上 下
16 / 52
一章

嘘つき

しおりを挟む
 巣作りとは簡単に言うとオメガが発情期にアルファの匂いを求めて衣類などを収集することだ。なので、発情期が来ない俺にとっては縁もゆかりも無い話である。


 王子はお手洗いに行く、と部屋を出た。耳まで真っ赤にしていたので子供みたいだなと思いながら後ろ姿を眺めていた。

 部屋が静まり返り暇になってしまった俺はベッドに倒れ込む。布団に顔を押し付け思いっきり息を吸う。変態だとかは置いといて、布団からは柔軟剤の匂いがした。アルファの匂いがするかとも思ったがやはりそんなことはない。

「なんでオメガって分かったんだろ・・・」

 思わず口から出た言葉が部屋に消えていく。ミラ王子は匂いがしないって言ってたし、俺もアルファの匂いはわからない。俺が特異体質だからわからないだけで実は運命の番、とか?いや、だとしたらカイル王子があそこまで冷静なのはおかしい。うーん、わからん

「・・・・」

「ん?」

 廊下から話し声が聞こえてくる。好奇心からドアに耳を当てる。

「だからぁ!兄貴の婚約者はベータだっつってんだろ!」

「そんなわけないじゃないですか!」

「と、とにかく!2人とも落ち着いて!」

 ミラ王子とカイル王子の言い争う声が聞こえる。ミラ王子の発言を聞く限り俺の事で揉めているようだった。

「騙されてんだよ!いい加減目覚ませ!」

「ダンが僕のこと騙すわけないじゃないですか!」

 カイル王子には申し訳ないけど騙すことは多分あるよ・・・収集が付かなそうだし、俺の事のようなので俺も廊下に出た。

「あ!いた!コイツだよ!嘘つき!」

「ダンは嘘なんかつかないって言ってるじゃないですか!」

「落ち着いてー!」

 ミラ王子は俺を見るや否や突っかかってきた。廊下にはミラ王子とカイル王子、それから前のパーティーで会った少年がいた。


 廊下だと色んな人の視線を集めているのでカイル王子の部屋で話すことになった。

「また会ったね!僕、ノエル・アルルカンだよ!ミラきゅんの番候補だよ!」

 向かいに座った少年はそう名乗った。気性の荒いミラ王子をきゅん呼びとは中々勇気がある。

「番候補じゃなくて、恋人だろ」

「あれー?そうだったかな?」

「そうだよ」

 ミラ王子が顔を赤くするのと対照的にノエル様はきょとんとしていた。

「その・・・ミラ王子は婚約者様がいらっしゃらないのですか?」

「あ?いるに決まってんだろ」

「それなのに恋人と言うのは・・・」

「婚約者は婚約者で別に好きなやついるからいーんだよ。俺は俺でノエルがす、好きだし・・・」

 ミラ王子は口篭りながら言う。こんな顔をする人だなんて思わなかった。ましてや、一国の王子が仮面夫婦だなんて信じられない・・・

「君は・・・え~と、ジョン・ルーシャだったかな?あれ?でも、ダンって呼ばれてたからー?ん~?」

 ノエル様は顎に手を当てて首を傾げた。何とも愛らしいお姿だった。

「あ、ダン・ベルサリオです。あの時は訳あって偽名使ってたんです・・・」

「そうだったんだー!僕びっくり!仲良くしてね!僕オメガの友達っていないから嬉しいな!」

「あ、俺もです!」

 ノエル様が出した手を握る。すると、ミラ王子が分かりやすく不機嫌になったので早急に手を離す。そもそも、オメガと会うのは初めてに近い。それに、数える程しかいない友達になってくれるなんてこの上なく嬉しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

処理中です...