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一章

サイン

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 王子があんまり嬉しそうにするのでつい有耶無耶になってしまったが、王子は結婚する気はないのだろう。王様が独身だなんて、周りの国からなんと言われることやら。

 そこで、ふとある考えが頭をよぎった。もしかして、王子他に番作るつもりないのでは?・・・それはまずい。いや、だって子供いないはまずい・・・うわぁぁぁ


 あの後王子がすぐ、メイドさんを呼びつけて紙とペンを持ってきてもらうとなにやらスラスラと書き始めてすっかりそれっぽい契約書が完成した。

「はい、サインしてください」

「ありがとうございます」

 渡された紙に目を落とす。大方「王子が王子である限り一緒にいる」的なことだった。しかし、一番下に「婚約者・番になること」と小さな文字で書かれていた。

「カイル王子?これは何ですか?」

「ん?どれですか?」

「これですよ」

 紙を指さしカイル王子に見せるがピンときていないようだった。

「見えないですね・・・ダンの見間違えじゃないですか?」

「この契約無しにしてもいいんですよ?」

「あ、はい。あの、すみませんでした」

 王子は素直に頭を下げた。これは暫くの間使えるかもしれない。まぁ、紙を破いてしまえばこっちの物なわけだし・・・

「だってぇ、ダンなら引っかかっってくれるかと思ったんです」

「引っかかっるわけないでしょう?契約書作り直してください?なんなら、俺が作ってもいいですよ?」

「それは鬼畜な要求されそうなので嫌です」

 王子はグチグチ文句を言いながらも大人しく書いてくれた。新しくなったそれに目を通す。今度は変な事が書かれていないことを再三確認し、自分の名前を書いた。

「はい、書きました。王子も名前書いてください」

「もちろんです」

 王子は直ぐに名前を書いた。そんな簡単に書いて大丈夫なのか?と思わなくもないが信頼されていると思っておこう。

「もし・・・もし、ですよ!僕のことを好きになったら僕と結婚してくれますか?」

「・・・・」

 王子は少し恥ずかしそうに言った。俺も恥ずかしいことを言われている自覚はある。

 オメガと分かってずっと隠してきた。それが偶然カイル王子に出会って恋に落ちて結婚だなんてあまりにも自分勝手過ぎるんじゃないか?国に保護されていたらこうはならなかったと思う。それなのに、ポッと出の俺が王子と結婚するだなんて・・・

「それは・・・その時になって見ないとわかりません」

 俺がそう言うと王子は「そうですよね」と悲しそうに笑った。

「じゃぁ、頑張って結婚したいって言わせてみせます!」

 もう一度空元気で王子は笑った。俺はそう答えるのが当然だとも、妥当だとも思ったので良心は痛まなかった。
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