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プレゼント
しおりを挟む休日、私は静かに家を出た。玲は出かける準備をしている私を横目でちらりとだけ見たが、後は何も言わなかった。やはり機嫌は悪いようで、行ってきますと言っても何も返ってはこなかった。
仕方ないのでそのまま彼を置いていき、私は圭吾さんと待ち合わせている場所へと向かった。玲とも以前歩いた街で、高級店もリーズナブルな店も並ぶ道だ。
約束の時間より少し早めに目的地に到着すると、圭吾さんはすでにその場で待っていた。なんとなく、彼は時間より前に待っているだろうなと思い自分も早く出たのだが、それでもやはり彼の方が早かった。
ふと、圭吾さんの私服姿は初めて見るなと気づく。そして、玲とはまた違った繊細さのある男前っぷりも再確認する。そう、彼はかっこいいというより、綺麗なのだ。
スラリとしたスタイルに、白い服がよく似合っている。全体的に色素が薄めの彼は、遠目から見ると日本人ぽくない。
「お待たせしました!」
私が駆け寄ると、彼がこちらを見る。ニコリと笑って言った。
「今来たところです」
「せっかくの休日にすみません、こんなことで付き合ってもらっちゃって……」
「とんでもない。僕も久しぶりに玲さんの誕生日を祝えるの、ちょっと楽しみなんです」
そう彼は笑った。そういえば、畑山さんが子供の頃の誕生会には、圭吾さんもいたって言ってたっけ。本当に兄弟みたいに育ったんだろうな、と想像する。
私たちは並んで歩き出した。
「玲って一体何をあげれば喜びますかね? 全く想像つかなくて。だって服もアクセサリーも山ほどあるじゃないですか。私はブランドも疎いし」
「うーん、舞香さんを誘っといてなんですけど、きっとなんでも喜ぶと思うんですよね」
「えー! そんなことないですよ、私が選んだものなんて、『趣味が貧乏くさい』とか言ってくるんですよやつは!」
「あはは!」
圭吾さんが笑う。
「笑い事じゃないですよ。せっかくあげてもそんなふうに言われたら立ち直れませんもん」
「絶対に言わないと思いますよ。言いそうだけど、現実には言わない」
「ええ、言わないですか!?」
「賭けてもいいです。舞香さんから貰ったモノを、絶対に彼は貶しません」
彼はそうきっぱり断言した。その強い語尾が、なんとなく有無言わさない様子だったので、私は黙った。まあ、私の貧乏性は散々馬鹿にされてはきたけど、人から貰ったプレゼントに文句つけるようなことはしないのかな。言われてみればそうかもしれない。
圭吾さんに言われ、近くの店に入った。凄い高級店を案内されるかと思いきや、私でも知ってるそこそこリーズナブルなお店で、ここでいいのかと不信に思う。
でも彼はそのまま物を見始める。私も隣で服や小物を手に取ってみる。
「舞香さんが玲さんに似合うな、と思うものをそのままあげればそれでいいと思います」
「はあ……こんな安物でもいいんですかね?」
「いいんですよ、それで」
首を傾げながら色々と見る。まあ、玲は口に似合わず顔は結構いい顔をしているので、なんでも似合うと言えば似合うのだ。そんな中でも贈りたいもの、とは何だろう。
すでにたくさんの物を持ってるし、何個かあっても困らない物がいいだろうな。ううん、難しい。
「そうそう、あと、当日の食事とかどうしようかと思って。どっか美味しいお店の予約とかしなきゃなんですけど、いいところ知りませんか?」
「外食ですか? まあそれもいいとは思いますけど」
「え、家で食べるとか、私が作ったとして玲が食べると思います?」
私は笑い半分で言った。小さなころから金持ちでいい物を食べている玲が、私の作る貧乏飯なんて口に合うわけがない。てっきり圭吾さんも確かに、と笑ってくれるかと思いきや、きょとんとした顔でこちらを見た。
「多分大喜びで食べますよ」
「……えっ」
「玲さんは色々不器用だから上手く喜べないと思いますが、多分にやにやして笑いを抑えきれない顔で食べるところが想像つきます」
彼は優しく微笑んでそう言った。私はといえば、そんな想像なんてまるで出来ず、眉を下げて困り果てる。玲が私の手料理で大喜びなんて、するはずないと思う。
別に作るのはいい。それなりに料理はしてきたし、玲の家は立派なキッチンもある。でも私が作る物は庶民的なものばかりで、手が込んだものとかまでは作れない。
でも、玲の事を子供の頃から知ってる圭吾さんが断言してしまうと、そうなのかもしれないと思ってしまう。いやでも私が玲に手料理を? ううん、やっぱり迷う。
「迷いますねえー、こんなに何していいか分からない誕生日も初めてですよ」
近くの靴下を見ながらため息をついた。あ、靴下なら何足あっても困らないんじゃない? 誕生日に靴下って笑えるけど。
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