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問題編
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「そうだ、サービス問題を作ろう」
そう上沢先輩が言ったのは、彼が大学四年生の学園祭用に出題する五分間ミステリを考えている最中、つまり、彼のミステリー研究会人生で最後となる五分間ミステリを何にしようかと考えあぐねている時だった。
「どうしたんですか? 急に。そんな、ガラでもない」
「何を言う。五分間ミステリなんてな、解いてもらってなんぼなんだよ」とのたまう。
もともと上沢先輩の書く五分間ミステリは、評判がすこぶる悪かった。僕にはイマイチ、推理小説の質、というか、完成度については良く分からないが、完成度うんぬん以前に、上沢先輩の作品は、叙述トリックあり、読者を馬鹿にしたような仕掛けありと、はなから解いてもらうことなんて眼中にないような作品ばかりなのだ。
二年前なんて、あくまで僕はその場にいなかったので聞いてはいないが、その人を食ったトリックに腹を立てたお客さんから「死ね」と言われたことすらあるのだという。そんな先輩がこんなことを言うとは、そうとう応えていたのだろうか。
「もう、せっかく書いたミステリが、貶されるのはたくさんなんだよ」と、上沢先輩は心なしかいつもよりも小さく見える。
「そもそもな、ミステリというものは、他のジャンルよりも、権力関係がはっきりとしている。つまり、作者の考えを、読者が頑張って再構築する、という風にな。だから、原理的には、どんな無茶なトリックも通ってしまう。もしも読者が解けなくても、それは読者の頭が悪いんだと、開き直ることが出来るからな。
でも、それは誠実ではない、と最近気づいたんだ。読者に解くことのできない問題を思いつくことが、すなわち読者よりも上に立っているんだと、思っていたんだな。俺は。違うんだよ。多分、どこかで、これは一般的に言って、という意味だが、ミステリの難易度の高さと完成度、質というものが混同されているような気がするんだ。たとえば、『正答率数パーセント』とか言われたら、それはそれだけいい問題なんだろう、と思ってしまうと思うんだ。高木彬光の『妖婦の宿』なんてその典型だな。
だから、簡単な問題というのは、軽く見られる傾向にある。でも、そうじゃない、難易度が低くても、知的な興奮というか、快感みたいなものを読者に与えることが出来れば、それさえできれば、俺はいい作品だと思う……俺は、できれば、そんなことは不可能なのは分かっているが、可能ならば、読んだすべての人間が俺のクイズを解くことが出来て、なおかつ満足してもらえるような、みんなが幸せになるようなやつを、書きたい」そう上沢先輩は息巻いて、その後すこし話して僕らは別れた。
それは先週の事だったのだけれど、今日は学園祭当日で、今喫茶店はぼちぼちお客さんが入っていて、みんな上沢先輩の「サービス問題」を読んでいる。
「はーい、解けました! 」と、高校生らしき男の子が奥の席で手をあげている。上沢先輩は、にこにこしながらお客さんの待つ席へと向かう。そんなに簡単なのだろうか。じゃあ僕も解いてみよう、と思い「サービス問題」を読む。
サービス問題
「こんなもんで、いいかな」と、宇治十条は紅茶屋で良い紅茶を買った。今日は、宇治十条が以前に世話になった警部の誕生日なのだ。
「でも、そのまま渡すっていうのは、どうかと思いますよ」と、斧が口をはさむ。
結局、適当な入れ物が無かったので、家にあったカルディコーヒーの缶の、中身のコーヒー豆を高級紅茶葉と入れ替えて持っていくことにした。これも、サービスだ。
チャイムを押すと、津田警部が満面の笑みで出迎えてくれた。
「よお、宇治十条君。わざわざありがとう。ほら、みんな、宇治十条君が私に、プレゼントなんて持ってきてくれたよ! 」と、津田警部は家の中にいる人たちに見せた。
今日津田家に居るのは、津田助広警部と、奥さんの雅さん、長男でいまは大学生の俊明と新人の巡査の猪俣宗次の四名で、ここに宇治十条と助手の斧琴菊が加わることになる。
「じゃあ、わたしは早速これでも淹れながら、本でも読もうかと思うから、ちょっと書斎まで来る? 」と津田警部が言うので、宇治十条はついていく。
書斎はずいぶん立派で、きちんと水道もついており、本棚には本がぎっしりと詰められている。
お湯を沸かして紅茶をいれ、警部は今日届いたばかりだという本を宇治十条に見せてくれる。
「ほら、宇治十条君、マクベスの新訳だよ。今日発売で、朝いちばんに買ってきたんだ。夕飯まで、誰にも邪魔されずに読もうかと思う」半分くらいまでしおりの挟んであるその本を、宇治十条に誇らしげに見せる。
「じゃあ、僕は御邪魔ですかね。夕ご飯が出来たら、呼びに来ますね。くれぐれも、紅茶をこぼさないように」
しかし、津田助広が夕ご飯をたべながらみなに祝われることは永久になくなってしまった。津田雅に言われ、書斎のドアをノックしたが、返事がない。
「入りますよー? 」と言い、中に入ると、津田警部は机に頭を突っ伏していた。だが、本を読んでいるうちにうとうとした、ということではないことは宇治十条には一目で分かった。津田の背中には、大ぶりのナイフが深々と刺さっていたからだ。
みなに津田が死んでいること、そしてどうやら殺されたらしいことを伝え、宇治十条は斧と一緒に書斎を調べた。家のすべての鍵が閉ざされていることから、犯人はどうやらあの三人の中にいるらしいことが分かったし、そうであれば犯人が証拠を隠滅する恐れがあるので誰も入れてはならないと判断したのだ。
「死因は、このナイフですよね? 」と斧が背中に刺さるナイフを指さして言う。
「まあ、そう見ていいだろう。即死だろうな」
「この本は?」と斧が机の上のマクベスを指さして言う。
机の上のマクベスは、真っ赤な血のような色をしている。ふと、本の横を見ると、マクベスのカバーが、真っ白い綺麗な表紙だったのに無残にも茶色いしみが一面に広がってしまっている。
「ああ、あんなに注意したのに、紅茶をこぼしたのか」
マクベスの本体の色はその悲劇の内容にふさわしく赤で、しおりを見るにあれからだいぶ読み進めていたらしい。
ふと本棚の横を見ると、本が乱暴に積み上げられている。本棚のある個所からは本がごっそりと無くなっていて、どうやら本を足場にして何かを取ろうとしたらしい。
部屋を出て、リビングに集まっている三人に話をした。
「助広さんは、何物かに殺害されました。背中を、ナイフで刺されています」と宇治十条は告げた。
「机の上には、読みかけの本とマグカップの他は、何もありませんでした。最後まで本を読んでいたみたいです」
「あの、真っ赤な本か。最後に読んだ本が悲劇なんて、縁起でもない」と、俊明が言う。
「ほんとにね、朝はあんなにマクベスだマクベスだってうるさかったのに」と雅が言う。
「ところで、お二人はどこでそのマクベスをお知りに? 」
「そりゃあ、朝からうるさかったからだけど、昼間に書斎に入ったときも読んでいたからね」と俊明。
「書斎に最後に入ったのは? 」
「私は、宇治十条さんが来る前かしら」と雅。
「僕もだね」と俊明。
「残念ながら、その本も汚してしまったみたいですが。マグカップをこぼしてしまったみたいで。表紙にべっとり、汚れが残っていました」と宇治十条が残念そうに言う。
「えっ? また紅茶をこぼしたの? あの人、コーヒーもだけど、紅茶も良くこぼすのよ。床にシミがなかった? 最後まで、だらしがないんだから……」と雅は息を詰まらせる。
「そうなんですか? 警部、職場ではしっかりしてるから……知らなかったなあ」と猪俣が言う。
「僕は初めてお宅に招かれたんですが、家具もしっかりとした趣味をしているし、やっぱり警部は格好いいな、と思っていたんですが……書斎に招かれる前に、こんなことになってしまって……」と猪俣は鼻声になる。
「ところで雅さん、書斎の棚の上には、なにか置いてありましたか? 」と宇治十条は尋ねる。
「えっと、ちょっと待ってくださいね、なにがあったかしら……」と雅が考え込む。
「ティッシュ箱じゃなかった? 母さん」と俊明が言う。
「そうだ、ティッシュ箱です。たしか、クローゼットのなかにも同じものがあります」
宇治十条が再び書斎に入ると、確かに床にティッシュ箱がひとつ、開けたばかりのものが転がっていた。なぜ犯人はティッシュを使ったのだろうか? 宇治十条は凶器のナイフをよく見てみた。すると、柄の部分に何かが引っ掛かっている。注意深く取ると、ティッシュの切れ端だ。
「それ、なんですか?」斧が聞く。
「ティッシュだよ。恐らく、指紋をふき取るために、あの棚の上のティッシュ箱を苦労して取ったのだろう」
「なるほど。計画的犯行じゃないってことですね。ところで、クローゼットってどこですか? 」と斧が聞く。
「ふふふ、分かりづらいだろう。ここだよ、壁と同化していて分かりづらいが、この突起を引くと……」と、いままで壁にしか見えなかった扉が開き、中にはスーツがずらりとかけてある。
「ああ、あった。ティッシュ箱だ。全く同じ」
「いやー、それでも犯人が全く分かりませんね、宇治十条さん」と斧がため息をつくと、
「何を言ってるんだ、斧君。こんなに簡単な事件はないじゃないか。まさしくサービス問題だよ」と宇治十条は自信ありげにほほ笑む。
「犯人は……」
読者への挑戦状
おそらく勘のいい読者のみなさんは、犯人の目星がついていることでしょう。しかし、簡単だからと言って作者の怠慢だと怒らないでもらいたいのです。私は、なるべく多くの人に喜んでもらいたくてわざと難易度を下げているのですから。犯人は、津田雅、津田敏明、猪俣正次の中にいます。共犯は、いません。
Q 犯人は、誰か?
どうやら、僕にも犯人が分かったみたいだ。おや、またさっきとは別のお客さんが、犯人を答えるみたいだ。
呼ばれた上沢先輩は、なんだか意地の悪い笑みを浮かべている。
お客さんは、自信満々に答えて、当たったようだ。
戻ってきた上沢先輩に、僕も言う。
「上沢先輩、さすがに分かりますよ。犯人は……」
Q この五分間ミステリの真相を答えよ。
そう上沢先輩が言ったのは、彼が大学四年生の学園祭用に出題する五分間ミステリを考えている最中、つまり、彼のミステリー研究会人生で最後となる五分間ミステリを何にしようかと考えあぐねている時だった。
「どうしたんですか? 急に。そんな、ガラでもない」
「何を言う。五分間ミステリなんてな、解いてもらってなんぼなんだよ」とのたまう。
もともと上沢先輩の書く五分間ミステリは、評判がすこぶる悪かった。僕にはイマイチ、推理小説の質、というか、完成度については良く分からないが、完成度うんぬん以前に、上沢先輩の作品は、叙述トリックあり、読者を馬鹿にしたような仕掛けありと、はなから解いてもらうことなんて眼中にないような作品ばかりなのだ。
二年前なんて、あくまで僕はその場にいなかったので聞いてはいないが、その人を食ったトリックに腹を立てたお客さんから「死ね」と言われたことすらあるのだという。そんな先輩がこんなことを言うとは、そうとう応えていたのだろうか。
「もう、せっかく書いたミステリが、貶されるのはたくさんなんだよ」と、上沢先輩は心なしかいつもよりも小さく見える。
「そもそもな、ミステリというものは、他のジャンルよりも、権力関係がはっきりとしている。つまり、作者の考えを、読者が頑張って再構築する、という風にな。だから、原理的には、どんな無茶なトリックも通ってしまう。もしも読者が解けなくても、それは読者の頭が悪いんだと、開き直ることが出来るからな。
でも、それは誠実ではない、と最近気づいたんだ。読者に解くことのできない問題を思いつくことが、すなわち読者よりも上に立っているんだと、思っていたんだな。俺は。違うんだよ。多分、どこかで、これは一般的に言って、という意味だが、ミステリの難易度の高さと完成度、質というものが混同されているような気がするんだ。たとえば、『正答率数パーセント』とか言われたら、それはそれだけいい問題なんだろう、と思ってしまうと思うんだ。高木彬光の『妖婦の宿』なんてその典型だな。
だから、簡単な問題というのは、軽く見られる傾向にある。でも、そうじゃない、難易度が低くても、知的な興奮というか、快感みたいなものを読者に与えることが出来れば、それさえできれば、俺はいい作品だと思う……俺は、できれば、そんなことは不可能なのは分かっているが、可能ならば、読んだすべての人間が俺のクイズを解くことが出来て、なおかつ満足してもらえるような、みんなが幸せになるようなやつを、書きたい」そう上沢先輩は息巻いて、その後すこし話して僕らは別れた。
それは先週の事だったのだけれど、今日は学園祭当日で、今喫茶店はぼちぼちお客さんが入っていて、みんな上沢先輩の「サービス問題」を読んでいる。
「はーい、解けました! 」と、高校生らしき男の子が奥の席で手をあげている。上沢先輩は、にこにこしながらお客さんの待つ席へと向かう。そんなに簡単なのだろうか。じゃあ僕も解いてみよう、と思い「サービス問題」を読む。
サービス問題
「こんなもんで、いいかな」と、宇治十条は紅茶屋で良い紅茶を買った。今日は、宇治十条が以前に世話になった警部の誕生日なのだ。
「でも、そのまま渡すっていうのは、どうかと思いますよ」と、斧が口をはさむ。
結局、適当な入れ物が無かったので、家にあったカルディコーヒーの缶の、中身のコーヒー豆を高級紅茶葉と入れ替えて持っていくことにした。これも、サービスだ。
チャイムを押すと、津田警部が満面の笑みで出迎えてくれた。
「よお、宇治十条君。わざわざありがとう。ほら、みんな、宇治十条君が私に、プレゼントなんて持ってきてくれたよ! 」と、津田警部は家の中にいる人たちに見せた。
今日津田家に居るのは、津田助広警部と、奥さんの雅さん、長男でいまは大学生の俊明と新人の巡査の猪俣宗次の四名で、ここに宇治十条と助手の斧琴菊が加わることになる。
「じゃあ、わたしは早速これでも淹れながら、本でも読もうかと思うから、ちょっと書斎まで来る? 」と津田警部が言うので、宇治十条はついていく。
書斎はずいぶん立派で、きちんと水道もついており、本棚には本がぎっしりと詰められている。
お湯を沸かして紅茶をいれ、警部は今日届いたばかりだという本を宇治十条に見せてくれる。
「ほら、宇治十条君、マクベスの新訳だよ。今日発売で、朝いちばんに買ってきたんだ。夕飯まで、誰にも邪魔されずに読もうかと思う」半分くらいまでしおりの挟んであるその本を、宇治十条に誇らしげに見せる。
「じゃあ、僕は御邪魔ですかね。夕ご飯が出来たら、呼びに来ますね。くれぐれも、紅茶をこぼさないように」
しかし、津田助広が夕ご飯をたべながらみなに祝われることは永久になくなってしまった。津田雅に言われ、書斎のドアをノックしたが、返事がない。
「入りますよー? 」と言い、中に入ると、津田警部は机に頭を突っ伏していた。だが、本を読んでいるうちにうとうとした、ということではないことは宇治十条には一目で分かった。津田の背中には、大ぶりのナイフが深々と刺さっていたからだ。
みなに津田が死んでいること、そしてどうやら殺されたらしいことを伝え、宇治十条は斧と一緒に書斎を調べた。家のすべての鍵が閉ざされていることから、犯人はどうやらあの三人の中にいるらしいことが分かったし、そうであれば犯人が証拠を隠滅する恐れがあるので誰も入れてはならないと判断したのだ。
「死因は、このナイフですよね? 」と斧が背中に刺さるナイフを指さして言う。
「まあ、そう見ていいだろう。即死だろうな」
「この本は?」と斧が机の上のマクベスを指さして言う。
机の上のマクベスは、真っ赤な血のような色をしている。ふと、本の横を見ると、マクベスのカバーが、真っ白い綺麗な表紙だったのに無残にも茶色いしみが一面に広がってしまっている。
「ああ、あんなに注意したのに、紅茶をこぼしたのか」
マクベスの本体の色はその悲劇の内容にふさわしく赤で、しおりを見るにあれからだいぶ読み進めていたらしい。
ふと本棚の横を見ると、本が乱暴に積み上げられている。本棚のある個所からは本がごっそりと無くなっていて、どうやら本を足場にして何かを取ろうとしたらしい。
部屋を出て、リビングに集まっている三人に話をした。
「助広さんは、何物かに殺害されました。背中を、ナイフで刺されています」と宇治十条は告げた。
「机の上には、読みかけの本とマグカップの他は、何もありませんでした。最後まで本を読んでいたみたいです」
「あの、真っ赤な本か。最後に読んだ本が悲劇なんて、縁起でもない」と、俊明が言う。
「ほんとにね、朝はあんなにマクベスだマクベスだってうるさかったのに」と雅が言う。
「ところで、お二人はどこでそのマクベスをお知りに? 」
「そりゃあ、朝からうるさかったからだけど、昼間に書斎に入ったときも読んでいたからね」と俊明。
「書斎に最後に入ったのは? 」
「私は、宇治十条さんが来る前かしら」と雅。
「僕もだね」と俊明。
「残念ながら、その本も汚してしまったみたいですが。マグカップをこぼしてしまったみたいで。表紙にべっとり、汚れが残っていました」と宇治十条が残念そうに言う。
「えっ? また紅茶をこぼしたの? あの人、コーヒーもだけど、紅茶も良くこぼすのよ。床にシミがなかった? 最後まで、だらしがないんだから……」と雅は息を詰まらせる。
「そうなんですか? 警部、職場ではしっかりしてるから……知らなかったなあ」と猪俣が言う。
「僕は初めてお宅に招かれたんですが、家具もしっかりとした趣味をしているし、やっぱり警部は格好いいな、と思っていたんですが……書斎に招かれる前に、こんなことになってしまって……」と猪俣は鼻声になる。
「ところで雅さん、書斎の棚の上には、なにか置いてありましたか? 」と宇治十条は尋ねる。
「えっと、ちょっと待ってくださいね、なにがあったかしら……」と雅が考え込む。
「ティッシュ箱じゃなかった? 母さん」と俊明が言う。
「そうだ、ティッシュ箱です。たしか、クローゼットのなかにも同じものがあります」
宇治十条が再び書斎に入ると、確かに床にティッシュ箱がひとつ、開けたばかりのものが転がっていた。なぜ犯人はティッシュを使ったのだろうか? 宇治十条は凶器のナイフをよく見てみた。すると、柄の部分に何かが引っ掛かっている。注意深く取ると、ティッシュの切れ端だ。
「それ、なんですか?」斧が聞く。
「ティッシュだよ。恐らく、指紋をふき取るために、あの棚の上のティッシュ箱を苦労して取ったのだろう」
「なるほど。計画的犯行じゃないってことですね。ところで、クローゼットってどこですか? 」と斧が聞く。
「ふふふ、分かりづらいだろう。ここだよ、壁と同化していて分かりづらいが、この突起を引くと……」と、いままで壁にしか見えなかった扉が開き、中にはスーツがずらりとかけてある。
「ああ、あった。ティッシュ箱だ。全く同じ」
「いやー、それでも犯人が全く分かりませんね、宇治十条さん」と斧がため息をつくと、
「何を言ってるんだ、斧君。こんなに簡単な事件はないじゃないか。まさしくサービス問題だよ」と宇治十条は自信ありげにほほ笑む。
「犯人は……」
読者への挑戦状
おそらく勘のいい読者のみなさんは、犯人の目星がついていることでしょう。しかし、簡単だからと言って作者の怠慢だと怒らないでもらいたいのです。私は、なるべく多くの人に喜んでもらいたくてわざと難易度を下げているのですから。犯人は、津田雅、津田敏明、猪俣正次の中にいます。共犯は、いません。
Q 犯人は、誰か?
どうやら、僕にも犯人が分かったみたいだ。おや、またさっきとは別のお客さんが、犯人を答えるみたいだ。
呼ばれた上沢先輩は、なんだか意地の悪い笑みを浮かべている。
お客さんは、自信満々に答えて、当たったようだ。
戻ってきた上沢先輩に、僕も言う。
「上沢先輩、さすがに分かりますよ。犯人は……」
Q この五分間ミステリの真相を答えよ。
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