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メイクしたまま寝るのは肌に悪い
しおりを挟む暁人さんにアパートまで送ってもらい、彼は柊一さんと共に隣の部屋へ、そして私は自分の部屋へと戻った。
自室へ着くと、お風呂に入る気力もなくすぐに床に倒れこんだ。夕飯は早かったからお腹が空いてるし、喉も乾いたし、お風呂にも入りたい。でも、動きたくない。
そういえば、浄化の手伝いをした後は、こっちも疲労がやってくるんだったか、と今更思い出す。多分、いろんな場面を見てアドレナリンが出まくり、興奮状態にあったんだろう。
一人になった途端、眠気が凄い。
せめてメイクだけは落としたい、と思いつつも、体は鉛のように重く、ちっとも私の言うことを聞いてくれなかった。そして悲しいことに、お風呂にも入らず着替えもせず、私はそのまま寝入ってしまったのだ。
朝目が覚めたとき、げんなりとした。
カーテンの隙間から漏れる朝日は眩しく、外は気持ちのいい晴れを予想させたが、自分の恰好があまりにひどい。結局あの後、お風呂にも入らず着替えもせず、床でそのまま寝てしまったのだ。
肌はひきつっているような感覚だし、あんな場所を歩き回ったのだから体中の汚れも気になるし、なぜお風呂に入らなかったのだ、自分は。
同時にお腹が凄い音を立てて鳴ったのに気がついたが、まずは清潔感を何とかしよう。私はゆっくりと起き上がる。
床で寝ていたためか腰が痛い。時計を見上げてみると、もう十三時だった。かなり寝過ごしてしまった。朝ごはんも昼ごはんも食べずに爆睡では、そりゃお腹も怒りで音を立てるだろう。
のそのそと風呂に入り、乾燥した肌にはしっかり保湿を施した。髪を丁寧に乾かし、すっきりしたところで大きなため息をつく。ああ、お腹すいた。ご飯食べよう。
キッチンに向かい、戸棚を開けて中を見てみる。とにかく早く食べられるものがいい。インスタントラーメンか、そうだ、冷凍パスタがあったかも。
冷凍庫を開けてみると、やはり以前、薬局で安く購入しておいた冷凍パスタがあった。笑顔で取り出したと同時に、ラップに包まれて固くなっているご飯を見つけた。多めに炊いた時、冷凍しておいたのだ。
ふと、柊一さんの顔が浮かぶ。
なんとなく無性におにぎりが食べたくなって、私はご飯も取り出した。パスタとおにぎりというバランスの悪い組み合わせだが、朝食も食べてないからいいではないか。二つとも解凍し、おにぎりは梅干しを入れて海苔で包む。そういえば、おにぎりなんて自分で握って食べるのはいつぶりだろう。コンビニとかでは食べるんだけどな。
ようやく終え、その二つを持ってテーブルに座り込む。食べようと手を伸ばしたところで、白く艶のあるおにぎりを眺め、昨晩のことを思い出した。
霊を食べた後、すぐに私に謝った。気持ち悪かったでしょ、と。元々私のことを気遣ってくれていた柊一さんだけど、あの言葉はやけに引っ掛かる。まるで、今まで彼のことを気味悪がった人間がいたみたいな言い方だった。
確かに怖かったし、不気味ではあった。でも同時に強くてかっこよくもある、不思議な現象だった。
ふうと息を吐いて食べようとしたところで、インターホンが鳴り響く。誰だろうと画面を覗き込んでみると、作り物のような綺麗な顔があったので驚いた。
慌てて玄関へ向かい開けてみると、やはり、柊一さんが一人そこに立っていたのだ。
「柊一さん! 体は大丈夫なんですか?」
「一晩寝たら全然元気。遥さんのおかげだと思う。本当にありがとう。ちょっと、上がってもいい?」
首を傾げて尋ねてくる様子に、一瞬言葉に詰まった。普通、一人暮らしの女の家に上がらせて、なんて言えないけどなあ。でもまあ、仕事仲間でもあるんだし、何より天然で下心なんてゼロな柊一さんだから、いっかと思ってしまえる。
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