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言い逃れできない

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 頭が真っ白になる。相手が間違いなく親切心で言ったセリフではないと、分かり切っていた。

 父? 私の、あのクズ親父?

『残念ながらお母様は探し出せなくて。時間がかかるかもしれませんねえ……』

「……あの? なぜ、私の親なんかを」

『だって二階堂と繋がりが出来る方々ですよ。お会いしたいと思うのは当然ではないですか。お父様にコンタクトを取りました。まだこちらの名前は伏せたままでね。娘さんが結婚したから、その親ですとだけ名乗って……非常に驚いてましたよ。でもねえ、あちらのお父様は私たちに会うつもりはない、娘もそれを望んでるはずだって……』

「……そう、ですね、明るい家庭環境ではありませんでした、だから」

『娘に借金を肩代わりさせたから、って』

 目の前が真っ暗になる。

 クズはどこまでいってもクズと分かっていたが、なぜそんなことをペラペラ喋りやがった。せめて黙って消えていてくれればいい。どうしてどこまでも私の人生の邪魔をするんだ。

 ふふ、っと電話越しに笑い声が聞こえる。手が震えてくるのが分かった。

『不思議ですねえ。あなたは確かに看護師として真面目に働いていたみたいだけれど、弟の学費や生活費もある中で、大金を用意できるとは思えなかったの。それでね、もう少し見てみたんです。今弟さんは一人暮らしをしてらっしゃるけど、その前は随分と古いアパートに住んでらしたのね、いまにも崩れそうで、音も他の部屋に筒抜けになりそうな、酷い建物』

「……あの、そ、れは」

『いろんな方によくよくお話を伺ったらね、一日だけ、あなたの部屋からガラの悪い男たちの声が聞こえた、っていうんです。丸聞こえだった、ってね』

 玲が初めて私の家にやってきた日の事を思い出す。『どうでもいいけど、扉開けっ放しだよ』そう言って彼は中に入ってきた。そう、気が動転して、玄関を開けたままにしていたのは、私だった。

『その日と、あなた方二人の入籍日が同一なのはどう説明なさるの』

 時が止まった。終わりだ、とすら思った。

 私の事を調べられたようだが、借金のことはバレていないと思っていた。でも、この人が本気になれば、いとも簡単に私の人生が分かってしまうのだ。

 失踪してしまった父の行方も、たった一日来た借金取りの存在も。

 せめて父が口を滑らせなければ、借金の事はバレずに済んだかもしれないのに。

「……お義母さま、あの」

『正直に言ってください。あなた、玲に借金を肩代わりしてもらったんではなくて? 私は決して怒りません、親のせいで借金を背負うことになったあなたの境遇に酷く同情しているのです。その上弟もいるのに……そこに玲が現れて、肩代わりしたのでしょう。そしてその代償に、あなたとの結婚を提案したのでは? あの子は楓さんと合わないようだったから、他に結婚相手を探していたんですね。でも結局見つからず、お金を使ってあなたと結婚した』

 やけに優しい声色が逆に怖い。これなら、普段通り敵意を持って接してくれている方がずっといいと思った。

 憐れみを持ちながら、私にそんな話をしないでほしい。

『舞香さん。正直になりましょう。そうすれば、借金は私が肩代わりします。お金のために結婚したなんて、あなた自身もあまりに不幸です。まだお若いのだし。むしろ、息子がご迷惑をおかけしたお詫びに慰謝料をお渡しするわ。だから、本当の事を言って』

「……いえ、私は」

『それに……さすがのあなたも分かるでしょう? 二階堂の妻が、借金まみれだったなんてことが世に出回ればどんな目で見られるか。いいえ、これは二階堂じゃなくても、正直息子が結婚する相手としては苦言を言ってしまうのは当然でしょう」

 何も言葉は出なかった。向こうの言う通りだったからだ。

 私と玲は借金を肩代わりしてもらうことを条件に結婚した。私は三千万の借金を背負っていた女で、彼に雇われただけ。こんな関係がバレてしまっては、今までの生活を続けるのはあまりに難しい。

 楓さんとお義母さまは繋がっているだろう。和人のこともきっとお見通しだ。役割分担して調べ上げた内容を、それぞれ私に攻撃してきた。そんなところだと思う。

 何も言い返せない私に、満足げに彼女は言った。

『玲がご迷惑をおかけして本当にごめんなさい。今後のあなたへのフォローは私が責任をもってしっかり行います。明日、玲も帰ってくるでしょう? 一度みんなで話し合いませんか。そして、全員が幸せになれる方法を導き出すんです。いいお返事を、待っていますね』

 それだけ言うと、電話は切れた。耳にツーツーと高い音が流れてくる。スマホを耳から離す余裕もないくらい、私は呆然としていた。
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