みえる彼らと浄化係

橘しづき

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手を握る?

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「よかった、全く動かないから、最悪のことを考えてしまっていて……横にしてあげますか? その間、タクシー会社に電話したらいいかと」

「…………」

「あの?」

 なぜ彼はこんなに驚いているんだろう。緊急事態だろうから、早く動いた方がいいだろうに。

 しばし間があったあと、短髪の男性がようやく口を開いた。

「では……お言葉に甘えてもいいですか」

「もちろんです、どうぞ!」

 夜遅く、見知らぬ男性二人を部屋に招き入れるだなんて、お父さんが知ったら卒倒してしまいそう。でも、迷っている暇なんてなかった。

 私は玄関の扉を開けて、二人を部屋の中に入れてあげたのだ。



 やや散らかった部屋で一瞬恥ずかしく思ったが、そんなことを言っている場合ではないので、とりあえずベッドに寝かせるように告げた。短髪の男性は言われた通り、私のベッドにフードの男性を横たわらせた。

 自分のベッドが、真っ黒に染まる。生きているような黒いもやたちは、うねうねと動きながらフードの男性の周りを覆っていた。

 私は冷蔵庫から水を取り出す。

「お水、飲めますかね!?」

 短髪の男性は、ベッドのそばに座り込み、小さく首を振った。

「多分無理です。しばらく意識ないと思うので」

「え!? きゅ、救急車呼びます!?」

「大丈夫です。よくある事なんです」

 そういう彼の横顔は、どこか苦しそうに見える。私は首を傾げて聞く。

「よくある? 持病があるとかですか?」

「病気じゃないです。あの、先ほども聞きましたが、もしかしてこれ見えてます?」

 男性がベッドを指さす。私はあっと声を出し、恐る恐る返事をした。

「えっともしや……黒いやつ、ですか?」

「やっぱり」

「ということは、あなたも?」

 母と弟以外に、これを認識できる人がいたとは。いや、きっとどこかにはいるのだろうと思っていた。口には出さないだけで、これらが見える人はいるはずだと。それでも、今まで生活してきて、出会えたことはなかった。

 彼は頷いた。

「見えます。俺も、あとこいつも」

「そうだったんですね……! あの、大丈夫なんですか、私こんなにこのもやに包まれている人見たことないんです。害はないんですか?」

「ないわけないです。ただ、普通の人間と違って、こいつはこれらを消化できる。時間が経てば徐々に消えていくんです。でも、それにはかなり体力を消耗するし、本人も辛い。程度にもよりますが、しばらく意識を戻さないこともあるし、そのせいで入院したこともある」

「そんなに?」

 つまり、放っておけばいずれは消えるけれど、それには長い時間がかかるし本人も辛い、そういうことか。

 一体彼がなぜこんなことになっているのか気になったが、今はそれよりも彼のことが心配だ。何か楽になる方法はないのだろうか。そういえば、お母さんは蹴散らせる、って言っていたけれど……。

 私が悩んでいると、短髪の男性が静かに言った。

「厚かましいのを承知でお願いします。こいつの手を握ってみてくれませんか」
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