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一章

お兄ちゃん

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 引きこもりの俺はあまり好意というものを向けられたことがないわけである。両親と、お兄ちゃんと・・・カイル王子に関してはどちらかというと執着に近い気がしなくもないけど・・・

 お兄ちゃんに会うのは実に6、7年ぶりな訳で正直聞きたいことや、話したいことがいっぱいある訳だ。どうして、何も言わず消えたのー?とか今どんな仕事してるのー?とかどうでもいいことかもしれないけれど、昔みたいになんでも話せる関係になれたらと思っている。


 俺が下に着くと、店の前でウロウロして落ち着きがないジャック様が目に入った。迷子になり心細くなっている子供みたいだった。

 馬車のドアが開けられ中から綺麗な赤髪の人物が出てきた。数年ぶりに合うお兄ちゃんは騎士団長の名にふさわしい引き締まった体格で腰に剣をぶら下げていた。

 お兄ちゃんだと、一目で確信し思わず駆け出した。店のドアを勢いよく開けるとカイル王子が立っていた。

「ダンはその前にカラーつけてくださいね」

 必要ないという俺を無視してカイル王子は連行し、パーティーの時と同じカラーを首につけた。不快な窮屈さに眉をしかめると「いつかは外しますからそんな顔しないでください」と宥められる。

 外からはジャック様のはしゃぐ声が聞こえた。


 騎士団長ということもあり、数名の団員と思しき人を引き連れてお兄ちゃんは店の中に入ってきた。爽やかな空気を大切にしているお店が一気に博物館のような重々しい空気に変わる。

「兄さん・・・久しぶり・・・だね」

「おう」

 お兄ちゃんとジャック様が横並びに座り俺とジャック様がはその向かいの席に座った。

「ダンも、久しぶりだな」

 まるで何事も無かったかのようにお兄ちゃんは俺の頭を撫でた。会わなくなってから、気にしていたのは俺だけだったのかもしれない。

「久しぶりだね。お兄ちゃん」

「・・・その、あれだ。あの時は、急に消えて悪かった」

 お兄ちゃんは俺とジャック様に深々と頭を下げた。お兄ちゃんが思っていた以上に昔と変わっていなくて驚いた。しかし、お兄ちゃんの後ろに立っていた団員さん達がザワザワし始めた。。

「俺、ずっと待ってたんだよ。お兄ちゃんがいつか帰ってくるって思って」

「悪かったよ。あの時は色々あったんだし」

 色々、については聞かない方がいいのだろう。でも、弟にも言わないなんて本当に何があったのだろうか・・・まぁ、時間をかけてちょっとづつ聞いていけばいいか・・・

「なぁ、ダン首につけてるのって・・・」

「僕があげたんですよ。ダンも僕と番になると言ってくれましたし」

 カイル王子がマウントを取るように言った。言い方もあいまってか、お兄ちゃんの表情は険しくなった。

「ダンはそれでいいのか・・・?俺はさ、ダンには好きな人と番になって欲しい」

 お兄ちゃんは昔と何も変わっていない真っ直ぐな目で俺に言った。俺はその目に応えられる気がしなくて、自信がなくて思わず目を逸らした。
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