会社も辞めたんですよ! それにこれを見る限り、あなた……舞香さんの元交際相手に無理やり襲わせたそうじゃない! 私はそんなことまでしろと言ってませんよ!』
『襲わせたなんて人聞きが悪いです! ちょっとキスさせて証拠を撮っただけです!』
『ちょっとキス、って! キスでも暴行罪になることがあるんですよ、それを仕向けたのが誰か世にばれたら、私にも迷惑が掛かると考えてわからなかったのこの女!』
『私は無我夢中で頑張っただけです!』
『あなたと結婚すれば金城家とも強く結ばれると思っていたけれど、どんな育て方をしたのあの二人は!』
『黙って聞いてればうるさいなくそババア! 玲さんと結婚するために媚売ってきたのに、息子一人説得させられなくて何が母親だあ!』
ついに二人はつかみ合いの喧嘩を始めてしまった。
それはそれは激しい喧嘩で、しばらく黙って観察していた圭吾さんが数分後止めに入るまで、叩くは髪を引っ張るわの大騒動。
『僕……女性のあんな凄いシーン見たの、初めてでした……ちびるかと思った』
圭吾さんはそう言った。
「どういう風の吹き回しだ? 何か企んでるんだろ」
疑心暗鬼の顔で玲がそう言うと、圭吾さんがにっこりと笑った。
「それがですね、これはたくらみでもなんでもなく、社長と奥様が本当に心から思っている手紙と見て間違いないです」
「……なんでこんなことになってる? あいつらが言い出すわけがないセリフばっかりだ」
玲は顔を歪め、片手で手紙をひらひらと揺らす。圭吾さんは笑って言った。
「玲さんがご両親に絶縁宣言をしたあとの事、僕はしっかり見てましたよ。お話しましょう」
そう言って、圭吾さんは私たちに三本の指を立てた。
「三つ。彼らがプライドすら捨てて玲さんに許しを乞いだした理由が、大きく分けて三つあります。まず一つ目は、玲さんが中心となって進めていたあの大きなプロジェクトが、あなたが突然いなくなってしまったことにより、大混乱を招いています」
私は玲の顔を見上げる。彼は心当たりがあったらしく、ああ、と小さく呟いた。圭吾さんは私に説明するように言ってくれる。
「玲さんは二階堂の後継ぎとしてとても優秀な方でした。そのために幼い頃から教育されてましたしね。経営の才能もあったので、若くてもぐいぐい会社を引っ張っていました。ここ最近、大きなプロジェクトを一任され順調に進めて行ってたんです。玲さんがいなくなり、混乱しているんです」
そういえば、畑山さんも、玲はとても頭がよくて優秀だった、と何度も言っていたっけ。普段の奴を見るに信じられないのだが、本当なのだろう。仕事は出来る男だったのか。
圭吾さんはニヤリと笑う。
「っていうのを、玲さんなら分かってるはずですよ」
「小さな仕返しだ。まあ混乱はするだろうけど、何とかなるだろ」
「社長が必死に何とかしよう、としている段階です。これが一つ目」
圭吾さんがにやりと笑った。
「次に二つ目。奥様と楓さんの仲間割れ」
「え!!?」
私は大きな声を出してしまった。そんなこと、絶対にないと思っていた。あれだけ息ピッタリだった二人が、今更仲間割れだなんて、どうしたのだ。手を合わせて私を陥れたくせに。
圭吾さんは遠い目をしながら説明してくれた。
玲に絶縁宣言を受けたあと、意外にもマミーは楓さんの素行調査を依頼したらしい。一応、あんな人にも良心が僅かにあったのか。最後の玲の言葉を聞いて、やっとメロンに疑いの目を向けたのだ。
これがまた、結果がすごかったらしい。たった二、三日で、メロンが他の男と楽しんでいる決定的な証拠が取れてしまったとか。ちなみに男性三人とホテルに入っていったとのことで、私の想像を上回る奔放さ。
さらに、メロンにいじめられたという女性の証言や、使用人の証言などもすぐに取れてしまった。玲を好きだなんてことも全く嘘で、二階堂の嫁という座だけが欲しかったのだという本音も、簡単に揃った。こんなに簡単な素行調査も中々ない、と言われたそうだ。
結果を知り、マミーは卒倒。
圭吾さん曰く、玲に基本無関心ではあったものの、彼女なりに『二階堂玲の嫁として相応しい女性』という概念はあったそうだ。彼女の中では、楓さんは美人で金城家のお嬢様。明るく気が利く。そしてそれまでずっと、玲を慕っていると言っていた楓さんの言葉を鵜呑みにしてきたらしい。
マミーは楓さんを呼び出した。そして、これは一体どういう事なの、と詰め寄ったそうな。
『何かの間違いですお義母さま。きっと舞香さんが手を回したんです』
と目に涙を浮かべてうるうるしてるも、男たちと楽しそうにホテルに入っていく写真は、言い逃れ出来ないものだ。
『この写真はどう説明なさるの……』
『私によく似た人です』
『しらじらしい! ドッペルゲンガーとでもいうつもりですか! 玲はこんな尻軽との結婚が嫌だったんですね……これじゃあ、妊娠してもどこの男の子供か分からないじゃない! おかげで玲は二階堂を出て行ってしまったんですよ!』
玲が二階堂からいなくなったということは、まだ楓さんの耳には届いていないようだった。ぎょっとして、すごい形相で叫んだ。
『玲さんが出て行った? どういうことですか、じゃあ私との結婚はどうなるんですか!?』
『出来るわけないでしょうがああ! 会社も辞めたんですよ! それにこれを見る限り、あなた……舞香さんの元交際相手に無理やり襲わせたそうじゃない! 私はそんなことまでしろと言ってませんよ!』
『襲わせたなんて人聞きが悪いです! ちょっとキスさせて証拠を撮っただけです!』
『ちょっとキス、って! キスでも暴行罪になることがあるんですよ、それを仕向けたのが誰か世にばれたら、私にも迷惑が掛かると考えてわからなかったのこの女!』
『私は無我夢中で頑張っただけです!』
『あなたと結婚すれば金城家とも強く結ばれると思っていたけれど、どんな育て方をしたのあの二人は!』
『黙って聞いてればうるさいなくそババア! 玲さんと結婚するために媚売ってきたのに、息子一人説得させられなくて何が母親だあ!』
ついに二人はつかみ合いの喧嘩を始めてしまった。
それはそれは激しい喧嘩で、しばらく黙って観察していた圭吾さんが数分後止めに入るまで、叩くは髪を引っ張るわの大騒動。
『僕……女性のあんな凄いシーン見たの、初めてでした……ちびるかと思った』
圭吾さんはそう言った。
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