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一章

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 オメガは常に少量のフェロモンが出ているとお医者さんは教えてくれた。だが、俺のフェロモンの量は極端に少ない少ないらしく何かのきっかけで発情期が来ない限りは普通にベータとして生きていけるだろうとの事だった。

 そのため、カイル王子が俺がオメガであると気づいたことはイレギュラーもイレギュラーである。考えられる可能性はカイル王子の鼻が異常にいいか、俺のフェロモン分泌量が増えたか、である。


「このノッポは俺の腹違いの弟であり、この国の第三王子であるミラ・ヒルストンだ」

 どことなく雰囲気が似ていると思ったのはそれが原因かと納得する。王子である、ということはやはりアルファなのだろう。あと、耳に大量についているピアスが怖い。

「ジョン、挨拶をして」

 と言われて心臓がドキリとする。挨拶?そんなものはしたことが無い。ましてや、俺の今までの人生で関わってきた人なんて数える程しかいないのだから正しい作法もわからない。

「お初にお目にかかります。ジョン・ルーシャと申します」

「なぁ、兄貴コイツ本当にオメガ?匂い全然しないんだけど」

 ミラ王子は俺の首のカラーをぐいっと引っ張ると匂いを嗅いだ。首根っこを咥えられた子猫状態になる。

「ジョンは紛れもないオメガだよ。僕にはわかる」

「何それどういう風の吹き回し?兄貴、今までオメガだの結婚だのどうでもいいーとか言ってたのに」

「俺にだって隠したいことの一つや二つある」

 ミラ王子が匂いをわからないと言ったことにフェロモンが増えた訳では無いのだと一安心する。しかし、どうでもいいと言っていたのに俺に番になれと言ってきたのは何故なんだろう?

 ミラ王子とカイル王子が話していると緊迫していた空気がだんだん消えていった。相変わらずローラ嬢は顔を赤くしていたけれど。いや、泥をぬられていたけど、か。

 ミラ王子が「俺、腹減ったからなんか食ってくるわ」と去っていくと他の人が次々にカイル王子の近くに集まってきた。さすが第一王子。何やら国政が~とか研究費が~とか話していたが部外者の俺が聞いていいものかわからず、誰にもバレないようにその場を離れていく。

 煌びやかなご飯に手をつけようとすると横から俺と同じ歳くらいの男の子が顔を出した。目の大きな可愛らしい男の子だった。

「あ!君オメガなんでしょ!食べちゃダメだよ!あれ?でもカイル王子の婚約者ならいいのカナ?」

「あっ、すみません」

「ううん。いいよ!こっちはアルファの人用だからオメガはあっちだよ!」

 少年が指を指した先にはアルファ用の人の三分の一ほどのスペースに確かに料理が用意されていた。三分の一でも十分過ぎるくらいの量があるのだけれど。

「あとね、パーティーの主役はあくまでアルファの人達だからアルファの人と横並びになっちゃダメだよ!少し後ろを歩かないと!」

「そうでしたか。こういう場は不慣れなもので・・・肝に銘じておきます」

「気をつけてねー!」

 そう言うと可愛らしい少年は人混みの中に消えていった。首にはカラーがついていた。
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