16 / 71
まさかの今夜
しおりを挟む
片瀬さんが口を開いたが、それより先に黒崎さんが声を上げた。普段と違った、厳しい声だった。
「君をそんな危険な目に遭わせるのはだめだよ。気持ちは嬉しい、でも無謀すぎる」
見れば、まっすぐな目で私を見ている。私は小さく反論した。
「でも、うちの家系は幸運の家系なので、怪我や健康被害の心配はないと母は言っていました」
「万が一ってこともあるでしょ。そこまで君が体を張る必要はないんだよ」
「……でも、母は言っていました。慣れるまで食べる除霊は本当に辛くて、最悪死に至ることもあるって。私、黒崎さんにそんな風になってほしくありません。まだ決意は出来ないけど、お試しにやってみるだけやってみてもいいと思うんです」
私の言葉に、黒崎さんは口をつぐんだ。困ったように視線を落とす。
彼の顔を覗き込むようにして、私はなお言った。
「一度見させてもらえませんか、あなたたちのお仕事。見ることもせず断るなんてしたくないんです。私は浄化以外何も出来ないから役に立たないだろうし、足手まといだと思いますが」
「足手まといだなんて思わないよ」
黒崎さんが私の言葉にかぶせるようにして言った。その目には戸惑いが見える。私を巻き込まないようにと考える、彼の優しさなんだろうと思った。
少しして、ずっと黙っていた片瀬さんが言う。
「柊一、ここまで井上さんが言ってくれてるんだ。次の仕事に同行してもらってはどうだろう? 俺たちが彼女のことは守ってあげればいい」
今度は私に向かって言う。
「勇気のある提案、ありがとうございます。一度俺たちの仕事を見てもらえますか。今まで携わっていなかったあなたにとっては怖いでしょうが、危害が及ばないように全力で守ります」
「……はい、どうぞよろしくお願いします」
私が頭を下げると、片瀬さんが優しく笑った。彼は彼で、笑うと一気に優しさが増して雰囲気が柔らかくなる。二人とも、笑顔の威力がすごい。
黒崎さんは目の前のオレンジジュースを飲んで、少し困ったようにして言った。
「もう、変わってる子だなあ。自ら怖い思いをしに行くなんて。後悔しても知らないよ」
「今すでに不安はありますけど、母も昔やっていたそうだし、なんとかなるかなあって。基本楽観的なんです」
「はは、いいことだね」
黒崎さんは少しだけ笑ったあと、テーブルに頬杖をつき、私に微笑みかけた。
「では、その強い意思に身を任せてみようと思います。ありがと」
「い、いえ、まだお試しですし」
「約束して。僕と暁人からは絶対に離れないって。君に危害が及ばないように、全身全霊頑張るよ」
ゆっくりとした口調でそう言われたので、どきりとしてしまった。あふれ出る色気がすごい、私こんな人と行動を共にして心臓は大丈夫なのだろうか。幽霊よりそっちが心配になってきた。
とりあえず赤くなった顔を隠すように頭を下げる。
「よろしくお願いします……」
片瀬さんが慌てたように言う。
「頭を下げるのはこちらです! 井上さん、無理だと思ったらすぐに言ってくれていいので、本当に」
「はい、やっぱり難しそうだなと思ったら、片瀬さんか黒崎さんにちゃんと言いますね」
私がそういうと、黒崎さんがオレンジジュースを飲みながら言った。
「柊一と暁人だよ。名前で呼んでよ、遥さん」
そんなことを言うもんだから、心で叫ぶ。顔がいいくせに距離感もバグってるし可愛いいんだよこの野郎!
とりあえずお試しということにしてしまったけれど、色々な面で大丈夫なんだろうか。未知の世界に行く不安と、こんな二人に囲まれて行動する緊張が相まっている。
だが私の様子には気付かない柊一さんが、考えるようにして発言した。
「一番近い仕事だとー……今夜なんだよね。遥さん、いける?」
「今夜ですか!?」
予想外の言葉にひっくり返った声を出してしまった。まさか今日、早速仕事があるなんて思っていなかった。まだ心の準備が出来ていないので、焦ってしまう。そんな私を見て、暁人さんが言った。
「柊一、さすがに今日すぐは急すぎて可哀そうだろ。もう少し先がいいんじゃないか」
暁人さんが心配そうに言ってくれる。ああ、しっかり者で気配りも出来る大人の人、って感じだ。柊一さんとはだいぶタイプが違う男性だと思う。
「君をそんな危険な目に遭わせるのはだめだよ。気持ちは嬉しい、でも無謀すぎる」
見れば、まっすぐな目で私を見ている。私は小さく反論した。
「でも、うちの家系は幸運の家系なので、怪我や健康被害の心配はないと母は言っていました」
「万が一ってこともあるでしょ。そこまで君が体を張る必要はないんだよ」
「……でも、母は言っていました。慣れるまで食べる除霊は本当に辛くて、最悪死に至ることもあるって。私、黒崎さんにそんな風になってほしくありません。まだ決意は出来ないけど、お試しにやってみるだけやってみてもいいと思うんです」
私の言葉に、黒崎さんは口をつぐんだ。困ったように視線を落とす。
彼の顔を覗き込むようにして、私はなお言った。
「一度見させてもらえませんか、あなたたちのお仕事。見ることもせず断るなんてしたくないんです。私は浄化以外何も出来ないから役に立たないだろうし、足手まといだと思いますが」
「足手まといだなんて思わないよ」
黒崎さんが私の言葉にかぶせるようにして言った。その目には戸惑いが見える。私を巻き込まないようにと考える、彼の優しさなんだろうと思った。
少しして、ずっと黙っていた片瀬さんが言う。
「柊一、ここまで井上さんが言ってくれてるんだ。次の仕事に同行してもらってはどうだろう? 俺たちが彼女のことは守ってあげればいい」
今度は私に向かって言う。
「勇気のある提案、ありがとうございます。一度俺たちの仕事を見てもらえますか。今まで携わっていなかったあなたにとっては怖いでしょうが、危害が及ばないように全力で守ります」
「……はい、どうぞよろしくお願いします」
私が頭を下げると、片瀬さんが優しく笑った。彼は彼で、笑うと一気に優しさが増して雰囲気が柔らかくなる。二人とも、笑顔の威力がすごい。
黒崎さんは目の前のオレンジジュースを飲んで、少し困ったようにして言った。
「もう、変わってる子だなあ。自ら怖い思いをしに行くなんて。後悔しても知らないよ」
「今すでに不安はありますけど、母も昔やっていたそうだし、なんとかなるかなあって。基本楽観的なんです」
「はは、いいことだね」
黒崎さんは少しだけ笑ったあと、テーブルに頬杖をつき、私に微笑みかけた。
「では、その強い意思に身を任せてみようと思います。ありがと」
「い、いえ、まだお試しですし」
「約束して。僕と暁人からは絶対に離れないって。君に危害が及ばないように、全身全霊頑張るよ」
ゆっくりとした口調でそう言われたので、どきりとしてしまった。あふれ出る色気がすごい、私こんな人と行動を共にして心臓は大丈夫なのだろうか。幽霊よりそっちが心配になってきた。
とりあえず赤くなった顔を隠すように頭を下げる。
「よろしくお願いします……」
片瀬さんが慌てたように言う。
「頭を下げるのはこちらです! 井上さん、無理だと思ったらすぐに言ってくれていいので、本当に」
「はい、やっぱり難しそうだなと思ったら、片瀬さんか黒崎さんにちゃんと言いますね」
私がそういうと、黒崎さんがオレンジジュースを飲みながら言った。
「柊一と暁人だよ。名前で呼んでよ、遥さん」
そんなことを言うもんだから、心で叫ぶ。顔がいいくせに距離感もバグってるし可愛いいんだよこの野郎!
とりあえずお試しということにしてしまったけれど、色々な面で大丈夫なんだろうか。未知の世界に行く不安と、こんな二人に囲まれて行動する緊張が相まっている。
だが私の様子には気付かない柊一さんが、考えるようにして発言した。
「一番近い仕事だとー……今夜なんだよね。遥さん、いける?」
「今夜ですか!?」
予想外の言葉にひっくり返った声を出してしまった。まさか今日、早速仕事があるなんて思っていなかった。まだ心の準備が出来ていないので、焦ってしまう。そんな私を見て、暁人さんが言った。
「柊一、さすがに今日すぐは急すぎて可哀そうだろ。もう少し先がいいんじゃないか」
暁人さんが心配そうに言ってくれる。ああ、しっかり者で気配りも出来る大人の人、って感じだ。柊一さんとはだいぶタイプが違う男性だと思う。
16
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説


ママが呼んでいる
杏樹まじゅ
ホラー
鐘が鳴る。夜が来る。──ママが彼らを呼んでいる。
京都の大学に通う九条マコト(くじょうまこと)と恋人の新田ヒナ(あらたひな)は或る日、所属するオカルトサークルの仲間と、島根にあるという小さな寒村、真理弥村(まりやむら)に向かう。隠れキリシタンの末裔が暮らすというその村には百年前まで、教会に人身御供を捧げていたという伝承があるのだった。その時、教会の鐘が大きな音を立てて鳴り響く。そして二人は目撃する。彼らを待ち受ける、村の「夜」の姿を──。
はる、うららかに
木曜日午前
ホラー
どうかお願いします。もう私にはわからないのです。
誰か助けてください。
悲痛な叫びと共に並べられたのは、筆者である高宮雪乃の手記と、いくつかの資料。
彼女の生まれ故郷である二鹿村と、彼女の同窓たちについて。
『同級生が投稿した画像』
『赤の他人のつぶやき』
『雑誌のインタビュー』
様々に残された資料の数々は全て、筆者の曖昧な中学生時代の記憶へと繋がっていく。
眩しい春の光に包まれた世界に立つ、思い出せない『誰か』。
すべてが絡み合い、高宮を故郷へと導いていく。
春が訪れ散りゆく桜の下、辿り着いた先は――。
「またね」
春は麗らかに訪れ、この恐怖は大きく花咲く。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

怪奇探偵・御影夜一と憑かれた助手
水縞しま
ホラー
少女の幽霊が視えるようになった朝霧灼(あさぎりあらた)は、神戸・南京町にある「御影探偵事務所」を訪れる。
所長である御影夜一(みかげよるいち)は、なんと幽霊と対話できるというのだ。
胡散臭いと思っていたが、夜一から「助手にならへん?」と持ち掛けられ……。
いわくありげな骨董品が並ぶ事務所には、今日も相談者が訪れる。
対話できるが視えない探偵(美形)と、憑かれやすくて視える助手(粗暴)による家系ホラー。
怪奇×ブロマンスです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる