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⑳混戦
しおりを挟む「走れ!」
圭一達【陽キャグループ】と、ナノハナ達【ユーツーバー】は、逃げていた。
飯田先生の鳴らした笛によって、様子を見に来た【美人女教師】小野先生に見つかったのだ。
小野先生は、大きく重量もある刺又を両手に構えながら走っているため、幸いにも差は縮まらない。
「ああ、もう!待ちなさいよ!」
小野先生は、悪態をつきつつ細目に笛を鳴らしている。
パァー!パァー!パァー!
その笛に、圭一達はひどく怯えた。
この笛が、教師達の連絡手段である事はなんとなく理解していた。
小野先生の鳴らす笛によって召喚されるかもしれないのだ。
つい数時間前には笑顔でお喋りをしていた人、そして、目の前で友人を惨殺した人。彼らが大好きだった【人気教師】飯田先生が。
突然、道の脇にひっそり佇む電柱から眩い火花が散った。
何が起きたかがわからず彼らは、答えを求めるように後ろを振り返る。
そこにはやはり、距離の差は変わらずこちらへ向かってきている小野先生の姿がある。今までと違うのは、刺又の向ける方向。さっきまでは横向きに持っていた刺又を、今はU字の先端が彼らに向けられるように持っている。
カチッっという音が聞こえたかと思うと、U字の先端から、光が放たれた。
逃げる集団の一番後方を走っていた圭一は、左足に非日常的な痛みを感じた。
その直後、転倒する。
痛みに目を向けると、身に着けている制服のズボンと共に脹脛が横一線に裂けていた。
「圭一君!」
先頭を走っていたナノハナが、圭一に駆け寄って手を差し出す。
圭一がその手を握ろうとした時、またカチっという音が背後から聞こえた。
圭一の頭上を何かが通った。
その直後、ナノハナの肩が大きく跳ね、身体が半転した。
「いった!何!」
倒れ込んだナノハナの右肩に、刺又から放たれた光の正体があった。
突き刺さった異物を引き抜き見てみるとそれは、銀色に輝く小振りのクナイだった。仕込み刺又は小型クナイを発射する機能を搭載していたのだ。
龍とアリサ、尚也と曜子がそれぞれ負傷した二人に肩を貸し、立ち上がらせる。
即座に体勢を立て直したとはいえ、小野先生との差も随分縮んでしまっていた。もう一度クナイを放たれたら、今度は必ず致命的個所を射抜かれる。
無情にも、クナイは放たれた。
「うっ!」
放たれたクナイは、再び圭一を襲った。
今度は掠める事では許されず、彼の背中に深々と突き刺さった。
「みんなこっち!」
カメラを回しつつ、ナノハナに代わって先頭を走っていたスイセンが皆を招く。
スイセンは、回していたハンディカメラを一旦止め、ズボンのポケットにねじ込んだ。走る速度を上げて向かう先は、塀。
ニメートルほどある民家の塀に向かって全速力で走り、跳んだ。
塀の縁に手を引っ掛け、完全に登る。
続いて、龍と尚也も塀を上り、上から手を差し出す。
「圭一、先登って!」
アリサが言い、ぐったりとしている圭一を支えると、塀の上に待機している三人に引き継いだ。
「ナノハナさん、次!」
「いや、先生に狙われているのは君達だ。先行って!」
アリサはそれに反論するのは時間の無駄だと考え、すぐさま龍と尚也の手を借り、アリサと曜子も塀に上がることが出来た。
最後に、ナノハナが登ろうとした時、遂に小野先生がすぐそこまで迫ってきた。
「誰なのよあんた!邪魔しないでよ!」
カシャンと音を立てて、刺又を変形させた。殺す気だ。
「ナノハナさん!手!」
スイセンはナノハナの手を掴み、力一杯引き上げる。
しかし、塀を越すまでには小野先生が来てしまう。
引き上げられているナノハナに、小野先生は刺又を食らわせようとした。
そんな小野先生の顔面に、アリサが水筒を投げつけた。
「いぃっっ!」
投げつけた水筒は見事に命中し、小野先生は顔を押さえてその場に蹲った。
その隙にナノハナを引き上げ、全員が無事に塀を越す。
「いってぇなぁ!クソガキがぁぁ!」
反対側に着地したところで、塀の向かいから、小野先生の怒声が聞こえた。
あの美人女教師が発したとは思えない汚い言葉に彼等は恐怖しつつ、再び足を動かす。その時だった。
「小野先生!大丈夫ですか?」
塀の向こうで、小野先生の増援が来たようだった。
小野先生の金切り声が聞こえてくる。
「この、向こうです!絶対殺してください!」
「了解っす!じゃあ俺ここから行きますんで、一文字先生回り込んでください!」
その声を聴いた時、【陽キャグループ】全員の血の気が引いた。
思わず後ろを振り返る。
もちろん、ついさっき自分達が越えた塀が見える。
その塀の向こうに、小野先生と、今来た人物を想像した。
そして、その思い描いた人物は塀を軽々越えて、姿を見せた。
【人気教師】飯田先生だ。
圭一達を認識した飯田先生は、恐怖で顔を引きつらせている生徒達とは対照的に満面の笑みを浮かべた。
「お前達!逢いたかったよーっ!」
飯田先生が歓喜しながら追いかけてくる。
民家の庭を突っ切る時、圭一は窓の外から家の中を見た。
一瞬覗いたその部屋は、リビングだった。
そこで、中年のおばさんが茶菓子を貪りながらテレビを見ていた。
それは一目でその光景が、いつもの事とわかるほど、日常的に馴染んでいた。
それを見た圭一はもう、部外者の助けは何も期待できないと悟った。
圭一達は、歩道に出た。ひたすら走る。
ややあって、彼等と同じところから、飯田先生が走り出ていた。
「今度は逃がさないぞー」
若く、運動神経の良い飯田先生は、その足もしっかりと速かった。
さらに、圭一にいたっては足を負傷している。
このままでは追いつかれることは確実だった。
ナノハナは、走る速度を緩めた。代わりに声量を上げる。
「俺が足止めをする!スイセン君、皆を頼む!」
その発言に、曜子とアリサが反対する。
「ダメですよ!さっき殺されかけたじゃないですか!」
「そうよ!先生達、邪魔者は容赦なく殺すのよ!逃げるの!」
「あの先生は振り切れないから!行って!」
ナノハナは、スタンガンを鳴らしながら、迫りくる飯田先生に向かって行った。
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