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一章

ずるい!

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 王子に脅されて契約した。最初はそうだった。一緒にいると、自分のような特異な存在を許してくれる気がした。心地よかった。契約の解消は恐らく可能だった。王子は優しいから。じゃあ、なぜ解消しなかった?自分が王子の足枷になっているとは思わないのかい?自分程度のオメガが王子の足枷だなんて自惚れたものだ


 ブラッドの発言に脳が停止する。そんな事を言われるなんて思いもしなかった。いや、頭の片隅ではジャック様の話を聞いた時に考えていたのかもしれないがそんな事はないと信じていた。

 体温が一気に上がることを感じる。月明かりに照らされたブラッドの顔は真っ赤だった。

「俺はダンのことが何年も前から好きなんだ。会いに行けなかったのは悪いと思ってる。償いって考え方はおかしいかもしれないけど、その分これからの時を一緒に過ごしたいんだ。・・・ダンがよければ、だけど」

 ブラッドは目線を落とした。俺は頭が真っ白になり、何と反応すればよいのかわからなかった。

「首に噛み跡がないってことはまだ番にはなってないんだろ?ダメかな・・・?」

「・・・それは、その」

「王子との契約が気になるなら俺から白紙に戻せないか頼んでみる」

「・・・」


 家に戻るとカイル王子はジャック様と何か話していた。相変わらずコミュニケーション能力が高いことで。

「あ!やっと戻ってきましたね」

「遅くなりました」

 王子はパッと表情を明るくするとわざわざ立ち上がり、俺が座っていた椅子を引いてくれた。本当によく出来た人だと思う。

「何話してたんですか?」

「大したことじゃないですよ。昔の思い出話に浸ってたんです」

「ふーん・・・」

 王子の視線が俺の善意を刺した。王子の目を見ると嘘をつけない気がするのは一体何故だろう。羊が一匹・・ダン羊が二匹・・・どうでもいい事を考えて気を紛らわせる。

「今日はもう遅いですし、ジャック様とブラッド様も泊まっていかれたらどうですか?」

「ちょっ!何勝手なこと言ってるんですか!」

「あー・・・そうしよっかな」

「僕も・・・兄さんが泊まるなら・・・」

 1人2人ならなんとかなるが、さすがに3人泊まるには苦しいところがある。2人を客室に押し込んで1人は俺の部屋で寝てもらえばなんとか・・・

「じゃあ、僕とダンは寝室を使いますので、ブラッド様とジャック様は客室で寝てください」

「いや、ちょっと待てよ」

「ん?何がですか?」

 言い争いの末、ブラッドにジャンケンで勝ったカイル王子と同室で寝ることになった。ベッドの横に布団を敷く。

「俺が下で寝ますんでカイル王子はベッド使ってください」

「さすがに申し訳ないですよ」

「気遣わなくて大丈夫です」

 王子が渋々ベッドに入るのを確認してから消灯し、俺も布団に入った。こ、これってすごくお泊まり会っぽいのでは・・・?!どんな人が好きだとか、どんな人が嫌いだとか話すのでは・・・?しかし俺はもう19なのでそんなことしたいとかは全然思ってない。うん。全然思ってない

「寝る前にお願いなんですけど」

「はいっ!」

「1回でいいので呼び捨てで呼んでくれませんか?」

「まだ言ってたんですか!」

 もう忘れたと思っていた。なんなら上手く回避できた、ラッキーとか思っていたのに・・・・

「お願いです。ブラッド様のことは呼び捨てなのずるいですよ」

 それで不機嫌だったのかと納得する。名前の呼び方なんていちいち気にすることか?

「明日も早いんでもう寝ますよ」

「お願いです。ね?」

「・・・カイル」

「はい!」

「なんですかこれ!」

 俺がそう言うと王子は「へへっ」と笑っていた。その後すぐ、目を瞑ったが心臓がバクバクしてなかなか寝付けなかった。
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