【完結】聖人君子で有名な王子に脅されている件

綿貫 ぶろみ

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一章

片付け

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 自分が完全なオメガだったら良かったのに、なんて思ったのは初めてかもしれない。そしたら番にもなれたし、子供も作れたのになぁ・・・・

 割れたコップを片付けながら考える。

 どうすればよかったのかなぁ・・・・きっとこれから素敵な奥さんと子供に囲まれて暮らしていくんだろうなぁ・・・・

 わかってはいたけどそこに自分が居ることができないという事実にどうしても涙が出てくる。

 危ういくらい優しい人だからきっと国民に慕われるいい国王になるよ。俺が保証する。何様なのって感じだけど・・・・俺がいないところでも幸せだったらいいなぁ。『忘れない』って言ってくれて嬉しかった。あの言葉だけで一生生きていける

「はぁ・・・・」

 静まり返った部屋にため息と鼻をすする音が響く。

 俺の事を気にかけてくれて嬉しかった。一緒にケーキ食べて他愛ない話をしてる日がずっと続けことを願ってた。そんなこと出来ないとわかっていても期待してしまった。


 何をするにも気力が無くなり、おぼつかない足取りで部屋へ向かう。クローゼットを開け、カイル王子に貰った服を胸に抱えたままベッドに倒れ込む。

 高いブランドもののコートからは、優しい匂いがする。自分で手放した温もりを思い出してそのまま寝落ちた。


 時計の音で目を覚ます。鼻が詰まっていたせいで草木の匂いはしなかった。

 切り替えのためにも今日から店を開くことに決めた。食材調達に山へはいるので動きやすい服に着替える。

 泣き腫らした顔を洗い朝ごはんのために下の階に降りる。机の上には見慣れたカラーが置いてあった。

 カイル王子が忘れていったのか・・・・持って帰ってくれたら良かったのに。そしたら思い出さなかったのに

 顔を洗いすっきりした気分が昨日の事を思い出してまた落ち込む。なよなよしててはいけないと、自分に喝を入れる。

 そう思いながらパンを焼いてバタートーストを作る。お皿に盛り付けて着席するが、あまり食欲がなかったので食べずにお昼ご飯することにした。

 山に入ると栗が落ちていた。時期がまだ少し早いこともあり今日は少量だったが、ピークになればたくさん拾えるだろう。

 モンブラン、ジャム、ロールケーキ・・・・想像が膨らむ。どれも美味しいだろうなぁ。

 自宅兼カフェに戻り、開店準備に取り掛かる。栗は美味しいけど殻を剥くのがちょっと大変だ。そうこうしている内にあっという間に開店時間になった。

 久しぶりの開店だった事もあり、常連さんが来てくれて売上は中々のものだった。

 お昼を前に王家の紋様が入った馬車が店の前で止まった。

 カイル王子が来たのかと思い思わず身を隠した。
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