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一章
理由
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入口にいた燕尾服を着た男性に招待状を確認してもらい、中に案内される。
中では既にパーティーが始まっており、賑わいを見せていた。心做しか前に参加した時よりも人が多い気がする。何人かの視線が刺さったが気に止めて居ない人も少なくない。
前とは違いカイルがいないのは正直かなり心細かったが「大丈夫だ」と言い聞かせてローラ嬢を群衆の中から探し出す。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
「ええ、ようやく来たの。せっかく馬車をやりましたのに遅刻だなんて・・・」
ローラ嬢の取り巻きの笑い声が聞こえた。俺はちゃんと馬車が着いたらすぐに乗ったからあの時間に馬車をやったのはわざとなのだろう。
「すみません。支度に時間がかかってしまって・・・」
わざとらしくカラーに手をやった。ローラ嬢の眉がぴくりと動く。
「なに、別にいいわ」
ローラ嬢は平常を装いながら俺に下がるようにジェスチャーをした。
心臓がうるさかった。緊張からの緩和。1人でも大丈夫だった事への安堵。様々なことが込み上げて思わずため息が出る。
華やかな食事を見てテンションが上がったがミラが「食べちゃダメ!」と言っていたことを思い出して手を止める。
王族のカラーをつけているため興味本位の視線を感じることはあったが実際に話しかけてくる人はいなかった。特にすることも無かったがすぐに帰ってしまっては失礼になるかと思い外に出た。
日中は暖かかったが夜はそうもいかない。肌寒い中星空を眺める。
ローラ嬢は苦手だ。家柄も人望も容姿も性別も全てを持っている人を見ていると、途端に自分に自信が無くなってくる。
どうして、カイル王子は俺を選んだのだろう。何に魅力を感じたのだろうか。婚約関係への反発心のようなものだったのかもしれない・・・・そうだったらちょっと悲しいかなぁ
目頭が、喉の奥が熱くなる。零れないようにと必死に歯を食いしばったが、そんな努力も虚しく目からボロボロと涙が零れ落ちた。慌ててハンカチで拭う。
「魅力的だって言ってくれたから」
掠れた声でそう発した。少し自分を元気づける。
一国の王子がそう言ってくれたんだ。かっこよくて優しくて少し変わってる王子が言ってくれたんだ・・・・なんで俺なんだろう・・・・もっと相応しい人が居るのにどうして・・・
「そこのお兄さん。一杯いかがですか?」
背後から声をかけられハッとする。ぐしゃぐしゃになった顔を拭い引きつった笑みを浮かべる。
「すみません。お酒は飲めなくて」
振り返るとブラッドが居た。昔みたいに温かい笑顔を浮かべて。そんなお兄ちゃんを見ていると無理やり止めた物がまた溢れ出してきた。
「わっちょっえっ?!俺が泣かせたみたいになるじゃねぇかよ!」
慌てふためくブラッドを見ていると自然と笑みが溢れた。ブラッドは暫く固まった後両手を広げた。仮にも番予定ががいる身で・・・・と困っているとブラッドに強引に引き寄せられた。昔と変わらない匂いに全身が包まれる。
「なんで俺なんだろう・・・俺じゃなかったら良かったのに」
「・・・・」
ブラッドは何も言わなかった。いや、不器用な人だからかける言葉が見つからなかったのかもしれない。でも、今はそれがありがたかった。
中では既にパーティーが始まっており、賑わいを見せていた。心做しか前に参加した時よりも人が多い気がする。何人かの視線が刺さったが気に止めて居ない人も少なくない。
前とは違いカイルがいないのは正直かなり心細かったが「大丈夫だ」と言い聞かせてローラ嬢を群衆の中から探し出す。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
「ええ、ようやく来たの。せっかく馬車をやりましたのに遅刻だなんて・・・」
ローラ嬢の取り巻きの笑い声が聞こえた。俺はちゃんと馬車が着いたらすぐに乗ったからあの時間に馬車をやったのはわざとなのだろう。
「すみません。支度に時間がかかってしまって・・・」
わざとらしくカラーに手をやった。ローラ嬢の眉がぴくりと動く。
「なに、別にいいわ」
ローラ嬢は平常を装いながら俺に下がるようにジェスチャーをした。
心臓がうるさかった。緊張からの緩和。1人でも大丈夫だった事への安堵。様々なことが込み上げて思わずため息が出る。
華やかな食事を見てテンションが上がったがミラが「食べちゃダメ!」と言っていたことを思い出して手を止める。
王族のカラーをつけているため興味本位の視線を感じることはあったが実際に話しかけてくる人はいなかった。特にすることも無かったがすぐに帰ってしまっては失礼になるかと思い外に出た。
日中は暖かかったが夜はそうもいかない。肌寒い中星空を眺める。
ローラ嬢は苦手だ。家柄も人望も容姿も性別も全てを持っている人を見ていると、途端に自分に自信が無くなってくる。
どうして、カイル王子は俺を選んだのだろう。何に魅力を感じたのだろうか。婚約関係への反発心のようなものだったのかもしれない・・・・そうだったらちょっと悲しいかなぁ
目頭が、喉の奥が熱くなる。零れないようにと必死に歯を食いしばったが、そんな努力も虚しく目からボロボロと涙が零れ落ちた。慌ててハンカチで拭う。
「魅力的だって言ってくれたから」
掠れた声でそう発した。少し自分を元気づける。
一国の王子がそう言ってくれたんだ。かっこよくて優しくて少し変わってる王子が言ってくれたんだ・・・・なんで俺なんだろう・・・・もっと相応しい人が居るのにどうして・・・
「そこのお兄さん。一杯いかがですか?」
背後から声をかけられハッとする。ぐしゃぐしゃになった顔を拭い引きつった笑みを浮かべる。
「すみません。お酒は飲めなくて」
振り返るとブラッドが居た。昔みたいに温かい笑顔を浮かべて。そんなお兄ちゃんを見ていると無理やり止めた物がまた溢れ出してきた。
「わっちょっえっ?!俺が泣かせたみたいになるじゃねぇかよ!」
慌てふためくブラッドを見ていると自然と笑みが溢れた。ブラッドは暫く固まった後両手を広げた。仮にも番予定ががいる身で・・・・と困っているとブラッドに強引に引き寄せられた。昔と変わらない匂いに全身が包まれる。
「なんで俺なんだろう・・・俺じゃなかったら良かったのに」
「・・・・」
ブラッドは何も言わなかった。いや、不器用な人だからかける言葉が見つからなかったのかもしれない。でも、今はそれがありがたかった。
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