みえる彼らと浄化係

橘しづき

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大きな疑問

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「そこにまず駐車場が出来ましてね。使う人も少ないけど、駐車場になったことで子供たちは遊ばなくなり、変な噂もいつの間にか消えていたんです。最近新しい人もどんどん入ってきてるし、逆に私みたいな年寄りは減っていく一方ですから。だからまあ、穏やかになったと思ってずっと安心していたんですが、まさか住宅が建つなんてねえ。昔の話だし、何かがいるとしたら、もう静まってくれてるといんだけど」

 私たちは自然と視線を合わせた。
 
 やはり、駐車場になる前からここには何かがいたのだ。そこを住宅に変えてしまったため、三石さんの家でおかしなことが起きてしまっている。恐らく、放火により突然命を奪われてしまった悲しみで成仏できない霊たちがいるのだろう。

 暁人さんが丁寧にお辞儀をした。

「貴重なお話ありがとうございました」

「ああ、いや変な話をしてすみませんね。放火があったのは昔の事だし、変な噂があったのも空き地の頃だから、心配しすぎなのかもしれない。それ以外は住みやすいよ。私だってすぐ裏で人が何人も亡くなったのがショックで土地を売ろうかとも思ったけど、そのほか住む環境はとってもいいんです。人も優しいしね」

「ありがとうございます。参考にさせていただきます」

「いい家が見つかるといいですね」

 ようやく話を切り上げ、私たちは宇野さんの家から離れた。三石さんの家に戻りつつ、私は深いため息をつく。

「柊一さんたちが言ってたこと、合ってましたね……やっぱり駐車場になる前が問題だったんですね」

 暁人さんが考えながら独り言のように言う。

「かなり昔の事件のようでしたね……一度ネットで調べてみますが、もしかしたら情報は少ないかもしれないな……いや、被害が大きい放火なら、大きく報道されてそうだからそれなりに残っているかも」

「一度三石さんの家に戻りますか?」

「そうしましょう」

 そう話している私たちの少し後ろで、柊一さんが何かを考え込んでいるのに気が付いた。私は首を傾げて顔を覗き込む。

「どうしましたか?」

「……大きな謎が残ると思わない?」

「え?」

 そう言った柊一さんは、四軒並ぶ家をじっと見つめ、黙り込んでしまった。




 とりあえずまたさっきの子供部屋まで戻り、座って一息つく。暁人さんはすぐにパソコンを開いて調べ物をしている。柊一さんはといえば、床にどしんと座り込み、力ない声を上げた。

「あーなんかお腹空いたな~」

 緊張感のかけらもない。少し呆れつつ、私は持ってきた荷物を漁った。こんなこともあろうかと、軽食を用意しておいたのだ。

「え、なになに遥さん、何が出てくるのそのかばん!」

「ちょっとお菓子とか持ってきたんです。おせんべいとかチョコとかー……あ、あとこれ」

 銀色のアルミホイルに包んだそれを取り出した途端、柊一さんが変な声を上げた。例えるなら『んぎゃ』とか『んびょ』みたいな、よく分からない声だ。

「ももももしかしてのおにぎりを!?」

「は、はあ、朝作ってきたんです」

「う、うわーー! 神じゃん天使じゃん! あ、ありがとう!!」

 目をキラキラ輝かせて受け取るもんだから、つい笑ってしまった。こんなおにぎり一つでここまで喜んでもらえるなら、作った甲斐があったというもの。

 早速開いてかぶりついている。頬を膨らませて咀嚼している様子は、あまりに可愛い。ハムスターか。

「あー美味しい! 遥さんのおにぎり世界一!」

「ど、どうも。それで柊一さん、さっき外で言ってた謎って何のことですか? 私気になってて」

「あ、今日は昆布入ってる!」

「聞いてます?」

 私たちの会話を黙って聞いていた暁人さんが、パソコンから目を離すことなく答えてくれた。

「この土地にあった診療所で亡くなった人が今、家に出てくるとしたら、なぜ怪奇現象が起きるのが三石さんの家だけなんだ、ってことだろ」

 それを聞いてはっとする。確かに、そうではないか。

 数名亡くなった大きな火事。その被害者の方たちが霊となって現れる、までは理解できる。では、なぜこの家だけなのだろうか。霊は土地に棲みつく場合もある、と説明を受けたことがあるが、そうならば診療所があったここ一帯全てに怪奇現象が起きていてもおかしくはない。

 元々は診療所があった大きな土地を四分割し、今の家が建っているのだから。
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