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とりあえず、保留
しおりを挟む頭の中でぐるぐるといろんな言葉が回っているところに、片瀬さんがスマホに何やらスマホに数字を打った。そしてそれを私に見せる。
「一回につき、これで」
ぎょっとして画面に見入った。あんな簡単なお仕事で、こんなに? 新手の詐欺じゃないかと疑ってしまうほど、いい額である。
呆れたような黒崎さんの声がする。
「暁人、いい加減にして」
「……えっと、少し考えさせてもらってもいいですか。一度母に相談させてください。母はこの能力について知ってるかもしれないので」
私がそう答えると、ひとまず片瀬さんはほっとしたように頷いた。
「ええ、そうですね。そうしましょう。考える時間も必要でしょうからね」
「決まったらまたご連絡する形でよろしいですか?」
「では、連絡先を」
言われたままに片瀬さんと連絡先を交換する。それが終わり、なんとなく振り返ると、ベッドの上の黒崎さんがじっと私を見ていた。威圧感を感じやや戸惑うも、立ち上がって彼に声を掛けた。
「あの、勝手に話を進めてすみません」
「遥さんが謝ることじゃないでしょう。でも、よく考えて。あいつらは強い存在なんだから、接さずに生きていくに越したことはないんだ」
「そうですよね、でも」
「僕が苦しんでるのを放っておけない、なんて、お人よしなことしてると、君がしんどくなるよ」
私を見上げながらそう言ってくる顔は、やはりとてもきれいでどこか儚い。ごくりと唾を飲み込む。そして私は正直に告げた。
「そういう思いもなくはなかったですけど……すみません、今私失業中でして、謝礼という言葉に惹かれただけなんです」
彼の前で嘘はつけない気がした。まっすぐな目が、こちらを見透かしているような感じがする。人間離れしてる不思議なオーラのせいなのか。
私が言った途端、一瞬彼はきょとんとした。そしてすぐに、ぶっと吹き出して笑ったのだ。
「あははは! 正直な人だね」
目を線にして、大きな声で笑い声をあげる。初めて見たその笑顔に、自分は瞬きも忘れて見入ってしまった。
この人、笑うとめちゃくちゃ可愛い。子供みたいな、子犬みたいな顔になる。さっきまでは美しすぎるが故近寄りがたかったけれど、笑うと一気に親近感が増してしまう。破壊力抜群の笑顔だ。
「あああ、あの、すすすみませ」
「まあ、まだ決まったわけでもないもんね。じゃあ、僕とも連絡先交換してくれる? お隣なのに、僕だけ遥さんの連絡先知らないの、ずるいよね」
彼はそう言って髪をかき上げた。可愛いと美しさが相まって、こんな生き物がこの世にいるのかと驚愕している。
震える手で、黒崎さんとも連絡先を交換した。これまでの人生の中で、最も緊張した瞬間かもしれなかった。
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