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【2】

4.不安要素の多い俺

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「この間、大学で俺に本命の恋人が出来たって大騒ぎになっちゃって」
「あー、なんとなく想像はつく」
「恭ちゃんまで!」
 十一月最後の土曜日。これから年末に掛けては恭ちゃんの仕事が忙しく、休日出勤も増えてくるだろうからクリスマス前にゆっくり過ごせるのは今日が最後かもしれない。
 昼飯にと入ったハンバーガーショップは、土曜日ということもあり人が溢れかえっている。少し遅めの時間に来たつもりだったが、ほとんど満席で座れたのはラッキーだった。
「そんなに驚かれるなんて思わなくて。気付いたら同じゼミだけじゃなくて、友達のいるゼミは全部知れ渡ってましたよ」
「へぇ。お前って本当にモテるんだなぁ」
 ホットコーヒーを飲みながら、他人事のように恭ちゃんは頷く。その仕草はとても様になっていてカッコいいけど、コーヒーには俺の分のミルクとガムシロも入っていて大分甘口なことは俺しか知らない。
「……なにニヤニヤしてんだよ?」
「え? ニヤけてます?」
「ニヤけてるよ。やらしー」
 静かに笑い、恭ちゃんはポテトへ手を伸ばした。
 何本か食べた後に、指先に付いた塩を舐め取る。その仕草にドキドキしてしまう俺は、確かにやらしいんだろう。
「あれ、陽?」
「透! ここでバイトしてたんだ?」
 突然掛けられた声にハッと我に返る。顔を上げれば、店の制服姿の透が営業スマイルを緩めて小さく片手を振っていた。
「言ってなかったっけ?」
 頷く俺へ笑顔を向けながら、一緒にいる恭ちゃんへと不思議そうな視線を向ける。
 恭ちゃんは透と目が合うと、小さく会釈した。
「初めまして」
「あ、初めまして。おれ、中根透っていいます。陽とは大学が同じで……」
 透はその場で頭を下げると、まじまじと恭ちゃんの顔を見つめている。
 やっぱり恭ちゃんってカッコいいもんな。男でもつい魅入っちゃうのはわかる。
「三本恭一です。高瀬は地元の後輩」
「へぇ~、こっち出てきても地元の知り合いと付き合いあるってなんかいいですね」
 純粋に頷いている透へ、恭ちゃんは苦笑を浮かべていた。
 さっきの言葉は全くの嘘ではないけど、地元にいた頃からの付き合いではないから透の言ってるような関係ではない。
 それを説明するとややこしくなるから、俺も恭ちゃんも何も言わなかった。
「あ、そうだ陽。ユウが最高に美人な彼女に合わせるまで納得しないって言ってたよ」
「えぇ……まだ言ってんの?」
「あはは、何だかんだ気になるんだよ。あの陽がベタ惚れなんてさ。しばらく煩いだろうから頑張ってね」
 気の毒そうに手を振り離れていく透の背中を見送った。
 恭ちゃんはハンバーガーを食べながら、おかしそうに笑いを堪えている。
「へ~、高瀬って最高に美人な彼女いるんだ?」
「……恭ちゃんのことですよ。わかるでしょ」
「ったく、どんな話ししてんだか」
 そう言って笑う姿は呆れと、そしてほんの少しの照れ隠し。満更でもなさそうな恭ちゃんの様子に、俺も頬が緩んでいく。
「……悪いな」
「え?」
「さっきみたいな時、オレがその恋人なんだって言ってやれなくてさ」
「恭ちゃんは隠していたいんでしょう? だったら俺は別に気にしませんよ」
「……まぁ、確かにお前はそういうの言いふらしたいタイプではなさそう」
 ほっと息を吐いて、恭ちゃんはレジで会計の対応をしている透へと視線を向けた。
「大学の友達なんだろ? どんなヤツなの」
「気になります?」
「高瀬がどんな大学生してるか興味ある」
 それが恭ちゃんの本心なのかはわからなかったけど、透の背中に向けている不安げな眼差しには気付いてしまった。
 恭ちゃんにとっては、男も女も不安の対象になってしまうんだろう。
「透はあんな感じの派手な見た目ですけど、優しくて穏やかな奴です。煩いのはさっき名前の出てきたユウって方で、二人は幼馴染なんですよ」
「へぇ。幼馴染で同じ大学とか本当に仲良いんだな」
「そうですね。俺もよく三人で遊んでますね」
 今日のデートで悠一たちとの旅行のことを話そうと思ってたけど、少し言い出しにくい。
 俺だって、恭ちゃんが陸人さんみたいな人が好みだと知ってからは思い切り嫉妬したし、今でも兄貴のことは少し不安に思っている。
 でも、それは仕方のないことだと思うから、恭ちゃんが俺の交友関係にもやもやするのも悪いことじゃない。
 言葉だけじゃなくて、態度でも安心させられるように頑張っていかないと。
 改めてそう心に決め、安心してもらえるようにとまずは透と悠一のことを話した。
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