みえる彼らと浄化係

橘しづき

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不思議な家

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 黙って聞いていた暁人さんが口を開く。

「依頼の数は多い月もあれば少ない月もありますが、年間を通して見るとそれなりに繁盛していると思います」

「まあ、私にあれだけの時給を支払えるくらいですもんね……」

 今乗っているこの車だって、確か結構お高いやつだ。かなり稼ぎはいいだろう。普通に生きていると怪奇現象に悩まされるなんて、創作の中だけの世界かと思っていたが、世の中には案外多いらしい。

 



 一時間と少し、車を走らせると、ようやく目的地が近づいてきた。

 広めの二車線道路の周りには、大きな駐車場がある薬局やコンビニ、クリニックなどが並んでいる。犬を散歩する人が歩道を気持ちよさそうに歩いていた。

 都会ではなく、かといって田舎でもない、非常によく見るような街並みで、印象的なことは見当たらない、ごくありふれた光景だ。私の実家の周辺も、こんな感じだ。

 薬局を通り過ぎると、ずらりと住宅が並んでいた。戸建てが多く、時折メゾネットタイプのアパートなどがあり、単身よりも家族で住む人が多そうな印象だ。そのうちの一つを柊一さんが指さした。

「暁人、あれじゃない?」

「だな」

 暁人さんが車をある一軒の家の駐車場に停めた。私は窓から観察してみるが、なんてことはないよくあるタイプの家だった。

 駐車場は二台分。白を中心とした家で明るい印象だ。よく見ると、隣やその隣も、全く同じとは言えないものの似たようなデザインと色合いをしている。大きな土地を買い取った建設会社が、ここに一気に家を建てて売り出したのだろうか。

 特に嫌な気がするだとか、そういったものも何も感じない。表札には『三石』と書かれていた。

 私たちは車から降り、三人並ぶ。新築のため、白い外壁が眩しい。

「三石さん、ここだな」

「今日は夫婦揃ってるんだっけ?」

「そう聞いてる。行こう」

 私は荷物を持ってドキドキしながら柊一さんに続く。と、暁人さんがさっと私の荷物を取って持ってくれた。慌ててお礼を言うと、彼は小さく微笑んだ。

 柊一さんがインターホンを鳴らすと、若い女性と思しき声が機械越しに聞こえる。

『はい』

「おはようございます、約束していた黒崎です」

『あ……はい、今すぐ!』

 バタバタと足音が中から聞こえてきて、玄関の扉が勢いよく開かれた。

 まず顔が見えたのは、黒髪短髪の、真面目そうな男性だ。背はあまり高くないが、清潔感があり爽やかで、好印象を持たれることが多そうなビジュアル。

 そして次に、お腹がふっくらした女性が現れる。丸顔でどちらかと言えば童顔、背も低く可愛らしい人だ。おでこを出して髪をひとまとめにしているので、なおさら幼く見えるのかもしれない。

 二人は出てきてすぐに、柊一さんを呆然と見つめた。怪奇現象のスペシャリストが来る、と聞いて、こんな若いイケメンが現れれば、誰でも予想外で驚くだろう。暁人さんも、ぱっと見真面目な営業マンみたいな感じなので、これまた心霊相談からはイメージが程遠い。私? 私は石原さとみに似てるから……って、悪ふざけはやめておこう。

 柊一さんはにこやかに笑って二人に挨拶をする。

「初めまして、黒崎柊一と言います」

「片瀬暁人です」

 二人が名前を言ったので、慌てて私も続く。

「あ、井上遥です……」

 三石夫妻は顔を見合わせるも、すぐに笑顔で接してくれた。

「初めまして、三石幸弘です、こっちは妻の弥生。すみません、想像以上にお若く、そしてみなさんお綺麗なので……」

 三石さんが言った言葉が脳内の残る。みなさんお綺麗? それって……私も入ってる!! この人、いい人だ。

 当然ながら柊一さんはめちゃくちゃ美人系イケメンだし、暁人さんもきりっとしてかっこいい。それにプラスして私も入っちゃって『みなさん』ですよね!

「ここで立ち話もなんですから、よければ中へどうぞ」

 三石さんに促され、私たちはお言葉に甘えることにした。お綺麗という言葉でかなりルンルン気分で足を踏み入れた途端、どこか不思議な感覚を覚えた。

 なんだろう、言葉では説明が難しいが、家の中は何か目には見えない緊張の糸が張り巡っているような感じがした。例えば今から大事な試合がある選手の控室、もしくは生死を彷徨っている患者がいる治療室。そういう、どこか非現実的な雰囲気がある。

 辺りをきょろきょろ見ると、柊一さんや暁人さんも、どこか不思議そうな顔をして周りを見ていた。幽霊がいる、というおぞましい空気とは何かが違う。
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