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一章

サンドイッチ

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「で?ダンは今日街で何してたんですか?」

 ギクリとして変な汗が全身から吹き出る。

「いや、だから所用ですよ」

「本当ですかね?山にひきこもってるダンに所用があったなんて思えませんけどねえ?」

 ぐっ・・・・鋭いところをついてくる。その通りだけど、好きで引きこもってるんじゃない、出れないだけだ

「俺にだって所用の一つや二つありますよ」

「ふーん・・・ところで、今日ローラ様と何を話してたんですか?」

 口に入れたコーヒーを思わず吹き出しそうになる。そんな俺をカイルはにやにやしながら見ていた。さながら「僕に隠し事は出来ませんよ?」とでも言わんばかりに

 知ってて聞いてくるなんてタチが悪い。知られたくなかったから隠したのに

「別になんて事ないですよ。偶然お会いしたので、軽く挨拶をしただけです」

「そうだったらいいですけどね・・・・」

 パーティーの招待状を貰ったことまでバレているのだろうか・・・いや、いっその事話してしまった方がいいのかもしれない

 でも、元はと言えば俺がまいた種じゃないのか?めんどくさいことに首を突っ込んでる自覚はある。それにカイルを巻き込むべきじゃないんじゃないか?

 そんな事を思いながら眠りについた。ベッドに入ると当然のようにカイルもベッドに入ってきた。1人用のベッドに成人男性2人が寝ているのだからすごく狭い。いつもなら追い出すが、今日は背中の温もりにひどく安心した。


 朝になり、店の準備をする。今日はパンを焼くので、ついでにカイルの朝ごはんのサンドイッチも作る。卵を焼いて野菜とハムを挟んだ王族から見ればすごく質素なものだけど・・・

「いい匂いですね。何作ってるんですか」

 ボサボサの髪の毛のままカイルが降りてきた。するっと俺の後ろに周り顎を肩に乗せた。

「サンドイッチですよ。準備できてるので食べてください」

「本当ですか!ありがとうございます!ふふっ」

「どうしたんですか?」

「いや、今の会話すごい恋人っぽいなと思って」

 王子が「えへへ」と腑抜けた声を出す。緩みきった顔を威厳も何も無いなと思いながら眺める。

「朝から冗談言ってないで早く食べてください」

「僕は本気なのに・・・」

 朝食を食べるとカイル王子は馬車に乗って王都に帰って行った。「お昼ご飯も作ってください」と甘えるような声を出すのでつい絆されて朝食と被らないようにフルーツサンドを作った。

 カイルは優しいからサンドイッチ被りしてるとか野暮なことは言わないでくれた。

 どんどん小さくなる馬車を見ていて気がついたのだけれど、俺とカイル王子の関係性ってほとんど甘える子供とお母さんだな。


 店を開けると、小さな女の子が勢いよくドアを開けた。ショーケースに並べられたパンに目をきらきらさせている。保護者が見つからないのであわあわしていると暫くしてジルさんが入ってきた。

「悪い悪い。姪を預かっててさ」

「あっそうだったんですね」

 少し怖い顔つきのジルさんとは似ても似つかない顔の少女とジルさんを交互に見る。

「ほら自己紹介して」

「アナです・・・」

 俺と目が合うとジルさんの後ろに隠れて恥ずかしそうに言った。その姿に思わず笑みが零れる。

「何にしようかな」

 ジルさんもショーケースの前で屈む。1人でお店をやっているからそこまで種類が多いわけでもないのに・・・

「今日のおすすめはコロッケパンです」

「おっじゃぁ1つ貰おうかな」

 ジルさんが言うとアナちゃんが「わたし、メロンパン!」と言った。子供はやはり可愛いなとしみじみ痛感する。

 お店がめちゃくちゃ繁盛しているわけでもないので、いつもこの時間はメニューを考えたりしているが今日はそういう訳にも行かない。

 パーティーのこと、パーティーのことをカイルに話さなかったことで頭がいっぱいだった。話すべきだったかもしれない。でも、巻き込むべきじゃない。どうするのが正解なのかわからない

 苦悩に頭を抱える。

 いつまでもカイルの優しさに甘えるべきじゃない。
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