日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜

橘しづき

文字の大きさ
上 下
42 / 78

凄くうれしい

しおりを挟む
「俺の……誕生日?」

「え、そうでしょ?」

「……忘れてた」

 ずっこけそうになるも、思いとどまる。両親にも祝ってもらえなかった誕生日は、彼にとって特別な日にならなかったのだろう。誕生日を忘れているなんて。

 圭吾さんが笑顔で言った。

「冷めないうちに食べましょう! 玲さん、お祝いですよ!」

「そうそう、ケーキも買ってあるんだよ、後でみんなで食べよう! 手洗ってきて!」

 私達二人が慌ただしく動き出す。そんな様子を、玲はふっと表情を緩めてみた。素直に手を洗いに行くと、テーブルに座り、しげしげと置かれた料理たちを見ている。私はドリンクを取り出し、乾杯用に人数分グラスも用意する。圭吾さんも手伝ってくれ、三人で食卓を囲んだ。

 それぞれグラスを手に持つと、私は明るい声で高々と言った。

「じゃ、玲、お誕生日おめでとうー!」

「おめでとうございます!」

 グラス同士が高い音を立ててぶつかる。未だ玲は慣れないのか、普段のペースにならないようだ。ちらりと圭吾さんを見て言う。

「圭吾、知ってたのか」

「当たり前ですよー。京香さんに色々相談されてたんで」

「相談……?」

「京香さん凄く頑張ってたんですよ。色々考えて準備して、その相談を受けてたんです」

 玲が驚いた顔でこちらを見たので、何だか恥ずかしくなってしまった。そりゃ悩んだりしたけど、圭吾さんは大げさな気がする。

「れ、玲はこだわり強そうだからさ、せっかく祝っても嫌がられたら困ると思って……」

「あ、ほら舞香さん、例の」

「あ、ああ!」

 私は慌てて隠しておいたプレゼントを手にする。小さな小包を、玲に差し出した。

「これ、この前の土曜日圭吾さんに選ぶの手伝ってもらった! だから、多分センス悪くないと思うよ!」

 玲は無言でそれを受け取った。そして私たちを交互に見る。

「二人でこれを?」

「あ、僕はちょっと助言しただけで、選んだのは舞香さんですよ」

「圭吾さんはケーキ買ってくれたの! 男からの贈り物は消耗品がいいとか言って」

 二人で笑う。玲はしばらく小包を見つめたあと、ゆっくり開封した。中はたいそうなものではない、ボールペンだ。

 いくつあっても困らないもの、と考えて、いいボールペンにした。仕事で必ず使うだろうし、センスがなくても失敗しないだろうと思ったのだ。私は恐々彼の顔を見る。

 じっとペンを眺めていた玲は、次の瞬間表情を緩ませた。目を細め、はにかんで笑う。その笑い方が普段とはまるで違って、子供のようで、私はついドキリとした。

「そっか……俺の誕生日か……ありがとう。凄く嬉しい」

 そんなストレートなお礼の言葉が飛び出して、予想外の事に固まってしまった。そんな素直に喜ぶとは思っていなかった。いつも口が悪くてデリカシーもない男が、こんな顔をするなんて。

 ドキドキしてしまった心臓を誤魔化すように、私は慌てて言った。

「じゃ、じゃあ食べよう! たくさん作ったから、頑張ってね!」

 私の子供向け料理も何か言われるかと思っていたが、ちらりと見れば、玲は顔を綻ばせてハンバーグに手を伸ばしていた。これまた予想外だ、少しくらい憎まれ口をたたかれるかと思っていたのに。『栄養バランス考えろ』とか、『子供かよ』とか。

 私が圭吾さんをちらりと見ると、彼は『言ったでしょ?』と言わんばかりに私を見た。

 喜んで次から次へと食べる玲を見て、なんだか胸のあたりが温かくなる。私はにやける顔を隠すように、オムライスを頬ばった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 「番外編 相変わらずな日常」 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

軽はずみで切ない嘘の果て。【完結】

恋愛
※注意※ 以前公開していた同名小説とは、設定、内容が変更されている点がございます。 私は、10年片思いをした人と結婚する。軽はずみで切ない嘘をついて――。 長い長い片思いのせいで、交際経験ゼロの29歳、柏原柚季。 地味で内気な性格から、もう新しい恋愛も結婚も諦めつつあった。 そんなとき、初めて知った彼の苦悩。 衝動のままに“結婚“を提案していた。 それは、本当の恋の苦しみを知る始まりだった。 *・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

処理中です...