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「怖かったって、お母さん幽霊見えるの!? 私見えないけど」
『あんたも見えるわよーきっと。普段はそういう能力が眠ってるだけ。現場に行って嫌なものに近づけば、冴えて見えるようになるって』
大変軽々しく言ってくれるのだが、これでは当初描いていた流れとは違ってくる。手を握るだけの簡単な仕事だと思っていたのに、現場に同行して幽霊をみる羽目になるなんて!
これはやはり、お断りかなあ。私は肩を落とす。
いいバイトだなって思ったんだけど、厳しくなってきた。謝礼ももちろんだが、昨晩見た黒崎さんの苦しそうな様子を助けてあげたい、という気持ちだって、ないわけじゃない。でもこれは軽々とは受けられない仕事だ。
「そっか……ちょっと考えるよ」
『そうねえ。ま、母さんはやればーって思うけどね』
「軽いな!? 娘が曰くのある場所に行くの心配じゃないの!?」
『だって私たちは幸運の体質だから、怪我したり死んだりするようなことはないと思うし。何より、悪霊を食べた後の人間は、手助けしてあげないと本当に辛いらしいからね。一人前になる前に、死ぬこともある』
その言葉に心臓がひやっとした。何日も意識を戻さないことがある、って片瀬さんは言っていた。最悪な事態もあるということか。
母は不思議そうに言った。
『だから、食べる方法をとる人は、一人前になるまで、必ず私たちみたいな浄化できる人間と行動を共にするはずなんだけどねえ。もう一人の男の人は出来ないって言ってたんでしょ?』
「片瀬さんね。うん、強くない霊を祓ったりは出来るけど、浄化は出来ないって言ってたよ」
『ふうん、よく一人で耐えてるわねえ。助けてあげたらいいのに』
楽観的な母はそう他人事のように言う。いやでも、経験者なのだから、楽観的というわけでもないか。私は困り、言葉を呑んだ。
死ぬこともあるなんて……ほとんど初対面だった人だけど、お隣さんがそんなことになってしまうと、悲しい気持ちになる。私が手を貸してあげれば、そのリスクはぐっと下がる。
どうしよう。
「……もうちょっと考えてみる」
『うん、そうしたら。無理にやれとは言わないわよ、怖いしね。それにしても、今会社が倒産したっていうタイミングも運命的よねえ。なぜだか再就職先も見つかってないし。幸運の体質なのに』
「ほんとだよー! 面接落ちたんだもん!」
『本当に困ったら帰っていらっしゃい』
母は最後にそう優しく言うと、電話を切った。私は多すぎる情報に頭をくらくらさせながら、また床に倒れこんだ。揺れる心に戸惑う。
無縁だった心霊体験をするかもしれない。でも手伝わないと、黒崎さんは命が危ないかもしれない。
謝礼はかなりいい。母曰く私は怪我などの心配はなさそうだ、と。
「困った」
ごろりと寝返りをうち、天井を仰ぎながら呟いた。
三日が経った頃、私は迷いつつもまずは、片瀬さんにラインを送ってみた。あの美人な黒崎さんには、なんとなく送る勇気が出なかったのだ。片瀬さんはすぐに返事を返してくれ、家の近くにあるカフェで三人、落ち合うことになった。
最近はぐっと冷えてきている。昼間よりさらに気温が落ちてきた夕方、震えながら言われた通りの場所へ向かうと、二人はすでに中に入っており、ひときわ目立っていた。黒崎さんはやはり美人すぎる人だし、片瀬さんだってタイプの違う素敵な男性だ。女性客たちがちらちら見ているのが分かる。
気まずく思いながら彼らの席に向かうと、まず片瀬さんがこちらに気付き頭を下げてくれた。
「井上さん! こんにちは!」
「こんにちは! お待たせしてすみません」
「どうぞ座ってください」
「失礼します……」
座ってみるとやはり、視線が痛い。痛すぎる。こんな場所で幽霊の話とかをするつもりか私は? まあ、隣と席は離れているから、会話までは聞かれないだろうけども。
女たちの好奇心と嫉妬の気を浴びながら、片瀬さんが差し出してくれたメニューを眺める。ちらり、と前を見た。
前に座っている黒崎さんが、にこっと笑いかけてくれた。おおう、破壊力凄すぎて死にそう。幸運の体質も、イケメンパワーで心臓が止まるのは止められないかもしれない。
『あんたも見えるわよーきっと。普段はそういう能力が眠ってるだけ。現場に行って嫌なものに近づけば、冴えて見えるようになるって』
大変軽々しく言ってくれるのだが、これでは当初描いていた流れとは違ってくる。手を握るだけの簡単な仕事だと思っていたのに、現場に同行して幽霊をみる羽目になるなんて!
これはやはり、お断りかなあ。私は肩を落とす。
いいバイトだなって思ったんだけど、厳しくなってきた。謝礼ももちろんだが、昨晩見た黒崎さんの苦しそうな様子を助けてあげたい、という気持ちだって、ないわけじゃない。でもこれは軽々とは受けられない仕事だ。
「そっか……ちょっと考えるよ」
『そうねえ。ま、母さんはやればーって思うけどね』
「軽いな!? 娘が曰くのある場所に行くの心配じゃないの!?」
『だって私たちは幸運の体質だから、怪我したり死んだりするようなことはないと思うし。何より、悪霊を食べた後の人間は、手助けしてあげないと本当に辛いらしいからね。一人前になる前に、死ぬこともある』
その言葉に心臓がひやっとした。何日も意識を戻さないことがある、って片瀬さんは言っていた。最悪な事態もあるということか。
母は不思議そうに言った。
『だから、食べる方法をとる人は、一人前になるまで、必ず私たちみたいな浄化できる人間と行動を共にするはずなんだけどねえ。もう一人の男の人は出来ないって言ってたんでしょ?』
「片瀬さんね。うん、強くない霊を祓ったりは出来るけど、浄化は出来ないって言ってたよ」
『ふうん、よく一人で耐えてるわねえ。助けてあげたらいいのに』
楽観的な母はそう他人事のように言う。いやでも、経験者なのだから、楽観的というわけでもないか。私は困り、言葉を呑んだ。
死ぬこともあるなんて……ほとんど初対面だった人だけど、お隣さんがそんなことになってしまうと、悲しい気持ちになる。私が手を貸してあげれば、そのリスクはぐっと下がる。
どうしよう。
「……もうちょっと考えてみる」
『うん、そうしたら。無理にやれとは言わないわよ、怖いしね。それにしても、今会社が倒産したっていうタイミングも運命的よねえ。なぜだか再就職先も見つかってないし。幸運の体質なのに』
「ほんとだよー! 面接落ちたんだもん!」
『本当に困ったら帰っていらっしゃい』
母は最後にそう優しく言うと、電話を切った。私は多すぎる情報に頭をくらくらさせながら、また床に倒れこんだ。揺れる心に戸惑う。
無縁だった心霊体験をするかもしれない。でも手伝わないと、黒崎さんは命が危ないかもしれない。
謝礼はかなりいい。母曰く私は怪我などの心配はなさそうだ、と。
「困った」
ごろりと寝返りをうち、天井を仰ぎながら呟いた。
三日が経った頃、私は迷いつつもまずは、片瀬さんにラインを送ってみた。あの美人な黒崎さんには、なんとなく送る勇気が出なかったのだ。片瀬さんはすぐに返事を返してくれ、家の近くにあるカフェで三人、落ち合うことになった。
最近はぐっと冷えてきている。昼間よりさらに気温が落ちてきた夕方、震えながら言われた通りの場所へ向かうと、二人はすでに中に入っており、ひときわ目立っていた。黒崎さんはやはり美人すぎる人だし、片瀬さんだってタイプの違う素敵な男性だ。女性客たちがちらちら見ているのが分かる。
気まずく思いながら彼らの席に向かうと、まず片瀬さんがこちらに気付き頭を下げてくれた。
「井上さん! こんにちは!」
「こんにちは! お待たせしてすみません」
「どうぞ座ってください」
「失礼します……」
座ってみるとやはり、視線が痛い。痛すぎる。こんな場所で幽霊の話とかをするつもりか私は? まあ、隣と席は離れているから、会話までは聞かれないだろうけども。
女たちの好奇心と嫉妬の気を浴びながら、片瀬さんが差し出してくれたメニューを眺める。ちらり、と前を見た。
前に座っている黒崎さんが、にこっと笑いかけてくれた。おおう、破壊力凄すぎて死にそう。幸運の体質も、イケメンパワーで心臓が止まるのは止められないかもしれない。
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