日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜

橘しづき

文字の大きさ
上 下
19 / 78

当日

しおりを挟む
 死に物狂いで一週間を超えた。

 勉強だけではなく身だしなみも必死に手入れをさせられた。パーティーに参加すると聞いた圭吾さんは白目をむきそうになりながら、私に多くの情報をくれた。参加するであろう人たちの顔と名前、会社についてまとめられた資料を無我夢中で覚え、夢にまでおっさんたちが出てきたくらいだ。

 まだ知識不足は否めない。だが、今回はパーティーだから誰も深い話はしてこないだろうから安心しろ、と玲は言っていた。恐らく挨拶ぐらいで時間の終わりが来るだろうと。

 あの横暴男はそう簡単に言ってくれるけど、私は胃が痛い。周りから固めたいという気持ちも分かるが、思えばそのやり方は玲のご両親から反感を買うだけだと思うからだ。自分たちに隠れて入籍、それをいろんな人の前で発表って……私ならぶちぎれる。

 だがもう今更なので、私は死に物狂いで残り一週間を過ごすしかなかったのだ。




「凄いですね、二週間前とは別人みたいですよ」

 圭吾さんが感嘆のため息を漏らした。

 決戦の日、私は全身を抜かりなく着飾った。玲に全て揃えて貰ったものを身に着け、髪の先まで手入れを尽くした。鏡の前に立ってみると、なるほど確かに二週間前の自分とはまるで違う。

 私は不安の声を漏らした。

「大丈夫ですかね」

「凄く綺麗ですよ! 舞香さんは元々お綺麗な人でしたけど、いで立ちやオーラが変わりました。化粧映えもしますね、正直驚いてます。これなら大丈夫ですよ!」

 ニコニコと優しく言ってくれる圭吾さんに、私はうっとりと拝んだ。この家で私を褒めてくれるのは圭吾さんだけだ。畑山さんは厳しいし玲は貧乳って馬鹿にしやがるから。

「私圭吾さんと結婚したかったです」

「あはは、玲さんに聞かれたら叱られます」

「圭吾さんの爪の垢を煎じて飲ませたい」

「大げさな」

 笑ってるけど、これ結構本心なんだけどなあ。圭吾さんってなんでも出来るし優しいし、横暴男とは正反対な人間だ。結婚するならこういう男がいい。自分は元カレは浮気するやつだったし、実際結婚したのは性格悪い男だし、男運がないと見た。

 いやいや、三千万。玲は三千万の恩があるんだから。

 ため息をついていると、リビングのドアが開かれた。スーツを着た玲が中に入ってくる。彼は私の存在に気が付くと、腕を組んで上から下まで観察する。やや緊張しながら評価を待った。

 玲は一つ頷く。

「まあ、合格点」

 胸を撫でおろす。まあ一流のエステや美容室に連れて行ってもらい、金のかかったドレスやアクセサリーを身にまとっているのだ、不合格では困る。

 だが多分、一番自分を変えたのはやはり畑山さんのレッスンだと思っている。立ち方一つでもここまで印象を変えるのかと驚いた。あの人の教えはさすが凄い。

「よし舞香、準備はいいよな。行くぞ」

「わ、わかった」

「圭吾に運転してもらうから。まず車に行くぞ」

 私は慌てて最後に洗面所に入り最終確認を行う。メイクは大丈夫だよね、持ち物もいいかな。髪型も崩れていない。

 あわあわする私に、圭吾さんがひょいっと顔を出す。そして笑顔で言ってくれた。

「大丈夫ですよ、本当に完璧ですから。自信持ってください」

 優しい笑みに、ほっと力が抜ける。これ、普通夫である玲の役割ではないのか。緊張してる妻をフォローしやがれや。私は頷き、ついに鏡の前から離れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

鳴宮鶉子
恋愛
Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...