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撫子の蜜
再会
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あの日と変わらない笑顔、
鮮明に焼き付いた最後の姿がそこにあった。
「かーくん?、落としたよ?」
あの日から毎日見返したLINEだって―――
「もしもーし?大丈夫?」
この香水の香りだって覚えている、だって一緒に歩いた時と同じ―――
「ッ!・・・わああ!ごめん!」
彼女の甘い香水の香りが分かる鼻の所まで、
こちらに顔を近づけていた。
絹のようにきめ細かいミルキーブロンドのミディアムヘアが揺れる。
こめかみから流れた毛先はアイロンコテで綺麗に巻かれ、
彼女のふわりとした雰囲気をより一層際立たせ、
その髪から覗かせる耳の大き目のイヤリングがトレードマーク。
低身長に華奢な体、
スレンダーな体躯に不釣り合いな程の豊満なバストの持ち主こそ
彼女―――七瀬瑠璃音その人である。
「はい、画面は割れてないみたいだし、気を付けて持ってね。」
そう言いながら彼女は、拾い上げたケータイ画面を軽く払うと、
居心地の悪そうなこちらの右手の甲をそっと掴み、
添えるようにケータイを乗せる。
「あぁぁ!ごめんッ!うっかりしてた!あ、ありがと!」
細い指と滑らかな感触が手首に伝わると、
思わず振り払うように両手を上げ、
おどけて見せてしまった。
彼女に動揺していることを悟らせたくなかった為に、
オーバーリアクション。
その反応に彼女は一瞬固まったように見えたが、
すぐにくすぐられるような満面の笑みを返してくれる。
「もう!おっちょこちょいなのは変わらないんだからぁ。
拾ったのが私でよかったね!」
「あ、うん。ほんと助かったよ。ごめんね・・・」
ずっと聞きたかった声で、ずっと顔を見たかった彼女が今、
目の前にいるのに、喉に針でも刺さっているかのようで、
言葉は途切れ漏れるようにしか出なかった。
「ううん、気にしないで。じゃあ、行くね、バイバイ!」
終始明るい彼女の声に戸惑う時間も猶予もなく、
待っていたであろうこちらを見ていた友達と合流し人混みに消えていく。
彼女に返事をすることも手を振ることもできず、
流れゆく民衆の中に立ち尽くすことしかできなかった。
――1週間前――
別れは突然だった。
恋人としての最後は笑顔で終わりを告げられ、
彼女との最後の言葉は、電話にてその恋は幕を閉じられた。
思い返せば、
別れだけでなく、付き合い始めたのも突然だったかもしれない。
友達が用意してくれた飲み会の席で、
初めて彼女に出会い一目惚れをした。
それまで一度も一目惚れなんてしたことは無く、
中身を知らずに人を好きになるなんて馬鹿な男がするものだと思っていた。
そんな固定概念が一般的な思考だとしたら、
馬鹿な男の中でも、自分は群を抜いた大馬鹿野郎に類するだろう。
大学で可愛い子がいると度々話題になるほどの美人。
人当たりもよく、誰もがうらやむ理想の女性。
そんな高嶺の花に一目惚れをした身の程知らずを見かねたのだろう。
友達が気を使ってくれて、「玉砕するなら早いうちがいい」
と向かいの席にわざわざ変わってもらい、
話す機会までを作ってもらって、連絡先を交換した。
飲み会のことは緊張と興奮で当時、何を話したかよく覚えてはいない。
向かいの席で細かく相槌を打ってくれて、
すぐに笑ってくれる瑠璃音との居心地の良さに、
飲み会の場であることを忘れる程、夢中になっていた。
それから毎晩電話をするようになり、
誘った1回目のデートで告白をした。
告白といっても雰囲気はおろかデートの内容も酷いものだった。
会話もろくに出来ず、ただ隣を歩く気まずい時間を過ごし、
その空気が耐えられず、
「絶対幸せにするからッ!俺と瑠璃音ちゃんが結婚するまで付き合ってくださいッ」
と夕方の人通りのある道端で勢い交じりの大声告白。
告白する心の準備どころか、まだ告白をするつもりもなかった口から出たのは、
あまりにちぐはぐな台詞と不格好な告白だった。
しかし、返って来た答えはまさかのOK。
恋愛経験ゼロ、童貞男の玉砕覚悟の告白は見事に実ったのである。
それから毎日連絡を取るようになり(返してくれない日もあったが)
デートを重ね(二回だけ)
これから長いラブストーリーが始まるかと思った矢先に
「ごめん、好きな人―――」
思い出したくない記憶が再びよみがえる。
端的に言うとフラれたのだ。
その日は夜まで放心状態。
別れ際に何か話していた気もしたが、
復縁に結びつくような言葉でもなかったし、真っ白な頭で覚えていない。
「はいそうですか」なんて聞き分けのいいカッコいい大人の男を演じれるわけでもなかった自分は
その日の夜に恥を承知で電話をかけた。
「ごめん。今日のこと・・・やっぱり考え直してほしいんだ」
何をどう考え直して欲しいかだなんて自分でも解らなかったが、
彼女との関係を、一分一秒でも繋ぎとめておきたかった言葉はそれしかなかった。
「言ったよね。好きな人ができた・・・って」
スマホ越しに返ってくる声は普段の明るい瑠璃音ではなく、
落ち着いた1人の女性の声だった。
「良くないところばっかりだったかもしれないけど。
俺、何が悪かったかな・・・
ほら、俺馬鹿だからさ・・・
言ってもらえると助かるんだけど・・ハハ・・」
震えた声を悟れらないように平然を装ってみるが、
渇き切った笑いに覇気が出ない。
「・・・悪いとかそういうのじゃなくてぇ、
単純に私がダメな女ってことだよぉ」
間を開けて返ってきた返答は普段の口調に戻っている。
「全部わたしが悪いから。かーくんは何も気にすることないよぉ。
なんかほんとごめんねぇ。」
「いや、なにも謝ることなんてないよ。
こちらこそ短い期間だったけど幸せだったし。」
嘘だ。
初めて彼女に嘘を言った。
謝ることしかないと思った、自分と付き合いながらほかの男と接点がない限り、
≪他の男を好きになる≫なんてことはありえないと思ったからだ。
それでも彼女を問い詰めなかったのは謝ってきた女の子に対して、
「もっと謝れ」なんて言えるほど、男として落ちぶれてることを恐れたからだ。
それ以前に最後になるかもしれないこの電話は、
謝罪を求めてかけたわけではない。
「もらった電話で悪いんだけどさぁ・・・
お願いがあるんだけど、いいかな。」
彼女を責めてしまいそうになる葛藤《かっとう》で言葉を詰まらせ
沈黙してしまった通話に瑠璃音は続けて願い出てきた。
「俺に出来る事ならなんでも!」
「友達として接しいの。
❝別れたからって全く無視❞みたいなのじゃなくて
ほら、共通の友達とかもいるしさ。周りに心配かけたくないっていうか・・・」
「そのくらいなら全然、俺も普通に話したいし!
なんならこの前約束した水族館だってまだ行ってないし来週とか―――」
「そうじゃなくて!」
決壊したダムにように滝のように溢れ出した感情は、
流れ出した言葉と共にはすぐさま堰《せ》き止められる。
「あくまで周りから心配されたくないだけだから。
連絡してきたり、大学で話しかけたりとかやめてほしいの。」
「あぁ!そういうことね!!。」
ん、今なんて?
空気がまた気まずくなるのを避けるため反射的に返事をしてしまったのだが。
『誰に心配?、フラれた自分を心配?、よく聞く話だよな。
ふった相手への罪悪感とかさ、気を使って社交辞令でとかの常套句《じょうとうく》に、≪友達としていてほしい≫は定番だけど・・・』
「お願い聞いてくれる?」
『周りの人?一番今関係のある受話器越しの俺ではなく、
周りの人の目を心配をしているか?』
動揺なのか、自分の恋愛素養がないからのか思考が纏まらない。
「えっと、つまりお願いっていうのは・・・」
「私に連絡とか話しかけるの、今後一切やめて欲しいってことなんだけど」
状況の整理も出来ず矢継ぎ早に告げられた完全否定の四文字。
脳内の混乱映像にでかでかとその言葉が明朝体の文字で表記され、
思わずスマホを落としそうになった。
代わりに落としたのはお膝。
何かの気の迷いかもしれない、
まだやり直せるかもしれない、そんな気持ちでかけた電話でまさかの拒絶。
もはや寄りを戻したいなんて会話に持っていける状態ではなかった。
大学デビューで出来た念願の彼女。
周りが口をそろえて言う【不釣り合いな美人彼女】
そんな嫌味すら鼻が高くなり、
幸せな人生がこれから始まると思った矢先の失恋。
短期間の付き合いでは大恋愛など胸を張ることも出来ず、
なんとも情けない恋は、たった2か月の愛をもって終了したのであった。
鮮明に焼き付いた最後の姿がそこにあった。
「かーくん?、落としたよ?」
あの日から毎日見返したLINEだって―――
「もしもーし?大丈夫?」
この香水の香りだって覚えている、だって一緒に歩いた時と同じ―――
「ッ!・・・わああ!ごめん!」
彼女の甘い香水の香りが分かる鼻の所まで、
こちらに顔を近づけていた。
絹のようにきめ細かいミルキーブロンドのミディアムヘアが揺れる。
こめかみから流れた毛先はアイロンコテで綺麗に巻かれ、
彼女のふわりとした雰囲気をより一層際立たせ、
その髪から覗かせる耳の大き目のイヤリングがトレードマーク。
低身長に華奢な体、
スレンダーな体躯に不釣り合いな程の豊満なバストの持ち主こそ
彼女―――七瀬瑠璃音その人である。
「はい、画面は割れてないみたいだし、気を付けて持ってね。」
そう言いながら彼女は、拾い上げたケータイ画面を軽く払うと、
居心地の悪そうなこちらの右手の甲をそっと掴み、
添えるようにケータイを乗せる。
「あぁぁ!ごめんッ!うっかりしてた!あ、ありがと!」
細い指と滑らかな感触が手首に伝わると、
思わず振り払うように両手を上げ、
おどけて見せてしまった。
彼女に動揺していることを悟らせたくなかった為に、
オーバーリアクション。
その反応に彼女は一瞬固まったように見えたが、
すぐにくすぐられるような満面の笑みを返してくれる。
「もう!おっちょこちょいなのは変わらないんだからぁ。
拾ったのが私でよかったね!」
「あ、うん。ほんと助かったよ。ごめんね・・・」
ずっと聞きたかった声で、ずっと顔を見たかった彼女が今、
目の前にいるのに、喉に針でも刺さっているかのようで、
言葉は途切れ漏れるようにしか出なかった。
「ううん、気にしないで。じゃあ、行くね、バイバイ!」
終始明るい彼女の声に戸惑う時間も猶予もなく、
待っていたであろうこちらを見ていた友達と合流し人混みに消えていく。
彼女に返事をすることも手を振ることもできず、
流れゆく民衆の中に立ち尽くすことしかできなかった。
――1週間前――
別れは突然だった。
恋人としての最後は笑顔で終わりを告げられ、
彼女との最後の言葉は、電話にてその恋は幕を閉じられた。
思い返せば、
別れだけでなく、付き合い始めたのも突然だったかもしれない。
友達が用意してくれた飲み会の席で、
初めて彼女に出会い一目惚れをした。
それまで一度も一目惚れなんてしたことは無く、
中身を知らずに人を好きになるなんて馬鹿な男がするものだと思っていた。
そんな固定概念が一般的な思考だとしたら、
馬鹿な男の中でも、自分は群を抜いた大馬鹿野郎に類するだろう。
大学で可愛い子がいると度々話題になるほどの美人。
人当たりもよく、誰もがうらやむ理想の女性。
そんな高嶺の花に一目惚れをした身の程知らずを見かねたのだろう。
友達が気を使ってくれて、「玉砕するなら早いうちがいい」
と向かいの席にわざわざ変わってもらい、
話す機会までを作ってもらって、連絡先を交換した。
飲み会のことは緊張と興奮で当時、何を話したかよく覚えてはいない。
向かいの席で細かく相槌を打ってくれて、
すぐに笑ってくれる瑠璃音との居心地の良さに、
飲み会の場であることを忘れる程、夢中になっていた。
それから毎晩電話をするようになり、
誘った1回目のデートで告白をした。
告白といっても雰囲気はおろかデートの内容も酷いものだった。
会話もろくに出来ず、ただ隣を歩く気まずい時間を過ごし、
その空気が耐えられず、
「絶対幸せにするからッ!俺と瑠璃音ちゃんが結婚するまで付き合ってくださいッ」
と夕方の人通りのある道端で勢い交じりの大声告白。
告白する心の準備どころか、まだ告白をするつもりもなかった口から出たのは、
あまりにちぐはぐな台詞と不格好な告白だった。
しかし、返って来た答えはまさかのOK。
恋愛経験ゼロ、童貞男の玉砕覚悟の告白は見事に実ったのである。
それから毎日連絡を取るようになり(返してくれない日もあったが)
デートを重ね(二回だけ)
これから長いラブストーリーが始まるかと思った矢先に
「ごめん、好きな人―――」
思い出したくない記憶が再びよみがえる。
端的に言うとフラれたのだ。
その日は夜まで放心状態。
別れ際に何か話していた気もしたが、
復縁に結びつくような言葉でもなかったし、真っ白な頭で覚えていない。
「はいそうですか」なんて聞き分けのいいカッコいい大人の男を演じれるわけでもなかった自分は
その日の夜に恥を承知で電話をかけた。
「ごめん。今日のこと・・・やっぱり考え直してほしいんだ」
何をどう考え直して欲しいかだなんて自分でも解らなかったが、
彼女との関係を、一分一秒でも繋ぎとめておきたかった言葉はそれしかなかった。
「言ったよね。好きな人ができた・・・って」
スマホ越しに返ってくる声は普段の明るい瑠璃音ではなく、
落ち着いた1人の女性の声だった。
「良くないところばっかりだったかもしれないけど。
俺、何が悪かったかな・・・
ほら、俺馬鹿だからさ・・・
言ってもらえると助かるんだけど・・ハハ・・」
震えた声を悟れらないように平然を装ってみるが、
渇き切った笑いに覇気が出ない。
「・・・悪いとかそういうのじゃなくてぇ、
単純に私がダメな女ってことだよぉ」
間を開けて返ってきた返答は普段の口調に戻っている。
「全部わたしが悪いから。かーくんは何も気にすることないよぉ。
なんかほんとごめんねぇ。」
「いや、なにも謝ることなんてないよ。
こちらこそ短い期間だったけど幸せだったし。」
嘘だ。
初めて彼女に嘘を言った。
謝ることしかないと思った、自分と付き合いながらほかの男と接点がない限り、
≪他の男を好きになる≫なんてことはありえないと思ったからだ。
それでも彼女を問い詰めなかったのは謝ってきた女の子に対して、
「もっと謝れ」なんて言えるほど、男として落ちぶれてることを恐れたからだ。
それ以前に最後になるかもしれないこの電話は、
謝罪を求めてかけたわけではない。
「もらった電話で悪いんだけどさぁ・・・
お願いがあるんだけど、いいかな。」
彼女を責めてしまいそうになる葛藤《かっとう》で言葉を詰まらせ
沈黙してしまった通話に瑠璃音は続けて願い出てきた。
「俺に出来る事ならなんでも!」
「友達として接しいの。
❝別れたからって全く無視❞みたいなのじゃなくて
ほら、共通の友達とかもいるしさ。周りに心配かけたくないっていうか・・・」
「そのくらいなら全然、俺も普通に話したいし!
なんならこの前約束した水族館だってまだ行ってないし来週とか―――」
「そうじゃなくて!」
決壊したダムにように滝のように溢れ出した感情は、
流れ出した言葉と共にはすぐさま堰《せ》き止められる。
「あくまで周りから心配されたくないだけだから。
連絡してきたり、大学で話しかけたりとかやめてほしいの。」
「あぁ!そういうことね!!。」
ん、今なんて?
空気がまた気まずくなるのを避けるため反射的に返事をしてしまったのだが。
『誰に心配?、フラれた自分を心配?、よく聞く話だよな。
ふった相手への罪悪感とかさ、気を使って社交辞令でとかの常套句《じょうとうく》に、≪友達としていてほしい≫は定番だけど・・・』
「お願い聞いてくれる?」
『周りの人?一番今関係のある受話器越しの俺ではなく、
周りの人の目を心配をしているか?』
動揺なのか、自分の恋愛素養がないからのか思考が纏まらない。
「えっと、つまりお願いっていうのは・・・」
「私に連絡とか話しかけるの、今後一切やめて欲しいってことなんだけど」
状況の整理も出来ず矢継ぎ早に告げられた完全否定の四文字。
脳内の混乱映像にでかでかとその言葉が明朝体の文字で表記され、
思わずスマホを落としそうになった。
代わりに落としたのはお膝。
何かの気の迷いかもしれない、
まだやり直せるかもしれない、そんな気持ちでかけた電話でまさかの拒絶。
もはや寄りを戻したいなんて会話に持っていける状態ではなかった。
大学デビューで出来た念願の彼女。
周りが口をそろえて言う【不釣り合いな美人彼女】
そんな嫌味すら鼻が高くなり、
幸せな人生がこれから始まると思った矢先の失恋。
短期間の付き合いでは大恋愛など胸を張ることも出来ず、
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