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解答編
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そのネットニュースを目にしたのか、さっそく電話をかけてきた上沢先輩の自宅に招かれて、我々は話し始める。部屋中に、脱力感が漂う。上沢先輩が口を開く。
「なあ、まったくばかげていると思わないか」
「全くです。まさか、あんな……」
「本当だ。笑いごとではないよ。私たちの、脳気立ったあの夜の推理合戦はいったい何だったんだ。まさか、被害者の下の名前が春男。男だったなんて……」
そうなのだ。僕たちは大きな、それこそ致命的な思い違いをしていた。あの小さな切り抜きには、被害者の性別はもちろん、現場が男湯であったことすらも書いてなかったのだ。つまり、もちろん上沢先輩は正真正銘の女性であるわけだから、(女性が好きだが)事件当夜は女湯に入っていた。新聞を探すと、ある記事が見つかった。秋山さんが殺されたのとほぼ同じ時刻に、女湯で中年女性が立ちくらみを起こして浴槽内に倒れて救急車で搬送されるという事があったのだ。上沢先輩が見たのはその場面だった。湯船が赤かったのは、浴槽の底に頭をぶつけたときに、切ってしまったからだという。我々は、初めから土俵に上がってもいなかったのだ。僕はまた、憤りながら
「しかも、あの真相がひどすぎる。まさか、全員が共犯だったなんて。現実にあんなトリックが使われるなんて驚きですよ。陳腐すぎる」あの夜、一番最初に案が出ながらも、現実性が乏しいのと、現場に上沢先輩がいたという理由で没になったトリックが使われていた。あの場に上沢先輩がいなかったのであれば、可能となるトリックだ。
「けっきょく、僕たちのあいだで鉄壁の密室ができてただけで、現実には密室なんてなかったんですね」まったく、本物の、画期的な密室トリックなんて絶滅危惧種なのだ。
「でも、私は今回の経験は結構レアだったと思うぞ。短編であったら面白いかもしれない」
と、嬉しそうな上沢先輩。
「しかしですね、その場合、相当の情報を読者に隠すことになりますよ。しかも、上沢先輩が現場にいないなんていう超重大事項を知らせないで書き進むのは、いくらなんでもフェアじゃないと思いますよ」少し考え込んで、上沢先輩は答える。
「そんなの簡単だ。本編に入る前に、大前提として書いておけばいいのさ。今回の事件において、上沢先輩は一切無関係です。ってね」
「なあ、まったくばかげていると思わないか」
「全くです。まさか、あんな……」
「本当だ。笑いごとではないよ。私たちの、脳気立ったあの夜の推理合戦はいったい何だったんだ。まさか、被害者の下の名前が春男。男だったなんて……」
そうなのだ。僕たちは大きな、それこそ致命的な思い違いをしていた。あの小さな切り抜きには、被害者の性別はもちろん、現場が男湯であったことすらも書いてなかったのだ。つまり、もちろん上沢先輩は正真正銘の女性であるわけだから、(女性が好きだが)事件当夜は女湯に入っていた。新聞を探すと、ある記事が見つかった。秋山さんが殺されたのとほぼ同じ時刻に、女湯で中年女性が立ちくらみを起こして浴槽内に倒れて救急車で搬送されるという事があったのだ。上沢先輩が見たのはその場面だった。湯船が赤かったのは、浴槽の底に頭をぶつけたときに、切ってしまったからだという。我々は、初めから土俵に上がってもいなかったのだ。僕はまた、憤りながら
「しかも、あの真相がひどすぎる。まさか、全員が共犯だったなんて。現実にあんなトリックが使われるなんて驚きですよ。陳腐すぎる」あの夜、一番最初に案が出ながらも、現実性が乏しいのと、現場に上沢先輩がいたという理由で没になったトリックが使われていた。あの場に上沢先輩がいなかったのであれば、可能となるトリックだ。
「けっきょく、僕たちのあいだで鉄壁の密室ができてただけで、現実には密室なんてなかったんですね」まったく、本物の、画期的な密室トリックなんて絶滅危惧種なのだ。
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「しかしですね、その場合、相当の情報を読者に隠すことになりますよ。しかも、上沢先輩が現場にいないなんていう超重大事項を知らせないで書き進むのは、いくらなんでもフェアじゃないと思いますよ」少し考え込んで、上沢先輩は答える。
「そんなの簡単だ。本編に入る前に、大前提として書いておけばいいのさ。今回の事件において、上沢先輩は一切無関係です。ってね」
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