日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜

橘しづき

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全身変身

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 げんなりしながらもう寝ようと思い寝室へ足を動かした時、ふとずっと使っていない自分のカバンが目に入った。奥底にしまいこんだままで、中にはスマホが入っている。あの日以来電源を入れていない。一応外出できるほどレベルアップしたということで、勇太に一通ラインでも送ってみるか。

 ブラコン上等の自分はウキウキしながら久しぶりに立ち上げた。悲しいことに勇太以外から連絡は来ていなかったが許容範囲だ。私は未読になっている勇太からのメッセージを読み、一瞬で目が点になった。

『引っ越し終わったよ、ありがと。姉ちゃん頑張れ』

「引っ越し??」

 日付を見れば二日前になっている。私は慌てて勇太に電話を掛けてみた。彼はすぐに出てくれる。

『もしもし? 姉ちゃん久しぶり!』

 弾んだ声に可愛い奴だなこいつ、と言いたいのを堪え、私はすぐに本題に取り掛かる。

「勇太元気そうで何より! ね、引っ越しってどういうこと?」

『え? 姉ちゃんが言ってくれたんじゃないの、家の引っ越し』

「言うって誰に」

『二階堂さんが来て全部手配してくれたけど。学生一人暮らしにはあまりに防犯上とか心配だって言って……てっきり姉ちゃんが心配してやってくれたのかと』

 初耳だ。勇太はあのボロアパートに住んでるのだとばかり思っていた。間違いなく、玲のしわざだろう。

『姉ちゃん? 大丈夫? 今何してんの?』

 心配そうに聞いてくる声に、何とか笑顔を返した。

「私はよくしてもらってるよ! こう、立派な淑女になるべく色々レッスンしてるっていうか」

『姉ちゃんが淑女? 嘘だろ』

「どういう意味だ」

『あはは、ちょっと面白くて。元気ならいいんだ、一人で背負わせちゃってごめん』

 やや声を小さくさせて言った彼に、慌てて否定した。

「勇太が謝ることじゃないでしょう! 案外楽しくやってるから安心して。勇太こそ体に気を付けて勉強頑張るんだよ」

 そのあともいくつか言葉を交わし、とりあえず電話を切った。勇太が元気そうなことにほっとし、しかしすぐにリビングに向かった。中に入ってみると、玲が一人ビールを飲んでいるところだった。ソファに腰かけ、何やらテレビを眺めている。

 そんな彼に近づき、私はすぐに尋ねた。

「勇太を引っ越しさせたってどういうこと!? 私に一言も相談なしに」

 そう言うと、彼はこちらを見ることもなくああ、と小さく声を漏らした。思い出したように言う。

「お前はレッスンに集中するのが仕事だろ。弟のことは本人にもちゃんと希望は聞いたんだ、無理やりやったわけじゃない」

「なんで急に?」

「考えて分からないか? 今にも崩れ落ちそうなボロに一人暮らしは男とはいえ危険だろうが。それに、お前と結婚したということが公になれば、俺の親は必ずお前の周辺を調べるぞ。そんな時、あの家はさすがにないだろ」

 前半は素直に嬉しかった、確かに勇太一人で暮らすのにあの家は心配もあるからだ。だが、後半はつまり周りからの目を気にして行動した、ということだ。やや複雑な気持ちになる。この男がいつも見た目やステータスを気にしていることは知っていたけれど、抜かりがないというかなんというか。

「言っておくが学生に相応しいレベルのマンションにしておいた。だが、セキュリティはそれなりにちゃんとしてある。これはお前の金じゃなく俺の金から出した、二階堂に関わることだからな。身の回りの世話をする人間を派遣しようかとしたが、それは弟に断られた。しっかりしてんなお前の弟」

「……まあ、結果として勇太がいい暮らし出来てるなら、まあいっか。ありがとう」

 そんな答えに辿り着き、私はお礼を言った。勉強にも集中できるだろうし、文句はない。玲はテレビを眺めながら適当な返事を返した。

 私はそんな彼を置いて、また寝室へ戻った。




 
 翌日、玲と二人で初めて外出した。

 あのワンピースを着て必死に着飾ったつもりだが、家を出て二十分でその努力は水の泡となった。なぜなら、すぐに美容室に連れていかれ、髪からメイクからやり直しさせられたからだ。こんなところに来るなら初めに言っておいてほしい。昨晩圭吾さんが予約、とか言っていたのはこのためか。

 プロに磨いてもらった姿を見せると、玲は初めて満足げに頷いた。その足で買い物に出かけた。洋服は勿論、靴に鞄、アクセサリー。下着も買うとか言い出した玲と、嫌がる私は口論になった。なかなか折れない玲に痺れを切らし、人目が付かないところで足を蹴り上げた。こちらを睨みながら怒る玲と話し合い、下着はネット注文することに話がまとまる。

 それからスマホも買い替え、結婚指輪まで購入した。まさに頭のてっぺんからつま先まで変身させられた私は、とにかく姿勢や佇まいを意識して過ごした。今までの自分とは違う、二階堂舞香として生まれ変わったのだと言い聞かせ、貧乏だった自分は封印した。

 そのいで立ちに玲はそれなりに満足していた。私達はそのまま多くの買い物を済ませ、夜になると高級店にディナーに入った。

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