48 / 78
情報収集はできた
しおりを挟む「お前の行動力には感服する」
玲は珍しく私をほめちぎった。私は手に持った写真をじっと眺めながら答える。
「てうゆうか倫子さんがほんといい人で。またお茶しましょうって約束しちゃった。ああいうのが理想」
「俺はあんまり会ったことないんだけど……まあ確かにおっとりした感じの人だったな。でも、まさか吉岡までもがうちの母親の回しものになってたりしないよな?」
不安そうに玲が言う。彼の疑り深さに少し笑い、私は持っていた写真を見せた。
「それはないね。これ、今までのお茶会の写真なんだって。なるべく早く見たいですよねって気遣ってくれて、お茶のあと吉岡さんの家まで一緒に行ったんだよね」
「え。お前家にお呼ばれまでしたの? まじで仲良しかよ」
「性格正反対なのに、なんか気が合うみたいでね。それで借りてきたのがこれら」
玲は私の手元を覗きこむ。そこには、確かに花がたくさん飾ってある庭で、女性たちが楽しそうに笑っている写真があった。マミーや楓さんが映っている場面もある。
「背後に用意された食事が映ってるでしょ? 倫子さんが言ってたみたいに、甘いものは何も用意されてないんだよね。甘いものが苦手って言うのは間違いないみたい。ほら、こっちは伊集院の奥さんが生け花してるシーン。花好きっていうのも、これまた確かな情報」
写真の中では、五十代半ばくらいの女性が生け花をしていた。真っ黒な髪を一つにまとめ上げ、凛とした佇まいの女性、これが伊集院薫さんだ。金持ちオーラが凄い。
玲は大きく息を吐いた。
「これ、何も知らずに行ってたら終わりだったな……」
「ほんとよ。苦手な食べ物を手土産に持ち、花の知識も何もない人間が、気に入られるわけないからね」
「あの二人はそうなることを願ってたみたいだけどな」
玲は腕を組んで頭を掻いた。
「とはいえ、花か。俺もさすがに生け花はそんなに詳しくないな。一応勉強はさせられたけど、基本的なことぐらいで」
「基本的なことが分かってるなら十分でしょ……私なんてタンポポとバラとチューリップぐらいしか知らないよ」
「桜も知ってるだろ」
「細かいなあ。とにかく花に関する知識が乏しいって言いたかっただけ」
私はじっと写真を眺める。色々な人を撮っているらしく、見たことない金持ちが大勢映っている。数年分はあるようで、写真の枚数は結構多い。色褪せて年季を感じるものもあった。
「ていうか、確かに昔の写真にはケーキとか映ってるなあ」
私はぽつんと呟いた。玲もそれをじっと見つめる。
色褪せた写真たちの中には、伊集院さんがケーキの乗ったお皿を持っているシーンもあった。顔立ちを見るに、最新の写真より若々しいので、数年は前だろう。もしかすると十年くらい経っているかもしれない。
やはり、昔は好きだったのに今は一切取らなくなったということか。来賓者にも出さなくなったのなら、見るのも嫌ということ? ケーキに親でも殺されたんか。
「ん? これって」
一枚の写真が目に留まる。伊集院さんが持ってるこれ、小さくてよく見えないけど……もしかして?
「あと一か月、畑山さんに生け花について学ぶしかねえな」
玲がそう言った。私は顔を上げて驚く。
「畑山さんって生け花もわかるの?」
「華道と茶道なら、詳しくはないが基本的なことは知ってる」
今更だが、畑山さんって何者なのだ? 頭いいし作法も詳しいし、色々凄すぎる。
だが玲は考え込む。
「とはいえ、さすがにそこまで詳しくはないみたいなんだな。こうなったらもっと詳しい講師を新たに見つけるか。その方がいいかもしれねえな、誰か信頼できる人間を探す必要があるな。変な奴に学んで、それが母親の回しもんだったりしたら大変だし」
「そ、そんなことってあるかな? 心配し過ぎじゃ」
「今回だって楓に嘘つかれてたんだろ。多分母親も知ってたはずだ。油断はならない」
確かに用心するに越したことはないか、と思う。私は再度写真を覗きこみ、じっと考え込んだ。
甘いものが苦手で、花が好きな奥さん。贈り物も花に関わる事がよし、か……。玲はふうと息を吐いて言った。
「まあ、まだ一か月以上ある。講師と、それから贈り物に何がいいかは徹底的に吟味しよう。影山さんのレッスンは続けつつも、誕生日会までは回数を減らして華道に回そう。圭吾にも言って探させる」
「ねえ、玲、私ちょっと思うことがあるんだけど」
私は思い切って、彼に相談することにした。頭の中に浮かび上がった仮説と、これからの自分の動きについて。玲は少し驚いたように、私の方を見ていた。
1
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
「番外編 相変わらずな日常」
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる
ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。
だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。
あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは……
幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!?
これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。
※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。
「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
軽はずみで切ない嘘の果て。【完結】
橘
恋愛
※注意※ 以前公開していた同名小説とは、設定、内容が変更されている点がございます。
私は、10年片思いをした人と結婚する。軽はずみで切ない嘘をついて――。
長い長い片思いのせいで、交際経験ゼロの29歳、柏原柚季。
地味で内気な性格から、もう新しい恋愛も結婚も諦めつつあった。
そんなとき、初めて知った彼の苦悩。
衝動のままに“結婚“を提案していた。
それは、本当の恋の苦しみを知る始まりだった。
*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる