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第一部 神殺しの陰謀 第三章 神殺しの罪人

霧の神ムンムIV

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 ムンムのお腹に開いた大穴からはコキュートス河で倒れこんでいる田村丸たちが見てとれる。このまま、動かないでくれと神にも祈る思いであったが、口を開いたのは大穴の空いた体であった…。

 「久々に弟トールの雷を浴びた気分だ。やはりお嬢さんの力は神に等しき力だったね。」
 
ムンムには似つかわしくない優しい口調で語りかけてくる。

 「ロキさん…ですか。」
 「あぁ、でも長くは持たない、先ほどの攻撃でムンムが少し損傷したことでその隙をついて出て来られた。時間もないから手短に…、ムンムはこのままでは倒せない、逃げるんだ…。」

 体を乗っ取られていたからわかるのであろう…、大穴があいたとしてもムンムには致命傷にならないといったことが。

 「意識が…、最後の力で…。」

 ロキは指をパチンと鳴らし、今まで自分がつながれていた場所まで瞬間的に移動した。
 そして、ロキは少し何かに抵抗するそぶりを見せたが、ダメだった様だ。

 「忌々しい自我だ…。まだ出てこようとするか。ロキと何を話したかわからんが、お前達の敗北は決まっている。持って生まれたものを恨め。」

 ムンムはもうなりふり構っていられないと悟ったのであろう。短剣ではなく、巨大な大剣を作り出した。

 共生関係にない自我は相手との情報共有ができない様であった。ロキの話した事が伝わっていないのは好機といえる。

 大剣は緑に近い青色をおび、象形文字で何かが彫られている。彫られている文字の意味はわからないが、その文字によってその剣が禍々しいオーラを放っているのがわかる。

 「私の混沌の探求の成果をお見せしよう。メンタル体すら破壊するこの大剣でな!」

 ムンムは大剣を軽々と振りこちらを睨みつけながら近づいてくる…。

 その禍々しい大剣は枯れた彼岸花の花と茎を切り裂き、次はお前達だと言わんばかりに威圧感をはなった。

  その禍々しい大剣により切り取られた彼岸花はまるで正気を吸い取られたかの様に色を失い、消滅した。

 「東雲さん、あの武器はヤバそうですね…。なんと言うかもう、見た目からして…。」
 「あぁ、言われなくてもわかる。しかし、仕組みが気になるな…、どういう原理で消滅させているのか…。」
 「東雲さん、今はそれどころじゃないですよ。」

 目の前に現れた未知に対してまたもや、心が躍った…、ムンムに触発されてしまったのだ。純粋な探求者としての心を。
 そして、千暁の言うことはごもっともである、今はそんなことを考えている余裕はない。

 「千暁さんは雷を打ち続けて、牽制をたのむ。あの大剣の間合いに入ったらおしまいだ。」
 「わかりました。まだまだ、気力は充実しているので大丈夫です!」

 千暁の消耗が激しいことは目に見てわかる…。しかし、田村丸たちをなんと守ろうと奮起し、痩せ我慢しているのだ。
 ムンムもその事を理解しているのであろう、今は甘んじて雷を受けつつ、こちらが疲弊するのを待っている。

 「日出、千暁さんたちを連れてここから脱出してくれ…。」
 「東雲さんは…。わかりました…。」

 日出は一つの疑問を呈そうとしたようであったが、私の表情を見て話をやめた。そして、日出は手に持つレメゲトンを高速でめくっている…。

 「千暁さん、マシンガンの様に小さな雷を打ち出す事は可能か?」
 「まだいけます。」

 千暁の表情から限界も近そうだ…、日出が最終手段を見つけるまでの時間稼ぎ…、それでもだめなら…、私には考えがあった。

 「千暁さん…、このまま打ち続けてくれ。無理をさせる様で悪い…、私に一つ案がある…。」
 「わかりました。東雲さんに任せます。」

 千暁は力を振り絞り、雷の弾幕を張り続ける。その顔には苦痛の色が前隠れしている。

 「日出どうだ…。」
 「交渉中です…。」

 ゆっくりと近づいてくるムンム…、その余裕からか歩みは遅いがもう大剣の間合いに入るまでそう時間はない…。

 「日出、あとは任せたぞ。」
 「…。」

 日出はやはりどこか私のやろうとしていることに気がついている様だ…。しかし、そうしなければムンムからは逃げられないという事もどこか理解できている様である…。

 「ムンム、そろそろ終わりにしよう…、私が相手だ!」
 「人間風情がどう足掻いたところで無駄だ。我が贄となるが良い。」

 私は武器も持たずに一心不乱にムンムに向かって走り始めた。ヘイムダルの兜を再度被り、皆に恐怖した顔を見せぬ様に…。

 「「東雲さん!」」
 日出と千暁が叫ぶが、私には聞こえない…。
 身体を大剣が貫く…その感覚しか感じない。
 
 なんと静かなんであろうか…、知覚遮断をされているせいなのか…、アストラル体を吸収されているからなのだろうか…。今は心地が良い…。

 私は体から大剣が抜けない様にしっかりと押さえつける…。
 大剣が私のアストラル体を吸収していく様子がわかる…、力が抜かれていく…そんなものではなく、地面に水が染み込む、そんな感じである。
 
 「バティン、我が声に応えよ!」

 日出のその声に反応するかの様に、体長ニメートルはあるかと思われる、屈強な男が、ヨレヨレの馬に跨り召喚された。
 服は蛇が這い回っているかの様に不気味に蠢いている。

 「主人よ…、なんなりと。」
 「私たちをこの八寒地獄から抜け出させてくれ。」

 バティンは声を上げ、馬に再度跨ったと思った時には、地獄の入り口に突っ立っていた。

 そこには東雲だけ姿はなかった…。

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