39 / 71
メイクしたまま寝るのは肌に悪い
しおりを挟む暁人さんにアパートまで送ってもらい、彼は柊一さんと共に隣の部屋へ、そして私は自分の部屋へと戻った。
自室へ着くと、お風呂に入る気力もなくすぐに床に倒れこんだ。夕飯は早かったからお腹が空いてるし、喉も乾いたし、お風呂にも入りたい。でも、動きたくない。
そういえば、浄化の手伝いをした後は、こっちも疲労がやってくるんだったか、と今更思い出す。多分、いろんな場面を見てアドレナリンが出まくり、興奮状態にあったんだろう。
一人になった途端、眠気が凄い。
せめてメイクだけは落としたい、と思いつつも、体は鉛のように重く、ちっとも私の言うことを聞いてくれなかった。そして悲しいことに、お風呂にも入らず着替えもせず、私はそのまま寝入ってしまったのだ。
朝目が覚めたとき、げんなりとした。
カーテンの隙間から漏れる朝日は眩しく、外は気持ちのいい晴れを予想させたが、自分の恰好があまりにひどい。結局あの後、お風呂にも入らず着替えもせず、床でそのまま寝てしまったのだ。
肌はひきつっているような感覚だし、あんな場所を歩き回ったのだから体中の汚れも気になるし、なぜお風呂に入らなかったのだ、自分は。
同時にお腹が凄い音を立てて鳴ったのに気がついたが、まずは清潔感を何とかしよう。私はゆっくりと起き上がる。
床で寝ていたためか腰が痛い。時計を見上げてみると、もう十三時だった。かなり寝過ごしてしまった。朝ごはんも昼ごはんも食べずに爆睡では、そりゃお腹も怒りで音を立てるだろう。
のそのそと風呂に入り、乾燥した肌にはしっかり保湿を施した。髪を丁寧に乾かし、すっきりしたところで大きなため息をつく。ああ、お腹すいた。ご飯食べよう。
キッチンに向かい、戸棚を開けて中を見てみる。とにかく早く食べられるものがいい。インスタントラーメンか、そうだ、冷凍パスタがあったかも。
冷凍庫を開けてみると、やはり以前、薬局で安く購入しておいた冷凍パスタがあった。笑顔で取り出したと同時に、ラップに包まれて固くなっているご飯を見つけた。多めに炊いた時、冷凍しておいたのだ。
ふと、柊一さんの顔が浮かぶ。
なんとなく無性におにぎりが食べたくなって、私はご飯も取り出した。パスタとおにぎりというバランスの悪い組み合わせだが、朝食も食べてないからいいではないか。二つとも解凍し、おにぎりは梅干しを入れて海苔で包む。そういえば、おにぎりなんて自分で握って食べるのはいつぶりだろう。コンビニとかでは食べるんだけどな。
ようやく終え、その二つを持ってテーブルに座り込む。食べようと手を伸ばしたところで、白く艶のあるおにぎりを眺め、昨晩のことを思い出した。
霊を食べた後、すぐに私に謝った。気持ち悪かったでしょ、と。元々私のことを気遣ってくれていた柊一さんだけど、あの言葉はやけに引っ掛かる。まるで、今まで彼のことを気味悪がった人間がいたみたいな言い方だった。
確かに怖かったし、不気味ではあった。でも同時に強くてかっこよくもある、不思議な現象だった。
ふうと息を吐いて食べようとしたところで、インターホンが鳴り響く。誰だろうと画面を覗き込んでみると、作り物のような綺麗な顔があったので驚いた。
慌てて玄関へ向かい開けてみると、やはり、柊一さんが一人そこに立っていたのだ。
「柊一さん! 体は大丈夫なんですか?」
「一晩寝たら全然元気。遥さんのおかげだと思う。本当にありがとう。ちょっと、上がってもいい?」
首を傾げて尋ねてくる様子に、一瞬言葉に詰まった。普通、一人暮らしの女の家に上がらせて、なんて言えないけどなあ。でもまあ、仕事仲間でもあるんだし、何より天然で下心なんてゼロな柊一さんだから、いっかと思ってしまえる。
12
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説


ママが呼んでいる
杏樹まじゅ
ホラー
鐘が鳴る。夜が来る。──ママが彼らを呼んでいる。
京都の大学に通う九条マコト(くじょうまこと)と恋人の新田ヒナ(あらたひな)は或る日、所属するオカルトサークルの仲間と、島根にあるという小さな寒村、真理弥村(まりやむら)に向かう。隠れキリシタンの末裔が暮らすというその村には百年前まで、教会に人身御供を捧げていたという伝承があるのだった。その時、教会の鐘が大きな音を立てて鳴り響く。そして二人は目撃する。彼らを待ち受ける、村の「夜」の姿を──。
はる、うららかに
木曜日午前
ホラー
どうかお願いします。もう私にはわからないのです。
誰か助けてください。
悲痛な叫びと共に並べられたのは、筆者である高宮雪乃の手記と、いくつかの資料。
彼女の生まれ故郷である二鹿村と、彼女の同窓たちについて。
『同級生が投稿した画像』
『赤の他人のつぶやき』
『雑誌のインタビュー』
様々に残された資料の数々は全て、筆者の曖昧な中学生時代の記憶へと繋がっていく。
眩しい春の光に包まれた世界に立つ、思い出せない『誰か』。
すべてが絡み合い、高宮を故郷へと導いていく。
春が訪れ散りゆく桜の下、辿り着いた先は――。
「またね」
春は麗らかに訪れ、この恐怖は大きく花咲く。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

怪奇探偵・御影夜一と憑かれた助手
水縞しま
ホラー
少女の幽霊が視えるようになった朝霧灼(あさぎりあらた)は、神戸・南京町にある「御影探偵事務所」を訪れる。
所長である御影夜一(みかげよるいち)は、なんと幽霊と対話できるというのだ。
胡散臭いと思っていたが、夜一から「助手にならへん?」と持ち掛けられ……。
いわくありげな骨董品が並ぶ事務所には、今日も相談者が訪れる。
対話できるが視えない探偵(美形)と、憑かれやすくて視える助手(粗暴)による家系ホラー。
怪奇×ブロマンスです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる