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レビューその1
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世間では大好評の反面、当サークルでは微妙な評価だった、なにはともあれ二〇一七年度のミステリ界の話題を総ざらいしたことは間違いない今村昌弘のデビュー作『屍人荘の殺人』。タイトルを書こうとすると漢字がなかなか変換できず尋常じゃないストレスがかかることでもお馴染みだ。そんな『屍人荘』(ああ、変換されない!)が二〇一九年冬、映画化されるということで、ミス研としては見逃すわけにはいかない! ということで、つくば市のランドマークとも言える大型ショッピングモール「イーアスつくば」内の映画館に観に行っちゃったぞ。
最大のピンチは、劇場に入る前にあった。学生証がない! これは貧乏学生たる僕にとっては致命的だ! すでに無人券売機で学生券を購入してしまったあとだったので、僕は青ざめてしまった。だが、劇場の女神は僕を見放さなかった。なんと、入場口で学生証の提示を求められなかったのだ! 大学の近くの映画館という地の利を活かしたファインプレーによってバッドエンドを回避し、僕たちは劇場に滑り込んだ。
映画館といえば、目当ての作品はもちろんなんだけど、公開予定の作品の予告を観るのも楽しいよね。今回観た予告の中で、最も印象に残ったのは『一度死んでみた』という作品だった。主演の広瀬すず、吉沢亮をはじめとする若手人気俳優から、松田翔太、妻夫木聡などの中堅どころ、竹中直人などのベテランまでバランスよく配置した無駄に豪華なキャストが魅力のドB級映画。もう公開されたはずだけど、面白かったのかあ。
というわけで、お待ちかねの『詩人荘』スタート!(誤字ったけど、これはこれでいいタイトルじゃない?)ここからはネタバレ全開でいくから覚悟してくれよな!
最大の評価ポイントは全編コメディタッチに仕上げた点だ。原作同様、ゾンビものというのを予告段階ではひた隠しにしていたから、導入部分がお気楽な調子になるのは予想していた。そこからゾンビが出てきて一気にホラーテイストになるという安易な展開なのかな……と思っていた間抜けな僕を許してくれ。主演の浜辺美波、ドランクドラゴンの塚地など、ホラーでは活きそうもないキャストの使い方を、監督は心得ていた。また、あまりに緊迫した状況よりも、多少気の抜けた雰囲気の方が、腰を据えて謎解きするにはあっているように思う。いつゾンビが来るかわからないのにウロウロしてるのは実際おかしいんだけど、それを不自然に感じさせない空気が出来ていた。てか、死ぬほど切羽詰まった状況なら、殺人事件の謎が解けたところで何になるんだよ! ってなりそうだし。キャストの個性を活かす方法としても、映像で本格ミステリを成立させる手法としても、このアレンジは正解だと思う。
謎解きに関しては、原作よりも簡略化されているらしいが、原作の推理を詳細には覚えていなかったので、どこがカットされたのかはわからない。ただ、原作でやや腑に落ちなかった点が解消されていたのがグッド。具体的には、消去法の論理を展開するなかで、葉村が容疑者から除外される前から、葉村の証言を用いた推理をしていたのが納得いかなかったのだが、映画ではそこがなくなっていた。メインのエレベーターのトリックもブラッシュアップされていたような感じがする。わかりやすさ重視の改変は、ライト層のみならず、コアな本格ミステリファンにとっても良かったんじゃないかな。
悪かった点を挙げるとすれば、葉村と立浪が屋上で心を通わせるシーンがカットされたこと。謎解きに一切関わらないので当然といえば当然なのだが、あのシーンがあることで、犯人が動機を語る場面で「俺だってあいつらは殺されて当然の糞野郎だと思いたい。でも人のある一面だけを指して、そんなことを言ったりは出来ない。そうしたら、誰にでも殺されるべき理由があることになってしまう」(めっちゃうろ覚えなんで実際の文とは全然違うと思います)という葉村の独白が生まれ、ありきたりな動機に奥行きが出たと思うのだ。これがなくなったことで、本当にただのありきたりな動機になってしまった。「本格ミステリなら動機はどうだっていい」というのは一部のコアなファンだけで、普段ミステリを読まない人も含めて間口を広く売り出していくなら、そういう部分こそ大事にするべきではないか。あと、これは原作にも言えることだが、エレベーターのトリックのところで、「赤ちゃんの分も含めて二度殺した」というのは、作品全体のトーンに比べて抽象的過ぎるように思う。
重本がゾンビ映画について講釈垂れるシーンは、一番必要ないからカットされて良かったと思っている人が多いのではないか。僕としては、あのシーンは「作者はゾンビものの歴史についてきちんと勉強していますよ!」というアピールになっていたから、カットされたことによって、ゾンビ展開の安易さが強くなった気がしている。
全体としては、原作の良い部分を残し、無駄な部分を削り、わかりやすくまとめた素晴らしい映画化だった。ネットでは否定的な意見が目立つけど、そういうのって映画化にはつきものだから。他人の意見に惑わされず、自分の目で確かめたら良いんじゃないかな。以上!
(KN・M)
最大のピンチは、劇場に入る前にあった。学生証がない! これは貧乏学生たる僕にとっては致命的だ! すでに無人券売機で学生券を購入してしまったあとだったので、僕は青ざめてしまった。だが、劇場の女神は僕を見放さなかった。なんと、入場口で学生証の提示を求められなかったのだ! 大学の近くの映画館という地の利を活かしたファインプレーによってバッドエンドを回避し、僕たちは劇場に滑り込んだ。
映画館といえば、目当ての作品はもちろんなんだけど、公開予定の作品の予告を観るのも楽しいよね。今回観た予告の中で、最も印象に残ったのは『一度死んでみた』という作品だった。主演の広瀬すず、吉沢亮をはじめとする若手人気俳優から、松田翔太、妻夫木聡などの中堅どころ、竹中直人などのベテランまでバランスよく配置した無駄に豪華なキャストが魅力のドB級映画。もう公開されたはずだけど、面白かったのかあ。
というわけで、お待ちかねの『詩人荘』スタート!(誤字ったけど、これはこれでいいタイトルじゃない?)ここからはネタバレ全開でいくから覚悟してくれよな!
最大の評価ポイントは全編コメディタッチに仕上げた点だ。原作同様、ゾンビものというのを予告段階ではひた隠しにしていたから、導入部分がお気楽な調子になるのは予想していた。そこからゾンビが出てきて一気にホラーテイストになるという安易な展開なのかな……と思っていた間抜けな僕を許してくれ。主演の浜辺美波、ドランクドラゴンの塚地など、ホラーでは活きそうもないキャストの使い方を、監督は心得ていた。また、あまりに緊迫した状況よりも、多少気の抜けた雰囲気の方が、腰を据えて謎解きするにはあっているように思う。いつゾンビが来るかわからないのにウロウロしてるのは実際おかしいんだけど、それを不自然に感じさせない空気が出来ていた。てか、死ぬほど切羽詰まった状況なら、殺人事件の謎が解けたところで何になるんだよ! ってなりそうだし。キャストの個性を活かす方法としても、映像で本格ミステリを成立させる手法としても、このアレンジは正解だと思う。
謎解きに関しては、原作よりも簡略化されているらしいが、原作の推理を詳細には覚えていなかったので、どこがカットされたのかはわからない。ただ、原作でやや腑に落ちなかった点が解消されていたのがグッド。具体的には、消去法の論理を展開するなかで、葉村が容疑者から除外される前から、葉村の証言を用いた推理をしていたのが納得いかなかったのだが、映画ではそこがなくなっていた。メインのエレベーターのトリックもブラッシュアップされていたような感じがする。わかりやすさ重視の改変は、ライト層のみならず、コアな本格ミステリファンにとっても良かったんじゃないかな。
悪かった点を挙げるとすれば、葉村と立浪が屋上で心を通わせるシーンがカットされたこと。謎解きに一切関わらないので当然といえば当然なのだが、あのシーンがあることで、犯人が動機を語る場面で「俺だってあいつらは殺されて当然の糞野郎だと思いたい。でも人のある一面だけを指して、そんなことを言ったりは出来ない。そうしたら、誰にでも殺されるべき理由があることになってしまう」(めっちゃうろ覚えなんで実際の文とは全然違うと思います)という葉村の独白が生まれ、ありきたりな動機に奥行きが出たと思うのだ。これがなくなったことで、本当にただのありきたりな動機になってしまった。「本格ミステリなら動機はどうだっていい」というのは一部のコアなファンだけで、普段ミステリを読まない人も含めて間口を広く売り出していくなら、そういう部分こそ大事にするべきではないか。あと、これは原作にも言えることだが、エレベーターのトリックのところで、「赤ちゃんの分も含めて二度殺した」というのは、作品全体のトーンに比べて抽象的過ぎるように思う。
重本がゾンビ映画について講釈垂れるシーンは、一番必要ないからカットされて良かったと思っている人が多いのではないか。僕としては、あのシーンは「作者はゾンビものの歴史についてきちんと勉強していますよ!」というアピールになっていたから、カットされたことによって、ゾンビ展開の安易さが強くなった気がしている。
全体としては、原作の良い部分を残し、無駄な部分を削り、わかりやすくまとめた素晴らしい映画化だった。ネットでは否定的な意見が目立つけど、そういうのって映画化にはつきものだから。他人の意見に惑わされず、自分の目で確かめたら良いんじゃないかな。以上!
(KN・M)
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