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一章

捨てる

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 自分で言うのもなんだが、カイル王子は少なからず俺に好感を抱いてくれていると思う。ほぼ毎日遊びに来たり、好きな人とじゃないと番になりたくないと言ったり。俺は家族以外から好意を向けられたことがないから普通だったら嬉しいんだと思う。

 でも、カイル王子は王子であり王様になるお方だ。俺は普通に暮らして、普通に死んでいきたい。王子はそんな俺の生活を願望をいとも容易く脅かす存在だった。


 血も涙もないミラ王子はともかくノエル様まで俺を見捨ててすっかり帰ってしまった。再び部屋に静寂が戻る。

「ダンは僕のこと、嫌いなんですか?」

「嫌いじゃないですよ。嫌いだったらわざわざ家まで来ませんよ」

 やけに怒ったように話すカイル王子に内心ビクビクしながら返事をする。俺は振り返るのが怖くて腰を上げた状態のまま背を向けて話している。

「・・・僕は、ダンに僕のことを好きになって欲しいです。そのためだったらなんだってできます」

「・・・・」

「でも、無理に好きになってとは言いません。ただ、知っていて欲しいんです」

 なんと返事をすればいいのかわからなかった。仮に俺が王子のことを好きになったとしても、それは王子を困らせるだけなんじゃないかと思う。

「ただ、知っていて・・・あんな悲しいこと、もう言わないで欲しい」

 王子は絞り出したような震えた声で言った。

「・・・すみませんでした。でも、俺は王子にはもっと相応しい方がいると思います。それが本心なんです」

「だからぁ!」

 流石に怒られるだろう。でも、ここでハッキリさせなくて後々ごたつくのは面倒だ。それに、そんな人だと思わなかった!と契約を切られたらそれはそれで万々歳だ。

「・・・僕の心をこんなにも揺さぶれるのはダンだけなんです。僕は貴方だけが居ればそれでいいんだ。それなのに、貴方に捨てられたら僕はどうやって生きていけばいいんですか・・・」

「捨てるなんて大袈裟ですよ。ただ、別の、もっとふさわしい方と結婚してくださいと言っただけです。番にはなれる日が来たらなります」

「そうじゃない!」

 カイル王子に腕を引かれ、元に座っていた椅子に腰を下ろした。背を向けている俺にカイル王子は腕を回してきた。・・・・しばらくしてバックハグという状態になっている事に気がつく。

「番は契約だけど、アルファから一方的に解消できてしまうじゃないですか・・・僕はそれが嫌だ」

 身体を密着させて耳元で囁かれ、俺は擽ったくて笑ってしまいそうだった。

「僕はダンとアルファとかオメガとか関係なく、対等でありたいんです。・・・だから、僕はダンと結婚がしたい」

 ・・・・わわっ!少し前から婚約者と紹介したりしていて違和感を感じることはあったけど、今まではなんというか、冗談ぽかったし・・・真剣に言われるとどこか照れてしまった。
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