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第一部 神殺しの陰謀 第三章 神殺しの罪人

変化の時

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 投げられた角は周囲の空間全てを飲み込むように鼓動した。そして、その鼓動が止んだ時には角は鈍く光り始め、美しかった角はどす黒く、まるで怨嗟を凝縮したかのような様相に変貌した。

 先程までおぼろげに感じていた空間に漂っていたメンタル体の影も形もなくなり、先ほどと同様の空気感が漂っている。

 「成功だ。全て角に封じ込めることができたぞ。」
 「やりましたね、東雲さん!」
 「あとは…、それをロキさんに…。」

 ステップ1としては成功だったが、素直に喜ぶ事はできなかった…。これから対応することは、全人類の恩人とも言える大罪人に仇を返すような物なのだ…。
 
 私の表情は喜びの表情ではなく、悲しみの表情に支配されていた。

 「優しいな…。気にする必要はない、これが私の運命なのだ…、輪廻が回ればいつかまた会える…ここでの縁は忘れない。」

 ロキはそう言って口にその角を入れろと言わんばかりに開き、私たちの方をじっと見つめている。

 「ロキさん、王様に何か伝えることはありますか?」

 千暁はその姿に何かを感じたのであろう…、居ても立っても居られず声をかけた。
 その声はこの幽閉されている場所に響きわたる…。

 「そうだね…、じゃあこう伝えてくれるかな?」

 ロキは満面の笑顔で私たちに次の様に伝えてくれと残した。

 ”兄貴は私、それは譲れない。”

 その最後の言葉には全てが詰まっている…、今まで王様と過ごした、日々。
 そして、出会ったの日のことも忘れない、ずっと見守っているぞ。
 そんな意味が全て込められている。

 その言葉を伝えるとロキは私たちにありがとうと残し、再び大きく口を開けて、私たちの決意が固まるのを待った。

 「日出、千暁さん。大丈夫、ここは私がやる。」

 日出と千暁は動けなくなっていた…。私もそうだ…正直言ってやりたくなかった…今でも他の方法があるのではないかと考えているくらいだ。しかし、無知は罪…、何も浮かばない…。

 私は変色した角をつまみ上げ、ロキの繋がれる場所まで一歩一歩を踏みしめながら歩いた。

 彼岸花はロキに安らぎを与えるかの様に、私が一歩動くたびに優しく揺れる。

 大きく開けた口のロキの前に立ち、深呼吸をする。今から行う仕打ちを許してくれと言わんばかりに私は目を瞑った。
 
 目を開けるとロキは優しい笑顔をこちらに向けていてくれていた。口は大きく開けたまま、目尻だけが下がっていた。

 私はロキの口にその変色した角をゆっくりと置いた…。
 ロキはそれを喜んで受け入れる様に口を閉じた。

 そこからの光景は見ていられなかった。自我が混ざり合い、争い、時には別の自我が出てくる。
 叫び、悶える…、その度に枷は容赦なくロキの手足を傷つける。

 叫ぶ、叫ぶ、静かになったと思ったら、叫ぶ、この繰り返しであった。
 ロキの体からはアストラル体の粒子が水蒸気の様に噴出している、全てを拒絶するかの様に。吹き出るエネルギーで崩壊しないように。

 私たちはただ指を咥えて見ていることしかできなかった。噴出するアストラル体はロキの周囲にあった彼岸花をみるみる変化させている。

 ロキの苦しみを表現するかの様に、彼岸花は刺々しく、他人を傷つけるかの様に鋭く変貌している。

「東雲さん…。」
「耐えるしか無いんだ…。私たちは無力だ…、無知だ…。この事を心に刻みつけるんだ…。」

 私は唇を噛み締め、グッと堪えた。何もできない自分に腹を立てながらも…。
 
 「癒すものがいれば…。」
 「そうだな…。今はないものねだりでしかないが…、癒すものがいればと私も思うよ。」

 日出もいたたまれない様子であった。そして、何かを考えていないと目の前の光景を見ていられなかったのは、私も一緒だ。

 丸たちも静かにロキの姿を心に刻んでいた。
 ホルスが羨ましかった…、目の前の光景を物理的に見なくて良いのだから…。しかし、ホルスは目の者、アストラル体の変化は感じているのであろう…、顔色があまり良くない。

 私たちはひと時も目を離さなかった…、それを見届けるのが使命であると感じたからだ。
 次第にロキも落ち着きを取り戻し始め、過呼吸気味にはなっているが、叫び声を上げることは無くなった。

 「ロキさん…。聞こえていますか?」
 私は項垂れ、動かなくなったロキに声をかけた。

 「やっと芽吹いたか…。どれほど待った事か…。」

 先程のロキとは打って変わって、不気味な気配がロキから立ち込めた。

 「忌々しい、何人たりとも私を拘束するなど…。」

 ロキはそう言うと、腕に嵌められている枷を思い切り引っ張り鎖をちぎった。
 鎖は地面に落ち、不気味な金属音を響かせる。

 「忌々しき、ロキめ…、私を殺した事を後悔させてやる、この体を使ってな。」

 今までに感じたことがない寒気のする気配が私たちを包み込んだ。
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