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一章

番になって

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 俺自身あまり王族に好感は抱いていなかった。王族は必ずアルファの子を残す必要があるため、番が一人以上いた。その一方で他国からの目や市民からの支持を得るためにはアルファの奥さんを持つというのが一般的であった。

 俺の発想が古いのかもしれないが一人のアルファに一人のオメガであって欲しかった。オメガが物のように扱われている現状が受け入れられなかっただけかもしれないが。



「名前を教えて頂けませんか?」

 朝食として作った目玉焼きパンをほおばりながらカイル王子がそう言った。このお店では大体店長とか、マスターと呼ばれることが多かったのでそんなことを聞かれるのは予想外だった。

「そうですよね。王子に名乗らせておいて自分だけ名乗らないのは不躾でしたね。俺はダン・ベルサリオと申します」

「ダンですか、いい名前ですね」

「お褒めに預かり光栄です」


 朝食を食べ終えるとカイル王子は去っていった。噂通りの素晴らしい人格者であった。カイル王子のような方が国王になってこの国の制度を変えてくれたらいいのにな・・・・

 いつも通り森の中に食材採取に行き、家兼カフェ戻る。今日は前から目をつけていた木苺が採れたのでケーキでも作ろう。

 店を開店すると、ジルさんが慌てた様子で入ってきた。

「店長何かやらかしたのか?!今、王族の紋様をつけた馬車がお店の前に止まってたんだけど」

 王族の馬車が?昨日、カイル王子を泊めた時何か失礼なことがあったとか?いや、そもそも俺に用があるって決まったわけじゃないんだし自意識過剰はよそう

「やだなぁ、俺じゃないですよ」

「それならいいけどね・・・・」

「それよりジルさん、今日はケーキ作るんですけど食べますか?」

「いや、今はいいよ。これから畑に行くからそれの帰りにまた寄るな」

「了解です」

 ジルさんはヒラヒラと手を振りながら出ていった。ジルさんは開店初期から通ってくれる大事なお客さんだ。おそらく俺より三十歳は年上だけどすごく元気なお方だった。俺もああいう歳の取り方をするのに密かに憧れていたりする。あ、でもここだと孤独死する可能性が・・・

 そんなことを思いながらテーブルを拭いていく。

「失礼します」

「はーい」

 ドアのベルが鳴り、振り返るとカイル王子が立っていた。つい数時間前に見ていた顔の。外には数人の騎士が立っていた。

 どうしたんだろう?何か不敬なことでもしてしまったのか・・・・?

「どうされました?忘れ物でもしましたか?」

「ええ、まぁそんなところです」

 俺が確認した時はそんなもの見つからなかったけど・・・・

「ダンさん。少しお話しませんか?」

「え、あ、はい。どうしたんですか、そんなに改まって」

 カイル王子が腰をかけたので、向かいに俺も座る。王子は至って真剣そうな面持ちだった。

「ダンさん。俺の番になりませんか?」

 その一言は俺を動揺させるには十分過ぎる程だった。

 バレている・・・いや、はったりかもしれない。そうだ、バレるわけがないんだ。だって、オメガであることを知っているのは俺の両親とお世話になったお医者さんだけなんだから

「やだなぁ、そんな冗談言って。俺はベータですから番になんてなれませんよ?」

「本当にそうでしょうか?」

「・・・・嘘をつくメリットが見つからないので」

「では、僕がここで今あなたのうなじを噛んでも問題ないと?」

「・・・王族はそのような横暴な手段をとらなければ番をつくれないのですか?」

 俺がそう言うとカイル王子の表情が曇りはじめた。

 やっと手に入れた生活なんだ。壊されてたまるか

「・・・そこまで言うなら仕方ないですね」

 カイル王子が手を挙げると外で待機していた騎士たちが動き始めた。騎士に案内されて馬車から白衣を着た男性が降りる。

「今ここで、バース性の検査をしましょうか。それで、オメガでなければ俺は大人しく帰りますし、時間を取らせてしまった分お金をお支払いします。ただし、バース性を検査した上でダンさんがオメガである事が判明したら・・・」

 カイル王子は一呼吸分間を開けてから言った。

「貴方を匿ってきた人達に処罰を与えます」
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