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一章

大事な人

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 時計の音で目を覚ます。深呼吸すると草木のいい匂いが鼻腔を刺激した。やっぱりこの土地は素晴らしいと改めて実感する。ただ、いつもと違うのは同じ部屋で王子が寝ていることだ。

 綺麗な横顔を眺める。銀色のまつ毛がキラキラと光っていた。どこかの神殿に描かれていそうな風貌に思わず見とれてしまう。

「ん・・・おはようこざいます」

 王子は目を擦りながらゆっくり身体を起こした。

「おはようございます」

 ベッドから降り、着替え始める。珍しく他人と寝たためか、まだ眠い。クローゼットを開けて服を出す。と、いっても着る服はいつも同じなんだけど。

「ふふっ」

「・・・なんですか?」

「いや、僕の服置いてくれてるんだなって」

「・・・あたりまえですよ。こんな高そうなもの捨てられません」

 俺が反論すると「僕のだからじゃないんですね・・・」としょんぼりしていた。この場にいるのがいたたまれなくて、音速で着替えを終えて下に降りる。

 俺が朝ごはんの準備をしているとおに・・・ブラッドとジャック様が降りてきた。2人は楽しそうに話していた。義兄弟とはいえ、本当に仲がいいのだと関心する。

「おっいい匂いするな。・・・・ダンの匂いか?」

「・・・コロッケサンドの匂いだよ。冗談言ってないでもう少しでできるから座ってて」

 一瞬ドキリとしたがカイル王子と関わるようになって俺も上手くかわすすべを身につけたと思う。成長を感じる。

「いい匂いがしますね。あっ、ダンの匂いですかね」

 遅れて降りてきたカイル王子もそう言った。この人達は本当に・・・言い返す気力もなくなった俺は朝食を運んだ。


「そういえば、カイル王子は何時に王都に戻るんだ?」

「もう少ししたら戻りますよ」

「ふーん・・・じゃぁ、俺もそれに合わせて戻ろっかな」

「え・・・兄さん・・・帰っちゃう・・・の?」

 ジャック様が寂しそうに言う。久しぶりの再会なのに一日で楽しい時が終わってしまうのはなんとも酷な話だろう。

「そんな顔すんなよ、実家には行かねぇかも知んねえけどまたこの店には来るからよ」

「じゃあ、ダンさん・・・兄さんがこのお店に来たら・・・連絡して」

「あ、はい」

 ジャック様に連絡先の書かれた紙を貰う。しれっと騎士団長様が通うことが確定してることに恐怖を覚える。まぁ、お兄ちゃんと会えるのは嬉しいけど。

 それからしばらく雑談していると馬車が家の前に着いた。カイル王子は「荷物を纏めて来ます」と上の部屋に戻っていった。荷物なんていつも持ってきていないのに。

「僕も・・・歩きだから・・・先に・・・帰る・・・ね」

 ジャック様は名残惜しそうに帰って行った。哀愁のただよう背中を見送る。

「ブラッドも帰る準備したらどうですか?」

「いや、俺は荷物とかないから」

「そうですか・・・」

 昨日の今日で2人きりになるのに耐えれるほど俺の神経は図太くなかった。

「・・・なぁ、昨日言ったこと考えてくれたか?」

「・・・お兄ちゃんはお兄ちゃんだから・・・番にはなれないよ」

「・・・そうか」

 部屋に静寂が流れる。俺にとってお兄ちゃんはお兄ちゃんでそれ以上でも以下でもなくて・・・番になりたいとかは俺にはわからないけど・・・ずっと一緒にいたいお兄ちゃんだから・・・

「じゃぁ、もっかい聞くけどカイル王子のことは好きなのか・・・?」

「・・・それは・・・好きとかは俺はわかんない」

 俺がそう答えるとお兄ちゃんは眉をひそめた。

「でも・・・カイル王子は大事な人・・・だよ」

「そうか」

 声のトーンは変わらなかったけれど、お兄ちゃんはどこか嬉しそうな、安心したように言った。

 その後、ブラッドは迎えの馬車が来たからと「来週あたりまた来るわ」とだけ言い残して帰って行った。そこであることに気づく。王子、降りてくるの遅くないか?
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