日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜

橘しづき

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次はお食事

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 三日後。

 畑山さんに勉強を詰め込まれて頭がパンクしそうな私の元に、玲が何かを持って帰ってきた。『お前に』と差し出してきた紙袋はブランドもので、てっきりまた服か小物を買ってきたのだと思った。

 だが開いてみると違った。上品なストールと共に入っていたのは、白い封筒だった。中身を開いてみると、丁寧な文字でぎっしり文が書いてあった。

 送り主は、あの喉にブドウを詰まらせた少女の母親のようだった。あの後女の子は無事回復していること、命を助けてくれて本当に感謝していると、と書かれていたのだ。そして、私と玲の結婚を心から応援する、何かあれば力にあるから連絡をしてほしいとあった。読んですぐに、私は変な声をあげながら立ち上がり、

「玲! こんなこと書いてある!!」

 便箋を震える手で玲に差し出した。彼は何が書いてあったのか大体予想していようで、にやりと笑った。

「相手は規模もそこそこある会社、吉岡だ。仲良くなっておいて損はない、味方は一人でも多い方が絶対にいい。色んな情報も手に入るしな」

「応援してますって言ってくれた!」

「お前が頑張ったところをちゃんと見てる人たちもいたって言っただろ。あれ以降仕事相手に言われることもあった、周りの評価は上々だ。皆感心してた」

「よ、よかった……」

 私は便箋を握りしめた。大失敗だって思ってたけど、玲が言ったようにちゃんと見てる人もいたんだ。あの時咄嗟に体が動いてよかった、と思った。あの子も元気に過ごしているらしいし、いいことずくめではないか。

 あの時は冷たい視線につい怯えてしまったけれど、まだまだ大丈夫。私はこのまま頑張るしかない。
 
 私は強く拳を握りしめる。

「よし、明日からまた頑張る!」



 
 



 あのパーティーから一週間ちょっと。玲のご両親から連絡が来た。玲の実家で食事でもどうだ、というお誘いだった。

 ついにお呼ばれしたか、と緊張度が高まる。先日は挨拶だけだったが今度はそうもいかない。知識もそれなりに増えては来ているけれど、どこでどうボロが出るか分からない。相手もボロを出してやろうと意気込んでいるかもしれないし、かなり危険な勝負でもある。

 でも玲と同居を始めてもう三週間、食事の予定は来週なので一か月経過する頃だ。次のステップに進むのは必要なことだろう。

 食事会には勿論玲も参加するとのことで、フォローは入れると約束してくれたので、私は決意を固めて勉強に励んだ。畑山さんにも事情を話すと、彼女も気合十分に指導してくれた。つまり、スパルタに磨きがかかったということだ。私は死んだ。

 そしてついに、食事会当日を迎えることとなる。




「お前この前うちの親を見てどう思った」

 圭吾さんが運転する車の中で、隣の玲が尋ねてきた。私は着飾った格好を最終チェックしながら答えた。

「うーん、二人とも厳しそうだけど、どちらかと言えばお義母さんの方が厄介そうかな。お義母さんを何とかさせたら、多分お義父さんもなんとかなりそう」

「はは、ご名答」

 玲は頷く。

「思ってたけどお前案外洞察力鋭いのな、やっぱり職業上そうなるのか」

「案外って何よ」

「その通りだ、多分父親は、金城と結婚すればそりゃ会社は利益があるからありがたいけど、そこまでこだわってるつもりはないと思う。まあ、どうでもいいんだろ。だが母は必ず金城の娘と結婚させたいという意思が強く、それに従ってるだけだな。つまり母親を何とかしないと俺たちは認められない」

「女の敵は女っていうわけね。そっちの方が厄介なんだなあー」

 私はため息をついた。あのお義母さん、手強そうだった。見るからに厳格そうだったし、頑固そうだ。自分の意見をひっくり返すことを負けに感じる人間とは多いもので、恐らくそのタイプ。

 考えつつ玲に尋ねた。

「楓さんはご両親に気に入られてたんだよね? ぶりっ子に騙されてたって」

「母親とは仲良かったみたいだな、女こそあのぶりっ子に気が付きそうなもんだが、性格悪い同士気が合うのかもしれない」

「ふーん、ねえお義母さんが気に入る嫁ってどんな感じだと思う? ニコニコ穏やか系、さばさば闘う系、色々あるけど」

「そうだな……楓はどちらかというとニコニコ言うことを聞いて相手をおだてるタイプだった」

「じゃあそっちで攻めた方がいいのかなあ」

「いや、お前はそっちじゃだめだ」

 きっぱり言われたので驚いて隣を見る。玲は考え込みつつ言った。

「楓と同じようなキャラしても二番煎じでインパクトはないし楓を越えられないだろう。そもそもお前はそんなキャラじゃない」

「じゃあどうするの?」

「いっそ思いきり戦って母親に勝て」

 驚きで隣を二度見してしまった。戦え、っていうの? 元々貧乏で教養もなかった人間に、二階堂の奥様と戦えって?

 ずっと黙って聞いていた圭吾さんが口を開く。

「あの奥様と戦え、っていうのも中々酷なことでは」

「なんのために舞香を選んだと思ってる。気が強くてどんな時も負けずガッツがあるところを見込んだんだ。楓みたいなぶりっ子ニコニコでいいわけがない、そんなのそこいらの女と変わんないしな。今まで出会ったことがない女として親たちを驚かせ、納得させるんだ」

 自信満々に言ってくれるが、こちらは戸惑いでいっぱいである。だがまあ、玲の言うことは一理あるし、私も相手をおだててヨイショしながら気に入られるなんて性に合っていない。とはいえ、戦う相手が急にラスボスだもんな……せめてレベル上げさせてくれよ。
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