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涙
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秋川さんは、収容されたばかりの猫たちのいる部屋を出ると、通路の途中でふと立ち止まりました。
通路の奥には、埃の積もったステンレスの箱と灯りの消えた機械室がありました。
わたしには、すぐにこれがカラスの言っていた恐い箱なのだとわかりました。
わたしは悲しみに耐えられなくなりました。
行き場がない動物たちがこの世を去るために、最後に入る場所がこんな埃まみれの箱だなんて……。
秋川さんは何を思ったのか、IDケースから落ち葉のわたしを出し、ナナフシの開けた穴に目をあてました。
「魔法の葉っぱさん。世間では、ドリームボックスって言われているこの処分機を、今すぐに消してくださいな」
わたしだって、こんな汚れた箱なんか、すぐさま消してしまいたいと思いました。
あの子猫たちのために。
ここに収容されている動物たちのために。
生きてそこにいるだけで人間たちに邪魔者扱いされる生き物全てのために。
でも、悔しいことに、わたしはただの落ち葉であって、魔法の葉っぱではないのです。
処分機は埃をかぶったまま、わたしと秋川さんの前に、冷たく存在し続けていました。
秋川さんは、深く、ため息をつきました。
「処分機のスイッチを押したことのある手はね、どれだけ洗っても、もう、手の汚れは落ちないのよ」
秋川さんのほおを、涙がひとすじ伝います。
「助かる命と助からない命を選ぶなんて、そんなことできる資格なんて、だれにもないのに。それなのに、私は選ばなければならない。センターで受け入れることのできる動物の数は、限りがある。そうなると、重い病気や怪我、老齢で里親探しがむずかしいこから、この箱に入れなければならなくなる。そういうこはね、どこにも行く場所がなくて、センターの中でしか生きていけないのに……。そのこたちの命をここで守ってあげたいのに……。私は、動物が好きで、動物の命を助けたくて、獣医師になったのに、それなのに……」
わたしをゴミ置場からセンターに連れてきたカラスの言ったことは、紛れもなく真実だったのです。
「身勝手な人間のすることは、おれらだけじゃない、同じ人間の仲間も苦しめているんだぜ。おれらの苦しみを、そのまま人間の仲間に丸投げして、自分は知らんぷりなんだ」
本当に、本当にその通りでした。
通路の奥には、埃の積もったステンレスの箱と灯りの消えた機械室がありました。
わたしには、すぐにこれがカラスの言っていた恐い箱なのだとわかりました。
わたしは悲しみに耐えられなくなりました。
行き場がない動物たちがこの世を去るために、最後に入る場所がこんな埃まみれの箱だなんて……。
秋川さんは何を思ったのか、IDケースから落ち葉のわたしを出し、ナナフシの開けた穴に目をあてました。
「魔法の葉っぱさん。世間では、ドリームボックスって言われているこの処分機を、今すぐに消してくださいな」
わたしだって、こんな汚れた箱なんか、すぐさま消してしまいたいと思いました。
あの子猫たちのために。
ここに収容されている動物たちのために。
生きてそこにいるだけで人間たちに邪魔者扱いされる生き物全てのために。
でも、悔しいことに、わたしはただの落ち葉であって、魔法の葉っぱではないのです。
処分機は埃をかぶったまま、わたしと秋川さんの前に、冷たく存在し続けていました。
秋川さんは、深く、ため息をつきました。
「処分機のスイッチを押したことのある手はね、どれだけ洗っても、もう、手の汚れは落ちないのよ」
秋川さんのほおを、涙がひとすじ伝います。
「助かる命と助からない命を選ぶなんて、そんなことできる資格なんて、だれにもないのに。それなのに、私は選ばなければならない。センターで受け入れることのできる動物の数は、限りがある。そうなると、重い病気や怪我、老齢で里親探しがむずかしいこから、この箱に入れなければならなくなる。そういうこはね、どこにも行く場所がなくて、センターの中でしか生きていけないのに……。そのこたちの命をここで守ってあげたいのに……。私は、動物が好きで、動物の命を助けたくて、獣医師になったのに、それなのに……」
わたしをゴミ置場からセンターに連れてきたカラスの言ったことは、紛れもなく真実だったのです。
「身勝手な人間のすることは、おれらだけじゃない、同じ人間の仲間も苦しめているんだぜ。おれらの苦しみを、そのまま人間の仲間に丸投げして、自分は知らんぷりなんだ」
本当に、本当にその通りでした。
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