みえる彼らと浄化係

橘しづき

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隣から聞こえる声

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 数日たち、私は相変わらずカフェのバイトに勤しんでいた。一社、再就職の面接を受けたが、残念ながら不採用だった。面接のときは結構いい感触だと思っていたので落ち込んだ。

 倒産してからやはり、どうも色々上手く行かなくなっている。私の幸運もついに尽きたのかなと悲しみながら、夜に帰宅した。

 このままフリーターというわけにはいかないし、早いとこ見つけたいんだけどなあ。バイトだけじゃお金も不安がある。単発バイトをまた入れようかな。

 そう考えながら家に入り、シャワーを浴びて適当に夕飯を作って食べた。その後、一人でスマホを見ながらゴロゴロしていると、いつの間にか日付が変わりそうな時刻になっていた。いけない、最近だらだらしすぎている、生活リズムをしっかりせねば。そう反省してもう寝ようかと、歯磨きをするために洗面所に向かった時だ。

 玄関の向こうから、男性の声がした。

 そんなに大きな声ではなかったが、焦ってるような声色に聞こえた。すぐ近くから聞こえてきたので、お隣さんかもしれない。

 足音を立てないように玄関へ進み、冷たい紺色のドアに耳をつけてみる。するとはやり、困ったような男の人の声がした。

「ほら、しっかりしろ! お前無理しすぎたんだよ。意識はあるか? もう家だから」

 誰かにそう話しかけている。その言葉から想像するに、酒の飲みすぎでべろんべろんになっているとかだろうか。誰かが家まで送ってくれている最中なのだろう。

 いや、この声の主がお隣さんなのか、それとも介抱されている方がお隣さんなのか、私には判断はつかない。

 酔っぱらいで付き添いがいるなら、非常事態ではなさそうだ。私はそこから離れようとする。

「……おい、鍵は!?」

 困ったような声がした。ふと自分の足も止まる。

 再度ドアに耳を当てると、やはりごそごそする物音と、男性の声がする。

「あ……タクシーか? くっそ、柊一、待てるか? 電話して戻ってもらうか……」

 どうやら、家の鍵を落としてしまったようだ。

 意識があるかないか分からないほどの人間を抱えたまま、スマホを取り出して電話をするのも大変だろう。少しそのまま悩んだ末、不憫に思った私は、そっと玄関のドアを開けてみた。

 あの黒いもやは、今どうなっているのだろう。それを知りたいと思った気持ちも大きかった。もしかすると今見たら、すっかりなくなっているかもしれない。そうなら安心だし、お隣のよしみで代わりに電話をしてあげるか、お水の一杯ぐらいあげてもいいかな、そう思って。
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