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一章

図星

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 お兄ちゃんがいなくなったことは十分に知っていたが、弟がいることも騎士団に入ったことも初耳だった。お兄ちゃんは面倒見がよく、コケて怪我をすると決まって俺の手当をしてくれた。

 お兄ちゃんと呼んでいたことと、何年も前ということもあり名前をすっかり忘れていたがブラッドという名前は山篭りしている俺でも聞いたことがあった。最年少騎士団長として―

 
 ジャックが「会いたい!」とバタバタしながらいうのでカイル王子は仕方ないといった表情をしていた。俺よりも2人の方がよっぽど兄弟っぽいと思う。

 カイル王子が「ダンはお店の営業があるので連れてきますよ」と俺の事を気遣いながら出ていった。王子をパシリに使うとはなかなかない経験だった。ジャック様は相変わらずバタバタソワソワしていた。

「兄さんは・・・ダンさん・・・のことが好きだったんだ・・・よ」
 
 チェリーパイを食べながらジャック様は言った。危うく口に含んでいた紅茶を吹き出すところだった。

「な、何言ってるんですか!」

「だって・・・兄さん、よく言ってた・・・ダンは世界一可愛い・・・って」

「それは、ペットとかに向ける感情と同じものですよ」

 俺が諭すように言うと、ジャック様はゆっくり首を振った。

「兄さん・・・よく言ってた・・・俺がアルファでダンがオメガだったらいいのに・・・って」

 自分で言うのもなんだが、可愛がられていた自信はあったし俺もお兄ちゃんのことが大好きだった。しかし、それが恋愛感情だなんて思いもしなかった。

「そんなの冗談ですよ。大体、あの時僕9歳とか10歳ですよ?」

「でも・・・今は違う・・・でしょ?」

 図星を突かれる。今はあの頃とは違う。お兄ちゃんが言っていたことが本当になったのだから。お兄ちゃんはアルファで俺はオメガだ。

 昔は明るかった俺の性格もすっかり内向的になってしまった。お兄ちゃんも変わってしまったのだろうか・・・・もう、昔とは違うんだ・・・

 重苦しい気配を感じて、「洗濯してきます」と嘘をつき席を離れる。特にすることも無いので、ベッドに倒れ込んだ。ベッド横にある棚からいつの日か買ったミサンガを取り出す。カイル王子に出会う前に一度でも出会えていたら何か変わったのだろうか。

 今でも自分のことを好いてくれている前提で考えていることに嫌悪感を覚えつつミサンガをポケットに押し込む。もうかつての俺もお兄ちゃんもいない。そう思うと無性に寂しくなった。


 そんなことを考え、ぼうっとしていると馬の足音が聞こえてきた。身体を起こし、窓から顔を出す。王族の家紋と騎士団の紋様が入った馬車が店の前に止まっていた。馬車から騎士団の人が降りてくるのを見て俺は慌てて下に降りた。
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