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第一部 神殺しの陰謀 第三章 神殺しの罪人

霧の神ムンムIII

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 トール王の従者たちは満身創痍であり、事は急を要する。しかし、目の前に私たちをあざ笑うかのように立ちふさぐムンムを何とかしないと事には…、そんなことが頭をぐるぐると回る。

 「無駄ですよ。人が神に抗おうなど、愚の骨頂です。」

 ムンムはそう言いながらも何かを警戒しているのか様で私たち一定の距離を保ち続ける。しかし、田村丸はムンムの目と鼻の先だ…、ムンムをにらみつける田村丸に笑みをこぼしながら近づいていく。

 田村丸は威勢だけでムンムにとびかかるが、ムンムは意に介さず、田村丸が落とした刀にムンムは手をかざす。

 「あなたに斬られた分に対して、お釣りが出るくらいの良いアストラル体を吸収させてもらいました。お礼をしないといけないですね。」

ごちそうさまと言わんばかりの笑みで、その刀を消滅させ自分のアストラル体へと取り込んだ。
 手に持った短剣で田村丸の首を狙い、大ぶりに手を振り下ろす。

 その瞬間、周囲の霧が一瞬吹き飛ばされた。音速の壁を越えたかの様な衝撃音、破裂音が響き、ホルスの腕には田村丸とマードックが抱えられていた。

 「これは奥の手です…。ほとんどのアストラル体を使ってしまうので王様にしか見せた事はなかったのですが…。後は任せます。」

 ホルスは最後の力を振り絞り2人を抱えコキュートスまで飛んで行ったのだ。そのホルスの背中には巨大な翼が生え揃い、低空飛行まるで弾丸のようなスピードで駆け抜けたのだ。

 ホルスには立派な翼があったのだ…今までは隠していたのであろう…。

 翼で空を飛び回る…私と日出も過去にやったことがあったがアストラル体の消耗が激しい…人ほどのサイズの者を浮かせるのにはかなりの労力がかかる。

 田村丸、ホルス、マードックの従者三人でもムンムには敵わなかった。王様の精鋭である三人だ…、やはり神は別格なのであろう。

 そんな者を本当に殺せるのか…、私は考えてはいけなかったその疑問を持ってしまった…。

 「ホルスさんの邪魔はさせません。」

 千暁は大斧をムンムの方に向け、全身に力を込めた。
 一瞬、大斧のアストラル体に乱れを感じたのち一つの閃光が突き抜けた。

 光の速度と同じ速度で突き進む閃光は解き放たれた雷であった。麒麟の角の能力からか雷は千暁というエネルギーをため込み大斧という神器から射出されたのだ。
 その雷はムンムの体を掠め取り、霧に吸収された。
 
 「そうか…電気か…。光の速度と同じ速度で進む電気であれば、あいつの霧化がいくら早かろうと、対応できまい。千暁さん、今の攻撃を続けてくれ。日出、この霧を完全に吹き飛ばせるくらいの悪魔を呼び出せるか?」

 一つの光明が見えた…。相手がいかに速かろうが、電気と対等に渡り合えるのは、光くらいであろう。霧…といえど構造は水だ、電気を浴びれば帯電する。奴の霧が真水でなければ勝ち目はある。

 「忌々しい、マルドゥークと同じ嵐か!クソ…この体でなくトール奴の体を奪えていれば、私は無敵であった。」

 ムンムは焦りを隠せなくなって来た。受けた損傷を治すのに専念するために、自らが作り出した霧すら維持できなくなって来た様だ。

 「たのむ…、フュルフュール我が呼び出しに答えてくれ。ぇ、対価?今はそれどころじゃないんですよ。はい、ぇ?お願いしますよこの通り、この通りです。」

 日出は目的の悪魔を見つけた様であったが、どう見ても話し合いが難航している様であった。

 その間にも千暁による集中砲火が続く。光の速さは光と感じた瞬間にはもう体を貫いており、ムンムですら甘んじて受けている。
 しかし、致命的な一撃にはなっていない…ムンムの圧倒的なアストラル体量からすると蚊に刺されている程度なのかもしれない…。

 私は状況を俯瞰するように周囲を見渡す…。
 こちら側の状況としては、トール王の従者3人はもう戦闘に復帰することはできない…、私たち3人で何とかするしかないということは明白であった。

 相手の状況としては、ムンムの周辺に複数の少し大きめのアストラル体が点在しているように力場を感じる…。
 千暁の放つ大きなアストラル体の塊はその点在しているアストラル体にうまく誘導される様に徐々に散らされている、ムンムに届く頃には雷の力が弱まっている。

 「千暁さん、相手は避雷針の様にアストラル体を使っている。だから致命傷になっていないんだ。」

 今見た現象を的確に表現して千暁に伝えた。
 しかしその避雷針をどうにかする手立ては今のところ何もない。
 
 「はい、わかりました。請求は王様宛と言う事で。はい、大丈夫でーす。お願いします。」

 まるでテレビショッピングで何かを買ったかの様な日出の話ぶりからフュルフュールとの話がついたのだと分かった。

 レメゲトンが光り輝き、フュルフュールが姿を現した。
 美しい牡鹿の顔を持ち、力強く伸びた角。そして人としての体と鹿としての下半身が合わさった様なその姿には悪魔であると思いださす様に大きな翼が生えている。

 「久々の呼び出し先がここ…地獄とはな…。命令はなんだ。」
 「フュルフュール、来てくれてありがとう。目の前のあいつをやっちゃって下さい。」
 「神殺しロキではないか…。私の力では神殺しは不可能だぞ。」
 「ぁ、大丈夫です。ロキの体を奪った、悪い奴なんで…、適当に嵐をぶっ放しちゃって下さい。」

 フュルフュールも目の前にいるロキの姿に困惑の色を隠せない様であった。しかし、召喚されて対価も払ってもらうと言う契約で来たためし、何もしないで帰ることはできない。それほど悪魔に取っての契約は重いのだ。

 「フュルフュール、あいつの周りの霧を払いのける事はできますか?」

 私は呼び出されたフュルフュールならあの避雷針をなんとかできるのではないかとお願いした。
 しかし、フュルフュールは見向きもせず、耳も貸さなかった。悪魔にとっては契約者が絶対なのであろう。

 「日出、フュルフュールに頼んでくれ!」
 「フュルフュール、あいつの周りの霧吹き飛ばせますか?」
 「そんなこと造作もない…。雷、嵐なんざぁお手のものだ。」

 フュルフュールは台風の目の様になり、周囲の風を巻き込みながら巨大な嵐を起こした。
 その嵐により視界は奪われてしまったが、とてつもなく強大な力を前に一歩も動けない。

 「嵐…忌々しい。」

 嵐を前にムンムも耐えるので必死な様だ。
 次第に霧は晴れムンムの姿が顕になった。

 「フュルフュール、ありがとう。」

 日出はフュルフュールに契約は履行されたことを伝えて、フュルフュールをレメゲトンを通して元の場所に帰らせた。

 「ムンム、お前もこれでおしまいだ。」
 私がそう言うのに合わせた様に、千暁から閃光が迸る。
 
その雷光はムンムを貫き、ムンムのお腹に大きな大穴を開けた。

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