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一年後のお楽しみ
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圭吾さんは小さく笑って言った。
「玲さんは幸せ者ですね、こんなに悩んでくれる人がいて」
「え? い、いや一応お世話にはなってるし」
「僕ははじめ反対でした。玲さんの案は無茶苦茶だったし、舞香さんが苦労するのは目に見えていたから。でも今は、息ピッタリのお二人を見て、玲さんは見る目があったなって思ったんです。舞香さんは根性があるし、この短期間で凄い成長を遂げている。玲さんの計画は、正しかった」
確かに初めて圭吾さんに会った時、彼は戸惑っていた。それが普通の人間の反応だろう。私と玲の関係は本当に特殊で、理解しがたいものだ。
思った以上に玲の親は強敵だし、覚えることは多いし、大変だ。でも案外楽しんでいる自分がいるのも事実だ。それはやはり、玲があのパーティーで私を力いっぱい褒めてくれたのが大きいと思っている。私はあの言葉で、自信を身に着けたのだ。
「……圭吾さんは、玲と楓さんの結婚話が出た時、どう思いました?」
「ついに来たか、という感じです。玲さんのご両親は政略結婚をさせるだろうなと思っていました。けど相手があの方だったのは本当に哀れに思いました。玲さんが反発するのも当然だと思っています。でも想像以上の反発でした。それまで玲さんは、どちらかと言えば大人しくご両親に従っていたことが多いので」
「……そうなんですか」
私は少し俯く。二階堂の後継ぎとして育てられ、二階堂のために結婚までさせられる。一般人の私からすれば考えられない人生だ。金持ちは金持ちなりに、辛いことが多いようだ。
すると、ふと自分に影が落ちたことに気づく。視線を上げてみると、圭吾さんが私の顔を覗きこんでいた。近くに綺麗な顔があり、驚きで固まってしまう。
「でもよかった。彼を救える人が現れて。……正直、ちょっと玲さんが羨ましいです」
「……え、い、いえ私なんて」
「舞香さん、成功したら、本当に終わっちゃうんですか?」
どきりと心臓が鳴る。そう、玲との話では一年との約束だ。その間に、私はご両親に認められる完璧な嫁になる。そして離婚して、また自由を手に入れる。前の職場も戻るつもりだから休職扱いだし、勇太とまた暮らす気でいる。
ああ、でもそうか、一年後には玲と離婚するんだっけ……。
「そ、そういう話だったので」
「本当に? 元の生活に戻るつもりなんですか?」
「そういう約束です」
少し俯きながら答えた。多分、こんな金持ち生活は一年で終わりをつげ、私はまた平凡な毎日に戻るのだ。勇太が進学して就職までしてしまえば、きっと懐に余裕が出てくるだろう。そしたらゆっくりやりたいことをやってもいい。
でもやりたいことってなんだろう? 玲と離れて元の生活に戻って、私は何がしたいんだろう?
「そっか。じゃあ、もし本当にそうなったら、玲さんは思った以上にポンコツってことだ」
「え!? 玲がポンコツって、プライベートはポンコツなのは知ってますけど急にどうして?」
「あはは、舞香さん本当に面白いですね」
圭吾さんはお腹を抱えてゲラゲラ笑った。だが、すぐに静かになり、私の方を覗き込むようにして見る。
「一年後、教えてあげます。その時ついでに、僕も頑張ってみようかと思います」
「何をですか」
私が聞くと、彼はようやく顔を離した。そして人差指を口元に当て、微笑んで見せる。
「まあ、一年後のお楽しみということで」
「玲さんは幸せ者ですね、こんなに悩んでくれる人がいて」
「え? い、いや一応お世話にはなってるし」
「僕ははじめ反対でした。玲さんの案は無茶苦茶だったし、舞香さんが苦労するのは目に見えていたから。でも今は、息ピッタリのお二人を見て、玲さんは見る目があったなって思ったんです。舞香さんは根性があるし、この短期間で凄い成長を遂げている。玲さんの計画は、正しかった」
確かに初めて圭吾さんに会った時、彼は戸惑っていた。それが普通の人間の反応だろう。私と玲の関係は本当に特殊で、理解しがたいものだ。
思った以上に玲の親は強敵だし、覚えることは多いし、大変だ。でも案外楽しんでいる自分がいるのも事実だ。それはやはり、玲があのパーティーで私を力いっぱい褒めてくれたのが大きいと思っている。私はあの言葉で、自信を身に着けたのだ。
「……圭吾さんは、玲と楓さんの結婚話が出た時、どう思いました?」
「ついに来たか、という感じです。玲さんのご両親は政略結婚をさせるだろうなと思っていました。けど相手があの方だったのは本当に哀れに思いました。玲さんが反発するのも当然だと思っています。でも想像以上の反発でした。それまで玲さんは、どちらかと言えば大人しくご両親に従っていたことが多いので」
「……そうなんですか」
私は少し俯く。二階堂の後継ぎとして育てられ、二階堂のために結婚までさせられる。一般人の私からすれば考えられない人生だ。金持ちは金持ちなりに、辛いことが多いようだ。
すると、ふと自分に影が落ちたことに気づく。視線を上げてみると、圭吾さんが私の顔を覗きこんでいた。近くに綺麗な顔があり、驚きで固まってしまう。
「でもよかった。彼を救える人が現れて。……正直、ちょっと玲さんが羨ましいです」
「……え、い、いえ私なんて」
「舞香さん、成功したら、本当に終わっちゃうんですか?」
どきりと心臓が鳴る。そう、玲との話では一年との約束だ。その間に、私はご両親に認められる完璧な嫁になる。そして離婚して、また自由を手に入れる。前の職場も戻るつもりだから休職扱いだし、勇太とまた暮らす気でいる。
ああ、でもそうか、一年後には玲と離婚するんだっけ……。
「そ、そういう話だったので」
「本当に? 元の生活に戻るつもりなんですか?」
「そういう約束です」
少し俯きながら答えた。多分、こんな金持ち生活は一年で終わりをつげ、私はまた平凡な毎日に戻るのだ。勇太が進学して就職までしてしまえば、きっと懐に余裕が出てくるだろう。そしたらゆっくりやりたいことをやってもいい。
でもやりたいことってなんだろう? 玲と離れて元の生活に戻って、私は何がしたいんだろう?
「そっか。じゃあ、もし本当にそうなったら、玲さんは思った以上にポンコツってことだ」
「え!? 玲がポンコツって、プライベートはポンコツなのは知ってますけど急にどうして?」
「あはは、舞香さん本当に面白いですね」
圭吾さんはお腹を抱えてゲラゲラ笑った。だが、すぐに静かになり、私の方を覗き込むようにして見る。
「一年後、教えてあげます。その時ついでに、僕も頑張ってみようかと思います」
「何をですか」
私が聞くと、彼はようやく顔を離した。そして人差指を口元に当て、微笑んで見せる。
「まあ、一年後のお楽しみということで」
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