みえる彼らと浄化係

橘しづき

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 柊一さんが食べながら言う。

「そう。まあ松本さんと袴田さんの家は聞き込み出来てないけど、朝日野さんの家は間違いなく何も起こってなさそうだったよね。おかしいじゃない?」

「例えば、朝日野さんは霊感がゼロで気づいてないだけ、ってことはないんですか?」

「まあ、可能性がなくはない。世の中にはびっくりするぐらい鈍感な人たちもいるからね。ただ……」

 そこまで言った柊一さんは、一度おにぎりを頬張るのを止め、じっとどこかを見つめる。

「気になる」

 そう小さく呟いた。

 確かに不思議な現象だ。霊たちはなぜこの家にばかり現れるのか。朝日野さんが鈍感なだけなのか、それとも理由があるのか。他の家ではどうなのだろう、みんな何も感じず暮らしているのだろうか。

 彼はさらに続ける。

「それに、遥さんとも話したけど、この家で感じる不思議な空気感は何なんだろう。今まであまり感じたことがないものだよ」

「ああ、それは俺も不思議に思ってる。まあ、違和感というほど大きいものじゃないんだけど、家に足を踏み入れた時に気になる感じだな。原因が何なのか予想がつかない」

「気になることが多いなあ……」

 しばらく沈黙が流れ、それぞれ考え込むが答えは出てこない。おにぎりを食べ終えた柊一さんはアルミホイルを綺麗に丸め、暁人さんは見ていたパソコンを閉じた。柊一さんはお腹をさすりながら言う。

「さて、ご馳走様でしたーっと」

「調べたけど、やっぱり昔の事過ぎて、ネットじゃ厳しいかもな。簡単な記事ぐらいはあったけど詳しくは……近くの図書館に行ってみようと思う。柊一と井上さんは少し待っててもらえるか」

「オッケー。僕は進捗状況を三石さんに伝えてみるよ。それで、彼らの意見も聞いてみる」

「それはいいな。頼んだ」

 丸めたアルミホイルを投げて遊びながら柊一さんが言うと、暁人さんは立ち上がった。私に丁寧に頭を下げてくれる。

「では井上さん、よろしくお願いします」

「あ、はい! 私は出来ること少ないと思いますが……暁人さんいってらっしゃい!」

 部屋から出て行く暁人さんを見送ると、柊一さんも立ち上がりアルミホイルのボールをポケットにしまい込み、大きく伸びをした。

「さて、腹ごしらえもしたし、三石さんと話してみようか。こんな得体のしれない人間がこそこそ何をやってるのか、不安に思うだろうからね。こういう時は細かく状況を説明した方がいい」

「なるほど……」

「まあ、話すことで不安を煽ることもあるんだけどね。それが今回は心配だなあ」

 柊一さんが思っていることが分かる。やはり、弥生さんが妊娠中であることを気にかけているのだ。一人の体じゃないし、妊娠中は精神的なダメージも体に出やすいだろうし。

「でも秘密にしておけないし、仕方ないね。なるべくマイルドな言い方になるよう気を付けよう」

「はい!」

 立ち上がった柊一さんに続きながら、本当に優しいなあと心から思った。暁人さんもだけど、顔もこんなに良くて性格もいいんじゃ、非の打ちどころがない完璧人間だ。

 二人で一階に降り、三石さんの正面に座り現在の調査報告をした。まず、この家が建つ前は駐車場があったが、それより前には放火事件があり、何人も命を落としていること。その後しばらくは『何かが見える』と噂される遊び場だったこと。

 また、朝日野さんと会った時に、彼女から家について悩んでる様子が見られないということも話した。

 三石さんたちの顔色はどんどん青ざめていく。

「そんな……放火事件があって、何人も犠牲に……?」

「知らなかった、まさかここでそんなことがあったなんて……」

 特に弥生さんの表情がひどく強張っている。私が何か言おうとして、すぐに柊一さんがフォローに入った。

「お気持ちは分かります。戸惑うし気味が悪いと思うのは、普通の感覚です。でも、よく考えてください。この家自体は新しく建てられたもので、土地に問題があった。もっと調べておけば、という思いはあるかもしれませんが、歴史を遡って行けば誰も死んでいない土地なんてないと思うんです。それこそ、日本は戦争をしていた時代もありますし、過去に誰かがその土地で亡くなっていた、というのは珍しい話ではありません。まあ、今回は死因や人数がやや特殊だとは思いますが……ちゃんと対処して霊がいなくなれば、ここは住み心地のいい家に変われると僕は思います」

 柊一さんの言葉に、二人の表情が少し和らいだ。私も心の中で納得する。確かに、どこの土地にも過去の死者はいるものだ。霊として残っているパターンは珍しいとは思うけど、過去のことを悔やむよりこれからのことを考える方がずっと大事だ。
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