44 / 52
一章
願った姿
しおりを挟む
ノエル様は「また来るねー!王宮にも遊びに来てねー!」と言い残して帰って行った。
この時期は暗くなるのも早いので、日が落ちる頃に訪れる人なんかいない。そのため、早めに店を閉める。
そこでようやく朝ごはんに逃したパンを食べ忘れたことに気がついた。お腹は空いてなかったが、捨てるのはもったいないので無理矢理水で流し込んだ。
お風呂に入り自室に戻る。ベッドの上には後で片付けようと思って置いておいたカラーと昨日抱いて眠ったコートが散らかっていた。
片付けようとも思ったがカイル王子の匂いがしてつい、カラーを枕元に置いて、コートは抱えて布団に入った。
ん?今の考え方はちょっと変態っぽかったか・・・・?
ノエル様の言葉で少し気が軽くなったのか眠りにつくまでは一瞬だった。
「ダンに紹介したい人が居るんです。来てください」
綺麗な庭園をカイル王子に手を引かれて歩く。少し開けたところで綺麗なドレスに身を包んだ女性が待っていた。
「この方は僕の婚約者です」
品のある綺麗な女性は軽く会釈をした。
「婚約者って・・・・?俺じゃなかったんですか・・・?」
脳が状況を理解しきれず足が震える。
「やだなぁ、ダンとはごっこじゃないですかぁ。ごっこだって言ったのはダンですよ」
「あっ・・・・そう、ですね・・・・」
カイル王子が女性の隣に並ぶと王子は女性の腰に手を回した。
何故だろう。嫌な感じがする。胃がムカムカする。
「それで子供もいるんです。おーいおいで」
奥から五歳位の男の子と女の子が出てきた。二人にカイルは慈愛に満ちた眼差しを向けた。
「子供って可愛いですよね。素敵な奥さんも可愛い子供もいるんですよ。なのでダンはもういらないです」
「でも・・・・俺の事愛してるって・・・・」
「やだなぁ、嘘に決まってるじゃないですか!もしかして真に受けたんですか?」
カイルは嘲笑っていた。横にいる女性も呆れるように鼻で笑った。
でも、愛してるって、忘れないって・・・
「その反応図星っぽいですね。そんなお粗末な頭じゃ嘘だって気づかなかったんですか?あ、間違えました気づけなかった、ですね」
カイルはもう一度笑った。カイルの顔から笑顔が消えると何も言わずに俺に背を向けて歩き出した。
『待ってください!』
声に出そうとしたが俺の喉から声は出なかった。何度も必死に叫んで走ったがカイルには追いつけない。
待って!まだ、カイルと一緒に居たいんだ。俺とずっと一緒に居てよ!
「置いて行かないで!」
目が覚めた。悪夢を見たせいで汗で枕が濡れていた。呼吸が荒い。
「夢・・・・最悪の目覚めだ・・・」
汗で体に引っ付く服が気持ち悪かったのでシャワーを浴びた。時計は三時を指していた。
カイルもこんな気持ちだったのだろうか。あれが本来のあるべき姿。いつか願っていた姿のはずなのに素直に祝えないなんて傲慢になったものだ。
申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「ごめんなさい」
伝えたい相手はそこにいないのに自然と口から言葉がもれた。
この時期は暗くなるのも早いので、日が落ちる頃に訪れる人なんかいない。そのため、早めに店を閉める。
そこでようやく朝ごはんに逃したパンを食べ忘れたことに気がついた。お腹は空いてなかったが、捨てるのはもったいないので無理矢理水で流し込んだ。
お風呂に入り自室に戻る。ベッドの上には後で片付けようと思って置いておいたカラーと昨日抱いて眠ったコートが散らかっていた。
片付けようとも思ったがカイル王子の匂いがしてつい、カラーを枕元に置いて、コートは抱えて布団に入った。
ん?今の考え方はちょっと変態っぽかったか・・・・?
ノエル様の言葉で少し気が軽くなったのか眠りにつくまでは一瞬だった。
「ダンに紹介したい人が居るんです。来てください」
綺麗な庭園をカイル王子に手を引かれて歩く。少し開けたところで綺麗なドレスに身を包んだ女性が待っていた。
「この方は僕の婚約者です」
品のある綺麗な女性は軽く会釈をした。
「婚約者って・・・・?俺じゃなかったんですか・・・?」
脳が状況を理解しきれず足が震える。
「やだなぁ、ダンとはごっこじゃないですかぁ。ごっこだって言ったのはダンですよ」
「あっ・・・・そう、ですね・・・・」
カイル王子が女性の隣に並ぶと王子は女性の腰に手を回した。
何故だろう。嫌な感じがする。胃がムカムカする。
「それで子供もいるんです。おーいおいで」
奥から五歳位の男の子と女の子が出てきた。二人にカイルは慈愛に満ちた眼差しを向けた。
「子供って可愛いですよね。素敵な奥さんも可愛い子供もいるんですよ。なのでダンはもういらないです」
「でも・・・・俺の事愛してるって・・・・」
「やだなぁ、嘘に決まってるじゃないですか!もしかして真に受けたんですか?」
カイルは嘲笑っていた。横にいる女性も呆れるように鼻で笑った。
でも、愛してるって、忘れないって・・・
「その反応図星っぽいですね。そんなお粗末な頭じゃ嘘だって気づかなかったんですか?あ、間違えました気づけなかった、ですね」
カイルはもう一度笑った。カイルの顔から笑顔が消えると何も言わずに俺に背を向けて歩き出した。
『待ってください!』
声に出そうとしたが俺の喉から声は出なかった。何度も必死に叫んで走ったがカイルには追いつけない。
待って!まだ、カイルと一緒に居たいんだ。俺とずっと一緒に居てよ!
「置いて行かないで!」
目が覚めた。悪夢を見たせいで汗で枕が濡れていた。呼吸が荒い。
「夢・・・・最悪の目覚めだ・・・」
汗で体に引っ付く服が気持ち悪かったのでシャワーを浴びた。時計は三時を指していた。
カイルもこんな気持ちだったのだろうか。あれが本来のあるべき姿。いつか願っていた姿のはずなのに素直に祝えないなんて傲慢になったものだ。
申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「ごめんなさい」
伝えたい相手はそこにいないのに自然と口から言葉がもれた。
4
お気に入りに追加
802
あなたにおすすめの小説
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜
なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる