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一章

兄さんになって

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 俺はフェロモンが少ないので、アルファの血の濃いミラ王子でさえ、俺がオメガだとは気づかなかった訳である。カイル王子にななぜかバレたけど・・・


 男性は嬉しそうに笑った。何年も失っていた宝物をようやく見つけたように。

「ダン・・・さんって・・・番の人いるの・・・?」

「いえ、オメガじゃないので」

 男性の前に牛乳を置いた。すっかりパンを食べ終わっていた。

「フェロモンの・・・匂い・・・する。あんまり濃くはないけど・・・僕は鼻が・・・いいから」

 男性は俺を見上げると「嘘つかなくていいよ」と言わんばかりの無邪気な笑みをこちらに向けた。

「あなた、さっきからなんなんですか!僕の番にちょっかい出さないでくれますか!」

 正確には番ではなく、番の予定なだけだけれど今は訂正しなかった。何を考えているかわからない男性よりもカイル王子の方がマシだと思ったからだ。

「・・・番・・・いるんだ」

 男性はしばらくしょんぼりした後また起き直った。

「じゃぁ・・・僕の・・・兄さんになって・・・ほしい」

「・・・・はい?」

 俺は耳を疑った。お兄ちゃんになる・・・?目を見開く俺に男性はもう一度無邪気で不適な笑みを向けた。


 『ジャック・テイラー 16歳 バース性 ベータ』見せてもらった身分証にそう書かれていた。自分だけ見せてもらうのもおかしいと思い俺のも渡す。

「やっぱり・・・僕の・・・・兄さんに・・・なって」

「だから!何でそうなるんですか!」

「僕・・・兄さんが・・・何年か前にいなくなっちゃって・・・ダン・・・さんと知り合いだったと思うんだけど・・・・」

「・・・・あ!お兄ちゃんってあの!お兄ちゃん?弟いたの?!」

 何年も前によく遊んでもらっていたお兄ちゃんが脳裏をよぎる。

「うん・・・血の繋がりは・・・ないけど・・・急に家出しちゃって・・・何年も会ってない・・・でも、兄さんの・・・匂いが・・・ダンさん・・・からするから・・・」

「なんて名前の人ですか?僕の権力を使って調べてあげますから邪魔しないでください」

「ブラッド・テイラー・・・って言うんだけど・・・」

「えっ」

 カイル王子は声を上げた。知っているのだろうか・・・カイル王子の反応にジャック様はパッと表情を明るくした。

「知ってる・・・の?」

「僕が知ってるのはブラッド・エバンスですよ。何年か前にエバンス家が男の子のアルファを探していたんです。そのときに、市民の中から多額の金を払って引き取ったとか」

 王子は「エバンス家は代々騎士団長を務めている家系ですので男の子を探していたのでしょう。その時に血の繋がりのある子供は全て女の子でしたので」と付け足した。

 でも、俺の知る限りお兄ちゃんは太陽みたいに笑う優しい人で剣を使って人を傷つける姿なんて想像もつかない。

「赤・・・っぽい髪色で・・・背の高い・・・」

「ええ、僕の知ってるブラッド様も赤毛で、背は・・・僕より十五センチほど高いですかね」

 お兄ちゃんの家は別段裕福ではなかったがお金で子供を引き渡すとは考えにくい。いったい何があったんだ・・・?
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