みえる彼らと浄化係

橘しづき

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これからも支えたい

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 車の後部座席に柊一さんを横たわらせ、私は助手席に乗り込んだ。冷え切った車内に入り、座ると、自然と長いため息が漏れた。

 すごい時間だった。まず怖すぎたし、疲れた。現実だとは思えない出来事ばかり。

 そんな私に気が付いたのか、暁人さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。

「大丈夫ですか」

「あ! はい、大丈夫です」

「あなたをこんなことに巻き込んですみませんでした。怖い思いもさせてしまって……ただ、おかげで柊一が本当に楽になったので、感謝しています」

 丁寧に頭を下げてくれる姿に、言葉が詰まった。礼儀正しくて、柊一さんを大事に思っているからこその態度だ。やっぱり推せる二人だなあ。

「いえ、二人とも気遣ってくださりありがとうございました! 色々心配かけてごめんなさい」

「とんでもないです。とりあえず、場所も場所ですから、車を出しますね」

「お願いします」

 暁人さんは車を発進させた。ちらりと後ろを見ていると、柊一さんが心地よさそうに寝息を立てている。

 ハンドルを操作しながら隣で彼が言う。

「後ほど謝礼はお渡しします」

「あ、どうもすみません……」

「そういう約束ですよ」

 廃ホテルが遠ざかっていくのをサイドミラーで見ると、体の力が抜けてどっと疲れが襲ってきた。私はぼんやりと思いを馳せる。

 とても大変なお仕事だった。危険も隣り合わせだったし怖かった。ただ、あれで悪い霊はいなくなり、囚われていた霊は自由になったのだと思うと、とてもやりがいがあるように感じた。

 謝礼目当てで参加を決めたけれど、少し見方が変わったなあ。想像していた除霊とかとはだいぶイメージが違ったし。

……今回は、二人の仕事内容を試しに見てみる、という約束で参加した。今後も柊一さんは悪霊を食べ続けるのだろうし、苦痛を繰り返すのだろう。

「……あの。お仕事が凄くやりがいがあるっていうのは伝わりました。でも、やっぱり体を張りすぎだとも思うんです。お二人なら、他のお仕事も選択肢はたくさんあるだろうし……どうしてあえてこの仕事を続けているんですか?」

 私が質問すると、暁人さんが黙りこんだ。まっすぐ前を見ながら運転している。

 すぐに返答が返ってくると思っていた自分は少し焦った。もしかして、訊いてはいけないことを訊いてしまったのだろうか。

 しばらく沈黙が流れたあと、暁人さんが言った。

「俺たちは、これしか出来る仕事がなかったんです」

「え? これしか?」

「見える俺たちは異端でしたから。大人になった今でこそ、普通に生活できていますが、これまでの人生、まともじゃなかった。そんな俺たちに仕事を紹介してくれた恩人がいます。この仕事を始めて、ようやく真っ当な人間になれたんです」

 ぼんやりとした言い方に、疑問がたくさん浮かんだ。具体的にどんな人生だったんだろう、恩人ってどんな人だったんだろう。でも、きっと踏み込んでほしくないのだと感づいて、私はそれ以上訊かなかった。

 二人とも凄く優しくてかっこよくて、でもきっと私には分からない苦悩がある。そこに踏み込むほど、まだ自分は親しくない。

 またしばらく沈黙が流れた後、私は意を決して暁人さんに言った。

「あの……私がいると気を遣わせるかと思うんですが……よかったら、今後もお手伝いさせてもらえませんか」

 私が言うと、暁人さんは分かりやすく目を見開いた。予想外の言葉だったようだ。

 怖くてたまらなかったけど、西雄さんの霊が眠った時は凄く嬉しかったし、素敵なお仕事だと思った。そして何より、柊一さんが辛い目に遭うのを放ってはおけない。

 私に出来ることがあれば、手伝いたいと思う。

「……いいんですか!? あんな思いをさせたので、断られるとばかり……!」

「二人は凄く気遣ってくれて優しかったですし、西雄さんのことは感動したし、何より柊一さんを手助けしたいと思って……」

「信じられない……! ありがとうございます!」

 彼が嬉しそうに笑ったのを見て、つい胸が鳴った。どちらかというとキリっとして真面目な暁人さん、笑うと子供っぽくなるんだなあ。こりゃ凄い。

 暁人さんって優しくて気遣いも出来るし頼りになるし、本当に素敵すぎる。何気に女から一番モテるのってこういう人だよね。

 そんな余計な感情はさておき、私は頭を下げた。

「私の出番は最後しかないし、ていうか悪霊がいなかったらむしろ何もすることがないから申し訳ないんですが、今後もよろしくお願いします」

「こちらこそ! もちろん悪霊がいなかった場合も、きっちり謝礼はお支払いしますので! こんなにいい人が近くにいたなんて、信じられません。本当にありがとうございます! あいつは……能天気そうに見えて、色々自分で抱え込むし、不安定で危なっかしいやつなんです。これで少しでも苦痛を軽減させられたら」

 嬉しそうに言う暁人さんを見て、ああ、本当に大事に思っているんだなと感じた。少しの時間でも、彼らの間に凄い絆があることはわかる。

 かなり変わったお仕事だけど、出来ることは頑張ってみよう。そして、とてもいい人だと分かったこの二人を、もう少し支えられたら。

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