上 下
52 / 52
一章

番外編 兄と弟

しおりを挟む
 数年前家を出ていった大好きな兄さんと偶然再開。たまたま通りかかった道からお兄ちゃんの匂いがするから後をつけてみたら縁があって久しぶりに会うことが出来た。

 ダンさんは兄さんの想い人らしいけどダンさんには好きな人がいるから兄さんは失恋したらしい。いつもと何も変わっていないように見えて何処か寂しそうだった。僕にはわかる。弟だから。

 僕は兄さんが好きだからずっと一緒に居たいけど生憎、僕とお兄ちゃんが住んでいるところは山を挟んだ場所にあるので中々会いに行けなかった。

 ダンさんにはカフェに兄さんが来たら連絡するようにお願いしてるけど、それ以降連絡が無いから兄さんは来てないのだろう。やっぱり失恋して落ち込んでるんだろうな・・・・


 そんな兄さんに会いに行こうと思い立ったのが数日前。僕は今騎士団の練習場に居た。もちろん剣を使ったことなんてないから見様見真似で振ってるだけだけど・・・・

「こら!そこ!集中しろ!」

 兄さんに怒鳴られ思わず顔が緩む。久しぶりの兄さん。しかも仕事中。いつもと違う雰囲気を纏っている姿に思わず見とれる。

「うん・・・・わかった」

 返事をしてまた、剣を振り始めた。どうしてこうなっているのかというと話は数日戻る。


 兄さんに会いに街まで来たものの、何処でどうやって会うかを全く考えておらず僕は街を徘徊していた。そうこうしていると、ふと掲示板が目に入った。『騎士団員募集中!皆でこの国を守ろう!』と書かれた紙。

 そうか、騎士団に入れば毎日兄さんに会えるだけでなく一緒に働けるのか!

 そう思いすぐさま応募。今は適性検査中だ。集団行動とか体力とかをテストしているらしい。元々農作業をしていたから体力や筋力にはそこそこ自信がある。集団行動は・・・・した事ないけど・・・・

「よし!今日はここまで!解散!」

『はい!』

 兄さんがそう言うと僕と一緒に訓練をしていた人がその場にへたり込むのを見て貴族は体力がないんだなあと少し優越感に浸る。

「兄さん・・・・僕、どうだった・・・・?」

「エバンス騎士団長と呼べと再三言っているだろう」

「ご、ごめんなさい・・・・」

 もう終わったから良いかと思ったのに・・・・怒られてしまった・・・・

「はぁ・・・・悪くなかったよ」

 そう言うと兄さんは去り際、僕の頭を撫でた。その温もりだけで心が満たされる。僕は「ありがとうございます・・・・にい・・・エバンス騎士団長!」と言うと足取り軽く宿舎に戻った。

 宿舎といっても騎士団が所有している宿舎のため部屋が狭かったり建物が少し古かったりもするが生活に問題はない。第一、食堂のご飯が美味しいので僕としては満足である。

 今日は鳥の照り焼き定食だった。デザートはいちごゼリー。色鮮やかなご飯に胸を踊らせ、空いている席を探す。角の席が空いているのを見つけ向かおうとすると何かが足に引っかかりその場に転倒。当然だがご飯がひっくり返ってしまった。

 顔を上げると笑みを浮かべて僕を見下ろしている人がいた。

「あぁ、悪い。俺の足が長くて引っかかっちまったらしい」

 そう話す人の腕に騎士団の腕章が付いていた。こんな人が兄さんと一緒に働いてるのか。信じられないな・・・・

「わざとじゃ・・・・ないなら・・・・・仕方ないよ・・・・次からは・・・・気をつけてね・・・・」

 俺の言葉はどうやらこの人の逆鱗に触れたらしい。男性は椅子から立ち上がると僕の胸ぐらを掴んだ。僕と身長差が無いから掴まれたところで別に何も無いけど。

「お前ちょっと騎士団長に褒められたからって調子に乗ってんなよ」

「・・・・」

「あ?なんか言ったらどうだ?」

「・・・・僕の方が・・・・腰の位置・・・・高いね」

 男性の顔が紅潮していく。すぐに顔を赤くするなら最初から喧嘩なんか吹っかけなきゃ良いのに。

「お前達何をしてる!業務時間外における隊員同士での喧嘩は禁止されているはずだ!」

「・・・・エバンス騎士団長」

「兄さん・・・」

「何があったんだ・・・・両名とも後で俺の部屋に来い」

 兄さんはそう言うと踵を返して食堂の列に並んだ。僕は胸がいっぱいになり何も食べずに自室に戻った。

 また、怒らせてしまった・・・・。兄さんを怒らせたくてここに来たわけじゃないのに・・・・


 お風呂から上がった後、兄さんと一緒にいた人に案内されて騎士団長室と書かれた部屋へ向かった。

「失礼・・・・します・・・・」

「お、来たか」

「・・・・」

「食堂の話は大方聞いた。手を出さなかったのは偉いが煽ったのは良くなかったな」

「・・・・ごめんなさい」

「別に俺に謝る問題じゃない」

 兄さんは腰を下ろすとため息をついた。疲れていそうな表情。ちゃんと眠れているのだろうか・・・・

「どう・・・・するのが・・・正解だった・・・・?」

「んー俺なら殴ってた」

 予想外の答えに目を見開く。そんな僕をみて兄さんは口を大きく開けて笑った。

「まぁ、人間そんなもんだろ。次からは無視しとけよ」

 僕は無言で頷いた。

「ところで、お前なんで騎士団に志望してるんだ?そんな雰囲気ひとつも無かったのに」

「・・・・それは・・・・あ、憧れの・・・・人が・・・・いるから」

「ふ~ん。まあ、入るからにはビシバシ扱くけどな」

「・・・・入れる・・・・かな・・・・?」

「きっと入れるよ。お前は俺の弟なんだから」

「・・・・うん!」

 いつか、貴方の隣に立って貴方を守れるように努力するからその時まで待っていてね。胸の中でそんなことを想って一人で笑った。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

アイリス
2023.03.29 アイリス

えっ??完結??
えっーーーー🙀
まだまだカイルくんが気になります
是非、第二章をお待ちしてます。

解除
アザラシたまちゃん

カイルくん可愛い((o(。・ω・。)o))

解除
日の丸扇
2022.05.28 日の丸扇

こんにちは、ランキングで見かけて読み始めました。
二面性?ちょっと強引な王子との関係がどうなるか楽しみです。

カラーとパーティーですが、タイトル違うのに同じ内容ですよ。

綿貫 ぶろみ
2022.05.28 綿貫 ぶろみ

日の丸扇さんコメントありがとうございます!
今後の展開をお楽しみ頂けましたら幸いです!

カラーとパーティーの話は個人的には分けているつもりだったのですが、同じと感じられてしまったそうなので工夫してみます!ご指摘ありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。

蒼猫
BL
聖女召喚に巻き込まれた就活中の27歳、桜樹 海。 見知らぬ土地に飛ばされて困惑しているうちに、聖女としてもてはやされる女子高生にはストーカー扱いをされ、聖女を召喚した王様と魔道士には邪魔者扱いをされる。元いた世界でもモブだったけど、異世界に来てもモブなら俺の存在意義は?と悩むも……。 暗雲に覆われた城下町を復興支援しながら、騎士団長と愛を育む!? 山あり?谷あり?な異世界転移物語、ここにて開幕! 18禁要素がある話は※で表します。

お助けキャラの俺は、今日も元気に私欲に走ります。

ゼロ
BL
7歳の頃、前世の記憶を思い出した。 そして今いるこの世界は、前世でプレイしていた「愛しの貴方と甘い口付けを」というBLゲームの世界らしい。 なんでわかるかって? そんなの俺もゲームの登場人物だからに決まってんじゃん!! でも、攻略対象とか悪役とか、ましてや主人公でも無いけどね〜。 俺はね、主人公くんが困った時に助言する お助けキャラに転生しました!!! でもね、ごめんね、主人公くん。 俺、君のことお助け出来ないわ。 嫌いとかじゃないんだよ? でもここには前世憧れたあの子がいるから! ということで、お助けキャラ放棄して 私欲に走ります。ゲーム?知りませんよ。そんなもの、勝手に進めておいてください。 これは俺が大好きなあの子をストーkじゃなくて、見守りながら腐の巣窟であるこの学園で、 何故か攻略対象者達からお尻を狙われ逃げ回るお話です! どうか俺に安寧の日々を。

可愛くない僕は愛されない…はず

おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。 押しが強いスパダリα ‪✕‬‪‪ 逃げるツンツンデレΩ ハッピーエンドです! 病んでる受けが好みです。 闇描写大好きです(*´`) ※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております! また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

なぜか第三王子と結婚することになりました

鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!? こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。 金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です ハッピーエンドにするつもり 長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。