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一章

脅迫

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 オメガはこの国では絶対的な保護対象であり、貴族達の玩具であった。番の数が多ければ多いほど自分自身の権力の強さを象徴するマークの様なものとしての扱いしかされていなかった。俺はそれがどうしても嫌だった。

 自分のお店を家族で経営していた両親に憧れていた。やっと叶った生活なんだ。ましてや、今更政府の保護下に入ったところで引き取り手が見つかるとも限らない。誰だって若くて可愛い人の方がいい。今更保護されたところで―


 いかにも、冷酷にそれが当然であるかのように真っ直ぐに語った。

「あなたを匿ってきた人達に処罰を与えます」

 もう、迷惑はかけられないんだ。俺が、ベータとして生きることを決めただけで甘えなのにこれ以上甘える訳にはいかないんだ。

「ただし、今すぐにオメガであることを認めたら処罰は無しにして差しあげます」

 『処罰が無くなる』無力な俺はその一言に縋るしか無かった。圧倒的な権力を前に跪くしかなかった。何も出来ない自分が気に食わなかった。

「俺は・・・」
 
 唾を飲み込んだ。大袈裟すぎるくらいに喉が鳴る。カイル王子はご満悦そうな笑みを浮かべていた。

「俺はオメガです」

 手から冷や汗が吹き出した。この後何が起こるかわからない。周りの人への処罰が無くなるだけで俺は地下に監禁されるかもしれないし、拷問されるかもしれない。

「やはりそうでしたか。では、さっそく番契約を結びましょう!」

 俺の身体じゃ、番にはなれないのに。番になろうだなんて笑わせてくれる。もとより、まだこの生活を続けていたかった。やっと叶った夢なんだ。そりゃ、繁盛してる訳じゃないけど俺は今の生活が気に入ってるし手放したくない。

「・・・いや、やはり番にはなってもらわなくて結構です。今すぐには、ですけど」

「・・・そうですか」

「ただし、僕と一緒にパーティーについて来て貰うことにはなりますけど」

「それだけでいいんですか?」

 胸を撫で下ろす。まだこの生活を続けられる。それだけで嬉しかった。いつも通りの日常がいつも通り続けられることがたまらなく嬉しい。

 脅されて明かしてしまったことは気に食わなかったけれど、それだけで済むなら全然良い方だろう。

「では、また定期的に顔を出しに来ます。僕とつがうまで誰とも番わないでくださいね」

「あ、あの!カイル王子は婚約者の方や他に番の方がいらっしゃったりするのですか?」

 帰ろうと王子に声をかけた。カイル王子はきょとんとして「何を言ってるんですか?結婚したい人とじゃないと番になろうとしないでしょう?」と、また当然であるかのように言った。「そうですよね」と返すと、会釈をして帰って行った。

「・・・・・・え?」

 思わず漏れた声が部屋に響いた。
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