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考察
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私の疑問に、暁人さんが考えながら答える。
「そのままの意味ではないでしょうか。ここから出して、ということです」
「だろうねえ。あの部屋か、もしくはこのホテルから出られないのかも」
二人の意見に、私は首を傾げた。
「幽霊だったら、どこでもすーって移動できるんじゃないんですか?」
「それがね、そうでもないんだ。幽霊にもいろんな種類がある。例えば、そこいらにふよふよ漂ってる浮遊霊というものから、同じ場所に離れずにいる地縛霊という存在もいる」
「へえ。じゃあ、このホテルには地縛霊がいるってことですか」
私が質問すると、二人は難しい顔をした。暁人さんが答えてくれる。
「まあ、簡単に言えばそういうことでしょう。ですが、さっきのメッセージを読む限り、ここにいる霊は『出たがっている』地縛霊ですね」
「ダシテ、って言ってた……」
「霊には一人一人、事情も個性もあります。一言で地縛霊、と言っても、その霊の本質をしっかり見ないと、判断を誤ることもあるから要注意です。外に出たがっているのは、助けを求めている哀れな霊かもしれません」
「もしかして、私がさっきあの部屋に閉じ込められたのって、佳子さんが気持ちを伝えたくてああしたんでしょうか? 外に出してっていう思いが」
言いながら、先ほどの恐怖が蘇りぶるっと震えた。怖くてたまらず、孤独で辛かった。もしかして、同じ思いを佳子さんもしているのだろうか? 女性が部屋の中で、出してほしいとドアを叩くイメージが頭に浮かんだ。
柊一さんが、普段とは違い厳しい表情をしている。
「その可能性は高いと思うよ。事件の概要を見ても、そう考える方がスムーズだ。ストーカーに命を奪われたことは無念だし、それが原因でこの世に彷徨っているのかと思っていたけれど、それだけじゃなくて、彼女は出してもらえないんじゃないかな」
「出してもらえない?」
「殺すほど愛し、執着していた相手を、死んだ後もそばに置きたいと思うのは簡単に想像がつくことだよ」
その言葉を聞いて心の底からぞっとした。
つまり、佳子さんは死んでからもなお、西雄という男に囚われているのか? 一方的な愛をこじらせ自分を殺した相手に未だ縛られているとしたら、こんなに苦しいことはない。死んでからもう三十年も。
ぎゅっと拳を握った。
「西雄って男が、無理やり佳子さんを閉じ込めてるんですね?」
「憶測だけどね。霊の力って個別差が大きいんだ、例えば小さな子供の霊でもとてつもなく強い力を持っていたりするし、男女も関係ない。原因はいろいろあって一言では言えないけど、人を殺すような強い思いを持った人間が、逃げたいと思ってる女性を捕えておくのは簡単だと思うよ」
「そんなのひどすぎる!」
怒りの声がつい、漏れた。二人も同じ気持ちのようで、同時に強く頷いている。
暁人さんがやや低い声で言った。
「そうなると、ここには被害者と加害者の霊、二人がいることになります。本体を見ていないことには判断はできませんが、今までの俺たちの憶測が当たっていたとしたら、西雄はまずまず強い悪霊でしょう」
「ということは」
私はちらりと、隣の柊一さんを見た。にこりと笑って返されるが、笑っている場合ではない。
こんな優しくて可愛らしい人が、殺人犯の悪霊を食べるということか。人を殺めたような霊を体内に入れるだなんて、想像するだけで恐ろしい。いや、食べるシーンを実際見たことがないのだから、想像も難しいのだが。
でもだって……殺人者だよ? そんなやつ近づきたくもないのに、自分の中に閉じ込めるだなんて。
「そのままの意味ではないでしょうか。ここから出して、ということです」
「だろうねえ。あの部屋か、もしくはこのホテルから出られないのかも」
二人の意見に、私は首を傾げた。
「幽霊だったら、どこでもすーって移動できるんじゃないんですか?」
「それがね、そうでもないんだ。幽霊にもいろんな種類がある。例えば、そこいらにふよふよ漂ってる浮遊霊というものから、同じ場所に離れずにいる地縛霊という存在もいる」
「へえ。じゃあ、このホテルには地縛霊がいるってことですか」
私が質問すると、二人は難しい顔をした。暁人さんが答えてくれる。
「まあ、簡単に言えばそういうことでしょう。ですが、さっきのメッセージを読む限り、ここにいる霊は『出たがっている』地縛霊ですね」
「ダシテ、って言ってた……」
「霊には一人一人、事情も個性もあります。一言で地縛霊、と言っても、その霊の本質をしっかり見ないと、判断を誤ることもあるから要注意です。外に出たがっているのは、助けを求めている哀れな霊かもしれません」
「もしかして、私がさっきあの部屋に閉じ込められたのって、佳子さんが気持ちを伝えたくてああしたんでしょうか? 外に出してっていう思いが」
言いながら、先ほどの恐怖が蘇りぶるっと震えた。怖くてたまらず、孤独で辛かった。もしかして、同じ思いを佳子さんもしているのだろうか? 女性が部屋の中で、出してほしいとドアを叩くイメージが頭に浮かんだ。
柊一さんが、普段とは違い厳しい表情をしている。
「その可能性は高いと思うよ。事件の概要を見ても、そう考える方がスムーズだ。ストーカーに命を奪われたことは無念だし、それが原因でこの世に彷徨っているのかと思っていたけれど、それだけじゃなくて、彼女は出してもらえないんじゃないかな」
「出してもらえない?」
「殺すほど愛し、執着していた相手を、死んだ後もそばに置きたいと思うのは簡単に想像がつくことだよ」
その言葉を聞いて心の底からぞっとした。
つまり、佳子さんは死んでからもなお、西雄という男に囚われているのか? 一方的な愛をこじらせ自分を殺した相手に未だ縛られているとしたら、こんなに苦しいことはない。死んでからもう三十年も。
ぎゅっと拳を握った。
「西雄って男が、無理やり佳子さんを閉じ込めてるんですね?」
「憶測だけどね。霊の力って個別差が大きいんだ、例えば小さな子供の霊でもとてつもなく強い力を持っていたりするし、男女も関係ない。原因はいろいろあって一言では言えないけど、人を殺すような強い思いを持った人間が、逃げたいと思ってる女性を捕えておくのは簡単だと思うよ」
「そんなのひどすぎる!」
怒りの声がつい、漏れた。二人も同じ気持ちのようで、同時に強く頷いている。
暁人さんがやや低い声で言った。
「そうなると、ここには被害者と加害者の霊、二人がいることになります。本体を見ていないことには判断はできませんが、今までの俺たちの憶測が当たっていたとしたら、西雄はまずまず強い悪霊でしょう」
「ということは」
私はちらりと、隣の柊一さんを見た。にこりと笑って返されるが、笑っている場合ではない。
こんな優しくて可愛らしい人が、殺人犯の悪霊を食べるということか。人を殺めたような霊を体内に入れるだなんて、想像するだけで恐ろしい。いや、食べるシーンを実際見たことがないのだから、想像も難しいのだが。
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