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2.空の飛び方を知らぬまま
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「わかりました、やります!」
「いい返事だね。サマラブのステージは中々経験出来る規模じゃないから、この緊張感を良い糧にしてね」
「鷺坂さん、大きいステージを経験させるのは良いと思いますけど、こいつまだ人前に立った経験がないのでそこからやってやらないと……」
「そう、のの君の言う通り! ということで藍ちゃんには宿題を出します」
真っ直ぐに音斗を見据える鷺坂の眼差しは、微笑みの形を作ってはいたが決して笑っているわけではなかった。何かを品定めする眼差し。以前のどかに言われた、鷺坂に利用されているという言葉を音斗は思いだしていた。
「この事務所から真っ直ぐ行ったところに大きな公園があるのはわかる?」
「あ、はい。時々弾き語りとかやってるとこですよね?」
「そうそう。あの公園ね、ちゃんと届け出を出して登録料払えば路上パフォーマンスしていいとこなんだよ。で、うちは事務所として登録してあるからあそこでパフォーマンスしてオーケーなわけ」
そこまで説明をされれば、鷺坂が何を言いたいかは音斗にもわかった。人前でパフォーマンスをする練習の場として、そこを使っていいという話なのだろう。
「例えば今から行っても出来るってことですか?」
「出来るよ。うちの事務所の子って証明が出来ればいいから、僕の名刺持ってってくれれば大丈夫。後は時間が決まってて、九時から十八時までの間なら自由に使えるよ」
普段のレッスンの時間との兼ね合いも考えなければならないが、これから夏休みとなり時間が増えることを考えれば毎日でも取り組みたい。真剣に考えている音斗の姿に、ここからが本題だと鷺坂は軽く手を叩いた。
「ただ漠然と路上パフォーマンスをしても意味がないから、藍ちゃんには宿題を出すよ」
「あ、そっか。まだ宿題の内容聞いてなかったですね」
「はは、話に前向きなのは良いことだから気にしないで。それで、藍ちゃんに出す宿題は、サマラブのKOTAのステージに自分のファンを一人でも呼び込むこと!」
軽い調子で放たれた、決して簡単ではない課題に音斗ものどかも息を呑んだ。
自分がメインでないステージに、たった一曲しか参加しない音斗を目当てに足を運ばせるなんて、中々現実的な話だとは思えなかった。
「この課題が出来なかったら、デビューもなしね」
続いた言葉には、今度は二人揃って絶句してしまう。固まった二人を見て、鷺坂は肩を竦めた。
「まぁ、簡単な話がサマラブの時点で藍原音斗という存在を応援してくれるファンを付けておいてほしいってことだよ。だから、SNSで藍ちゃんの名前を検索して、サマラブに参加して君のパフォーマンスを見てくれて発信してくれた人がいればそれでオーケー」
「それ」
口を開きかけたのどかへと、鷺坂は人差し指を立てて片目をつむって見せた。
「のの君は、まだアドバイス禁止。八月に入っても藍ちゃんが困ってるようならフォローしてあげて」
のどかは責めるような眼差しを鷺坂へと送ったが、口をへの字に結ぶとため息と共にソファの背もたれへ体を預けた。
「でも、藍ちゃんからの質問に答えるのはアリだよ。藍ちゃんが自分で考えて、のの君に教えを請うのは意味があるからね」
「はい!」
力強く頷いたものの、音斗の頬には歪な笑みが貼り付いている。自信はない。それでも、やらねばならない。
音斗はちらっと隣ののどかを盗み見た。折角手にしたこの場所を譲りたくない。
のどかの横顔に、音斗はその想いを強めるのだった。
「いい返事だね。サマラブのステージは中々経験出来る規模じゃないから、この緊張感を良い糧にしてね」
「鷺坂さん、大きいステージを経験させるのは良いと思いますけど、こいつまだ人前に立った経験がないのでそこからやってやらないと……」
「そう、のの君の言う通り! ということで藍ちゃんには宿題を出します」
真っ直ぐに音斗を見据える鷺坂の眼差しは、微笑みの形を作ってはいたが決して笑っているわけではなかった。何かを品定めする眼差し。以前のどかに言われた、鷺坂に利用されているという言葉を音斗は思いだしていた。
「この事務所から真っ直ぐ行ったところに大きな公園があるのはわかる?」
「あ、はい。時々弾き語りとかやってるとこですよね?」
「そうそう。あの公園ね、ちゃんと届け出を出して登録料払えば路上パフォーマンスしていいとこなんだよ。で、うちは事務所として登録してあるからあそこでパフォーマンスしてオーケーなわけ」
そこまで説明をされれば、鷺坂が何を言いたいかは音斗にもわかった。人前でパフォーマンスをする練習の場として、そこを使っていいという話なのだろう。
「例えば今から行っても出来るってことですか?」
「出来るよ。うちの事務所の子って証明が出来ればいいから、僕の名刺持ってってくれれば大丈夫。後は時間が決まってて、九時から十八時までの間なら自由に使えるよ」
普段のレッスンの時間との兼ね合いも考えなければならないが、これから夏休みとなり時間が増えることを考えれば毎日でも取り組みたい。真剣に考えている音斗の姿に、ここからが本題だと鷺坂は軽く手を叩いた。
「ただ漠然と路上パフォーマンスをしても意味がないから、藍ちゃんには宿題を出すよ」
「あ、そっか。まだ宿題の内容聞いてなかったですね」
「はは、話に前向きなのは良いことだから気にしないで。それで、藍ちゃんに出す宿題は、サマラブのKOTAのステージに自分のファンを一人でも呼び込むこと!」
軽い調子で放たれた、決して簡単ではない課題に音斗ものどかも息を呑んだ。
自分がメインでないステージに、たった一曲しか参加しない音斗を目当てに足を運ばせるなんて、中々現実的な話だとは思えなかった。
「この課題が出来なかったら、デビューもなしね」
続いた言葉には、今度は二人揃って絶句してしまう。固まった二人を見て、鷺坂は肩を竦めた。
「まぁ、簡単な話がサマラブの時点で藍原音斗という存在を応援してくれるファンを付けておいてほしいってことだよ。だから、SNSで藍ちゃんの名前を検索して、サマラブに参加して君のパフォーマンスを見てくれて発信してくれた人がいればそれでオーケー」
「それ」
口を開きかけたのどかへと、鷺坂は人差し指を立てて片目をつむって見せた。
「のの君は、まだアドバイス禁止。八月に入っても藍ちゃんが困ってるようならフォローしてあげて」
のどかは責めるような眼差しを鷺坂へと送ったが、口をへの字に結ぶとため息と共にソファの背もたれへ体を預けた。
「でも、藍ちゃんからの質問に答えるのはアリだよ。藍ちゃんが自分で考えて、のの君に教えを請うのは意味があるからね」
「はい!」
力強く頷いたものの、音斗の頬には歪な笑みが貼り付いている。自信はない。それでも、やらねばならない。
音斗はちらっと隣ののどかを盗み見た。折角手にしたこの場所を譲りたくない。
のどかの横顔に、音斗はその想いを強めるのだった。
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