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仲がいい二人
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頭を掻きながら残念に思っていると、柊一さんが机に頬杖をつきながら言う。
「ちゃんと訂正しておかなきゃね。僕も暁人も、好きなのは女の子」
「へえ……彼女さんとかいるんですか?」
女性が恋愛対象だとしたら、彼らは相手に困ることはないだろう。言わずもがな顔は最高にいいし、性格だっていい。モテないわけがないのだ。
だが、私の質問に、柊一さんはふっと目を細めた。そして、私よりずっとどこか遠くを見るようにして、ぼんやりと答える。
「いないよ。僕も暁人も。そんな人、いない」
普段の私だったら、意外だのなんだのと大きな声を上げただろう。でも、柊一さんの表情がどこか切なく見えて、黙り込んでしまった。
今にも消えてしまいそうな、そんな不思議な感覚になる。
彼らは心に何があるのだろう。奥底に隠し持っている何かが、きっと二人を動かしている。
何かを言おうとして口を開けた時、電話の音が鳴り響いた。テーブルの上に置いてある私のスマホではなく、柊一さんのポケットに入っているスマホのようだ。
彼は電話に出る。
「もしもし暁人? うん、うん。ああ、今、遥さんの家に上がらせてもらってる」
相手はどうやら暁人さんらしい。柊一さんがそう話した直後、電話口から何やら焦ったような暁人さんの声が漏れているが、何を言っているかまでは聞き取れない。
そしてすぐに、私の家のインターホンが鳴った。もしや、と思い出てみると、暁人さんが扉の向こうで立っていたのだ。どうやら、柊一さんの部屋を訪れたが留守だったので、電話してきたようだ。
「あ、暁人さん、こんにちは」
挨拶をする私に彼は返事を返すこともなく、私のすぐ後ろに視線を向けた。背後から、ゆっくりとした速度でこちらに歩いてくる柊一さんの足音が聞こえる。
「あ、暁人ー」
「柊一! おま、馬鹿か! 女性の家に簡単に上がり込むんじゃない!」
暁人さんが信じられない、とばかりに声をあげた。なるほど、さっき電話の向こうでも焦っていたようだが、柊一さんが私の家にいると聞いて驚いたらしい。確かに、私も最初は驚いたもんなあ。
柊一さんはああ、と思い出したように答えた。
「そっかあ、そうだよね。でも僕、ちゃんと上がってもいいって聞いたよ」
「聞けばいいってもんじゃない! 井上さんも断りにくいだろうが!」
「そっかあ。今度から気を付ける。ねえねえ、聞いてよ、遥さんおにぎりくれてさあ。めちゃくちゃ美味しいの。また今度作ってくれるって!」
ルンルンで言う柊一さんに、暁人さんはため息をつきながら頭を抱える。私は慌てて彼をフォローした。
「だ、大丈夫ですよ、柊一さんのキャラはなんとなくも分かったし」
「本当にすみません……」
「よければ暁人さんもどうぞ。仕事仲間でもあるんですから」
暁人さんは何度も私に頭を下げつつ、靴をしっかり揃えて上がる。つい上がってもらったけど、こんな素敵男子が二人も私の家にいるとか……しかもやや散らかってるっていうのに……
広くもない部屋、小さなテーブルを三人で囲む。私はまだ食べかけだったパスタを食べる。冷凍パスタっていうのがまた、色気もくそもないな。
「今さ、浄化の手伝いをしてくれることにお礼を言いに来てたんだ」
「ああ、なるほど……」
「就職決まったらいつでもやめていいからって」
「それは間違いないな。あくまで井上さんの生活を優先でお願いします」
しっかり頭を下げてくれるので、私は口にあったものを慌てて飲み込んで答える。
「はい、よろしくお願いします!」
「ねえねえ暁人、聞いてよ、遥さん、僕と暁人が恋人だと思ってたんだって! 爆笑しちゃった」
「やめろ、吐く。お前みたいな手のかかるやつはごめんだ」
「失礼だなあ。僕は暁人ならキスぐらいなら出来るよ」
「!?」
「あはは、冗談冗談」
青ざめる暁人さんに笑う柊一さん。私は二人を交互に見て笑っていた。恋愛感情はなくても、やっぱり仲がいいのは間違いないみたいだな。
「ちゃんと訂正しておかなきゃね。僕も暁人も、好きなのは女の子」
「へえ……彼女さんとかいるんですか?」
女性が恋愛対象だとしたら、彼らは相手に困ることはないだろう。言わずもがな顔は最高にいいし、性格だっていい。モテないわけがないのだ。
だが、私の質問に、柊一さんはふっと目を細めた。そして、私よりずっとどこか遠くを見るようにして、ぼんやりと答える。
「いないよ。僕も暁人も。そんな人、いない」
普段の私だったら、意外だのなんだのと大きな声を上げただろう。でも、柊一さんの表情がどこか切なく見えて、黙り込んでしまった。
今にも消えてしまいそうな、そんな不思議な感覚になる。
彼らは心に何があるのだろう。奥底に隠し持っている何かが、きっと二人を動かしている。
何かを言おうとして口を開けた時、電話の音が鳴り響いた。テーブルの上に置いてある私のスマホではなく、柊一さんのポケットに入っているスマホのようだ。
彼は電話に出る。
「もしもし暁人? うん、うん。ああ、今、遥さんの家に上がらせてもらってる」
相手はどうやら暁人さんらしい。柊一さんがそう話した直後、電話口から何やら焦ったような暁人さんの声が漏れているが、何を言っているかまでは聞き取れない。
そしてすぐに、私の家のインターホンが鳴った。もしや、と思い出てみると、暁人さんが扉の向こうで立っていたのだ。どうやら、柊一さんの部屋を訪れたが留守だったので、電話してきたようだ。
「あ、暁人さん、こんにちは」
挨拶をする私に彼は返事を返すこともなく、私のすぐ後ろに視線を向けた。背後から、ゆっくりとした速度でこちらに歩いてくる柊一さんの足音が聞こえる。
「あ、暁人ー」
「柊一! おま、馬鹿か! 女性の家に簡単に上がり込むんじゃない!」
暁人さんが信じられない、とばかりに声をあげた。なるほど、さっき電話の向こうでも焦っていたようだが、柊一さんが私の家にいると聞いて驚いたらしい。確かに、私も最初は驚いたもんなあ。
柊一さんはああ、と思い出したように答えた。
「そっかあ、そうだよね。でも僕、ちゃんと上がってもいいって聞いたよ」
「聞けばいいってもんじゃない! 井上さんも断りにくいだろうが!」
「そっかあ。今度から気を付ける。ねえねえ、聞いてよ、遥さんおにぎりくれてさあ。めちゃくちゃ美味しいの。また今度作ってくれるって!」
ルンルンで言う柊一さんに、暁人さんはため息をつきながら頭を抱える。私は慌てて彼をフォローした。
「だ、大丈夫ですよ、柊一さんのキャラはなんとなくも分かったし」
「本当にすみません……」
「よければ暁人さんもどうぞ。仕事仲間でもあるんですから」
暁人さんは何度も私に頭を下げつつ、靴をしっかり揃えて上がる。つい上がってもらったけど、こんな素敵男子が二人も私の家にいるとか……しかもやや散らかってるっていうのに……
広くもない部屋、小さなテーブルを三人で囲む。私はまだ食べかけだったパスタを食べる。冷凍パスタっていうのがまた、色気もくそもないな。
「今さ、浄化の手伝いをしてくれることにお礼を言いに来てたんだ」
「ああ、なるほど……」
「就職決まったらいつでもやめていいからって」
「それは間違いないな。あくまで井上さんの生活を優先でお願いします」
しっかり頭を下げてくれるので、私は口にあったものを慌てて飲み込んで答える。
「はい、よろしくお願いします!」
「ねえねえ暁人、聞いてよ、遥さん、僕と暁人が恋人だと思ってたんだって! 爆笑しちゃった」
「やめろ、吐く。お前みたいな手のかかるやつはごめんだ」
「失礼だなあ。僕は暁人ならキスぐらいなら出来るよ」
「!?」
「あはは、冗談冗談」
青ざめる暁人さんに笑う柊一さん。私は二人を交互に見て笑っていた。恋愛感情はなくても、やっぱり仲がいいのは間違いないみたいだな。
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