みえる彼らと浄化係

橘しづき

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あなたは一体何に怯えているの

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「散らかってますけど……」

「ごめんね。お邪魔します」

 先日も部屋に上がってもらい、さらにはベッドで寝かせた経験もあるので、そこまで恥ずかしいとは思わなかった。短い廊下を進み部屋へ入ると、柊一さんがわっと声を上げる。

「おにぎり食べてたの!?」

「あっ、ごめんなさい、出しっぱなしで」

「急に来た僕が悪いんだよ、ご飯中だったんだね、ごめんね。すっごい美味しそうだねえ。暁人はさ、どうもおにぎりはへたくそなんだよなあ。まあ、家事何も出来ない僕が言えたことじゃないけど」

 にこにこしながらそう言ってくれる。柊一さんが家事が出来ない、ってなんか想像通り。そして、暁人さんは出来るというのも。料理以外は完璧なのだろう。

 私は少し悩んだ挙句、おずおずと差し出してみる。

「お昼もう済んでますか? よかったら」

「え!? い、いい、いいの!? ひ、人にあげるってすごいね!?」

 そんなにどもるほど私の言動は衝撃的だったのだろうか。まあ、彼にとってはとんでもない好物らしいので、人にあげるという概念はあまりないのだろう。

「お口に合うか分かりませんが」

「やった! いただきます!」

 満面の笑みでそう言い、ぱくっと口に頬張ったのを見て、つい笑ってしまった。こんなに自分の感情に正直な男性も珍しい。凄く可愛いな、なんて思ってしまう。

 彼は目を真ん丸にさせて言う。

「え、すっごい美味しい!! 塩加減が絶妙!! 握る力もだよ!!」

「そ、そうですか?」

「暁人はしょっぱくて力任せに握った感じなんだ……遥さんのおにぎりめちゃくちゃ美味しい。今度また作ってくれる?」

 子供みたいな笑顔でそう言われれば、頷かない女はいない。顔がいい、眩しい。直視しちゃって失明しないかな私。顔面の武器とは時に恐ろしい力を持っている。この人、きっと世渡り上手というか、いろんな人から愛されるタイプなんだろうなあ。

 私もパスタを頬張り始める。いつの間にか一緒に昼食をとる流れになっていた。ペコペコに減ってしまったお腹に、クリームのパスタを流し込んでいく。そのまま無言でお互い食事を続け、半分ほどになったところで、柊一さんが口を開いた。

「暁人から聞いた。これからも浄化をしてくれるって」

「あ、はい、そうなんです。よろしくお願いします」

「なんで?」

 てっきり、暁人さんみたいに喜んでくれるかと思っていたのに、柊一さんから出てきた言葉はそれだった。どこか低く、真剣な声色に感じる。

 彼の方を見てみると、おにぎりさえお皿に置いたままで、私の方をじっと見ている。

「え……なんで、って」

「怖い思いもしたでしょう。あんな場所に連れていかれて、不気味で嫌だったはず。それに、霊を食べるシーンまで見て……あれでどうして、また行こうって思えたの?」

 ビー玉みたいな瞳は、本当に不思議そうに私を見ていた。そんな彼の奥に、どこか不安とおびえの色を感じ取る。

 彼は初めから、危ないから、という理由で私の参加を反対していた。その気持ちもよくわかる、彼なりの優しさだからだ。でも、それだけじゃない気もしてきた。

 一体何に怯えているんだろう。
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